24 石鹸の製造
「一番は国王陛下になんとかしてもらうことなんだが……」
「それはさすがに……」
「まあ、そうだな」
だが、カタリナを通じて願うことは不可能ではない。
「とりあえずは情報収集からだ。あとは任せてくれていい」
「ありがとうございます」
それから、俺は村長たちと子供たちと一緒に集落へと向かった。
リア、ガウ、グルルとも一緒だ。
「ルードさんの作ってくださった壁があったから、集落が狙われなかったのかも知れませんね」
「ああ、そうか。その可能性もあるな」
壁で囲われていると、手を出しにくいのは間違いない。
「門も少し頑丈にしておこう。普段は閉めておくのもいいかもしれないな」
「ですが、その場合、出入りが大変になってしまいます」
「そうなんだよな……。常に門番を置くわけには行かないし……」
難しい問題だ。
「とりあえず、門を強化しておこう。門を強化する事自体は悪いことは無いからな」
「お願いします」
俺は門に錬成陣を描いて、強化した。
「あとは家屋の耐火だな」
一軒一軒に錬成陣を描いて、耐火の効果を付与していく。
集落に家は三十軒程度しかないので、あっというまに終わる。
「家屋は燃えにくいが、家具は燃えるから気をつけてくれ」
「わかりました」
「燃えにくいのであって、絶対燃えないと言うわけではないし」
「はい! ありがとうございます!」
俺が村人たちに注意事項を述べている間、グルルは大人しくしている。
そんなグルルと子供たちが楽しそうに遊んでいた。
その姿を見て、老人たちも微笑んでいた。
それから俺はリア、ガウ、グルルと一緒に家へと戻る。
そして、グルルの家を再建し、火炎耐性加工だけでなく、魔法耐性加工も施したのだった。
夜ご飯を食べたあとは石鹸作りだ。
明日、狼藉者についてギルバートに相談するついでに、ヨハネス商会に寄って石鹸を卸そうと思ったのだ。
錬金工房に入り、机の上にヨハネス商会でもらってきた各種石鹸を並べる。
「りゃ!」
リアが嬉しそうに石鹸をペチペチ叩く。
ガウは俺の邪魔をしないようにと気を使ってくれているのか、少し離れたところで大人しく伏せをしている。
「石鹸は匂いが大事だからな」
「ぐるる~」
グルルは錬金工房のドアを半分開けて、鼻だけ突っ込んでいる。
「動物性脂肪が臭いんだな」
「ぐる」
俺が何か独り言を呟く度に、グルルが返事をしてくれる。
「植物性の脂肪を使えば、悪臭はましになるが……高価になると」
植物性の脂肪を使って、灰も悪臭がしない物を使えばいい。
そして香料をまぜればいい匂いがする石鹸の完成だ。
「だが、それだと香料以外、既にある髪の毛用石鹸と同じなんだよな」
「ぐる!」
「りゃ?」
リアが嫌な臭いのしない髪の毛用石鹸にがぶっとかぶりついて、グルルが慌てていた。
「リア。食べたら駄目」
「べっべっ」
当然のように不味かったらしく、リアはえずいていた。
「リア、水で口をゆすぎなさい。身体に良い物じゃないからね」
「ぐぶぐぶぐぶ……りゃぁ~」
ボウルに入れた水の中に顔を突っ込んでぶくぶくしたあと、リアは悲しそうに鳴いた。
そして俺のお腹にぎゅっと抱きついた。
不味い物を口にして、悲しくなったらしい。
「……なんでも口に入れたらダメだよ」
「りゃあ~」
「でも、赤ちゃんだから仕方ないか……む?」
赤ちゃんがなんでも口にするのは竜も人族も同じだ。
「今の悪臭がする石鹸ならともかく、いい匂いの石鹸を作ったら、誤飲事故が増えそうだな」
味を不味くする必要がある。
「いや、それよりも体に無害にすればいい」
傷口を洗える石鹸。口の中を洗える石鹸。
髪や体も洗えて、食器も服も洗える石鹸。
それを一つに、まとめることは錬金術にしかできないだろう。
「味はまずくなくていいが、口の中を洗えるように、無味にしよう」
絶対に甘みを感じることのないようにしよう。
子供がおやつがわりに食べないようにだ。
体に害のない素材を選ぶ。
調理にも使われる油を使い、多少食べても大丈夫な灰を作る。
「素材を錬成陣と魔法陣を使って変性させて……」
分子構造や分子組成を変える【物質変換】を使う。
消費魔力の多い術式だが、錬成陣があれば、多少ましになる。
物体の三態を変化させる【形態変化】の術式を使って、錬金石鹸を作っていく。
錬金石鹸は少し粘性のある液体にした。
匂いは花の香りと、柑橘系の香りの二種類を用意する。
「これで完成だな」
「りゃ!」
「食べたらだめ」
そういいながら、俺は錬金石鹸を口に入れる。
「りゃー!」
一人で食べてずるいとリアが抗議をするが無視をして飲み込んだ。
害はないはずだ。
「美味しくはないな」
洗面所に移動し、錬金石鹸で歯を磨いた。
「おお、これはさっぱりしていいな。歯磨き用には別の匂いをつけてもいいかもしれない」
「りゃ~」
「リアも歯を磨くか?」
俺はリアの口に錬金石鹸を近づける。
「りゃむ……べー」
「あー、全部出しちゃったか。でもまあ、ブラシにつけて……」
「りゃぃりゃぃりゃぃ」
ブラシを噛もうとするリアの牙を避けて、牙を磨いていった。
「はい。リア、くちゅくちゅぺって」
「べー」
リアは素直に言うことを聞いた。





