25 狼藉者の罪
「歯磨きが好きなのか? リアは変わった竜なんだな」
「りゃむ!」
それから俺は風呂場に向かって服を脱ぐ。
「ぐる~」
「ごめん、グルル、少し待っててくれ」
「ぐる」
風呂場に入れないグルルが悲しそうに鳴いていた。
俺は急いで顔を洗い体を洗い髪の毛を洗う。
「りりゃあ!」
「はい、リアもな」
「がう!」
「ガウもか」
リアとガウも洗って欲しいらしく、風呂場に入ってきたので、一緒に洗う。
「こう、お湯で体を洗うとスッキリするな!」
千年前は【物質移動】で体をきれいにしていたが、お湯できれいにするのも気持ちのいいものだ。
「りゃ!」「がう!」
「あとでグルルも洗ってあげよう」
「――――ぐる~」
呟いただけなのに、聞こえていたのか遠くからグルルの声が聞こえた。
「体や髪を洗うのに最適な匂いもありそうだな……」
俺は風呂場から出ると【物質移動】で一瞬で体と髪を乾かした。
リアとガウの体も一瞬で乾く。
「もう少しに匂いのバリエーションを増やしておこう」
俺はハーブの匂いを組み合わせて、沢山の種類の石鹸を作ったのだった。
次の日、俺は子供たちに魔法を教えたあと、また留守番を頼んで王都に出かけることにした。
「ぐる……」
「ごめんな。昨日の襲撃者の情報を調べないといけないんだ」
「ぐるる……」
そして、子供たちにも注意事項を伝える。
「タルホもみんなも、留守番中はあまり離れないようにな」
「わかった!」
「怪しい奴がきたら、家の中に入って、鍵を閉めてくれ。鍵はここをひねれば閉められる」
「ふむふむ。わかった!」
「強化済みだからな。多少の魔法をうけてもびくともしないから怖くないぞ」
「わかった!」
「グルルも怖くないからね」
「ぐる~」
「ガウ。グルルと子供たちを頼んだよ」
「がう」
そして、俺はリアを抱っこして王都に向かった。
最初に向かうのはやはり冒険者ギルドだ。
ギルドの建物に入ると、冒険者が数人いた。
俺を見つけたギルバートが、受付の向こうから走ってくる。
「おお、ルード! 見てくれ!」
「どうした?」
「生えてきたんだ!」
ギルバートは嬉しそうに大声でそう言うと、自分の頭を指さした。
きっと、大声なのは、錬金薬の宣伝もかねてくれているのだ。
ありがたい話だ。
「おお? 昨日の今日で、もう効果があったのか?」
だから俺も大きめの声で返事をする。
「ああ、効果が凄いな。さすがは錬金薬だ」
「よく見せてくれ」
頭皮を確認すると、たしかに産毛のような物がびっしりと生えていた。
「おお、いい調子だな。痒みや痛みは?」
「今のところ無いぞ!」
「そうか、異変を感じたら、すぐに報告してくれ」
「わかった!」
無事効果を発揮したようで良かった。
「もし、頭髪に悩みを抱えている者がいたら、俺の薬のことを教えてもいいぞ」
「おお! 錬金術の普及のためだな。任せろ!」
冒険者たちはヒールポーションを使ったので、錬金薬の効果を知っている。
だが、冒険者たちの依頼人はまだ知らないのだ。
発毛剤兼育毛剤は見た目が変わるので、周囲に効果がわかりやすい。
もし、馴染の冒険者の頭髪が急に生えてきたら、依頼人たちも気になるはずだ。
そこから口コミが広がれば、錬金術の普及にも繋がるというもの。
地道だが、効果はあると信じたい。
頭髪の話を終えると、ギルバートが尋ねてくれる。
「それで、ルード。俺の頭髪をチェックしに来てくれたわけではないんだろう?」
「そうなんだ、実はだな。昨日――」
俺は家を襲撃されたことを報告した。
「子供たちに危害を加えようとし、それを守ろうとしたグルルとガウに暴行。そのうえ家に火を放つ……か」
「ギルバート、この場合はどういう罪になるんだ?」
俺はこの時代の刑法には詳しくないのだ。
千年前ならば、縛り首でもおかしくは無かった。
「王都内で放火したら死刑だが……王都の外だからな。この場合どうなるんだ?」
ギルバートでも判断が難しいらしい。
「中と外では違うのか?」
「街や村の中の建物に火をつけたら当然犯罪だ。だが、外の建物は、建物と認められるかどうか」
「どういうことだ?」
「えっとだな……」
ギルバートが言うには、法的に街や村の外は人が住む場所ではなく、建造物が財産として認められるか微妙らしい。
「冒険者的にわかりやすく説明するとだな。オークやゴブリンの家を焼いたら罪になるのかと言う話だ」
「いや、だが、それは……人族が建てた物と、それ以外のオークやゴブリンが建てた物は違うだろう?」
千年前は少なくともそういう考えだった。
そのとき、受付の奥にいた少女がびくりとした。
そしてつかつかと歩いてくる。
「ルードさん。魔族が建てた物はどうなると思いますか?」
「君は?」
「ギルド職員のアイナです。そして魔族です」
「りゃ~」
リアがアイナを見て首をかしげた。
「……すまない。無神経だった」
俺の発言は人族を特別視するものだ。
まるで魔族の建てた物は、壊しても燃やしても構わないと捉えられかねない発言だった。
いや、俺の内心に人族以外を差別する心が無かったとは言えない。
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