23 襲撃時の聞き取り
昼間集落に残っているのは、仕事が休みの者とタルホたち子供、そして老人と怪我人、病人である。
今日は特にみんな出払っていた。
昨日、魔王軍の襲撃があったせいで、沢山仕事があったからだ。
「老人では消火の準備をするのにも手間取り……」
「わかるぞ。水が重いんだよな……道具も重たいし。急いで動こうとすると息が切れる」
「ルードさんは、お若いのによくおわかりですね」
「ああ……。よくわかるよ。無理したらひざや腰が痛くなるしな」
今でこそ、俺は若いが元々百歳を越えていたのだ。
老化の辛さはよくわかる。
「遅くなって、申し訳ありません」
だから、駆けつけるのが遅くなったと、村長は改めて頭を下げた。
老人しか残っていないなら、魔導師を含んだ武装した狼藉者とは戦えない。
消火活動も難しいだろう。
「いや、本当に気にしないでくれ。燃え落ちたのは俺の落ち度だからな。錬金術を使って燃えなくすることは容易いんだ」
「そうなのですか?」
「ああ、実際、こちら側は燃えてないだろう?」
「はい」
「昨晩、急いで建てたから、錬金術で燃えなくする加工を忘れていたんだ」
「錬金術は便利ですね」
「ああ、折角だから、今度集落の家にも防火処置を施そうか?」
「よろしいのですか?」
「もちろんだ。いつもお世話になっているし。今日も子供たちにグルルをみてもらったしな」
「ありがとうございます!」
村長たちは何度もお礼を言ってくれた。
それから俺たちは子供たちから詳しい経緯を聞くことにした。
俺は子供たちになるべく優しい声音で語りかける。
「食べながらでいいんだけど……。さっきの男たちが何をしたか聞かせてほしいんだ」
「わかった。えっとね……」
語り出したのは子供たちの中でも年長であるタルホだ。
「みんなでお庭で遊んでいたのだけど……あ! ガウとグルルは家の中にいたよ!」
「がう」「ぐる~」
「ガウとグルルは扉を開けて、こっちを見てくれてたんだ」
「そうか」
家の中で大人しくしていなさいという指示を守っていたのだろう。
「あのおっさんたちがやってきて、知らない家だな、税をまだもらってないぞって、怒鳴り始めて」
「なるほど。税か……」
ここは王の直轄地。税の徴収権を持っているのは王と王に任命された代官だけだ。
代官が任命されているとは聞いていないので、狼藉者たちが勝手にやっているのだろう。
「それで、おっさんたちは出てこいって、扉、正面玄関の方の扉ね? そっちを叩き始めたんだけど」
「ガウたちは?」
「男たちに見つからないように扉を閉めて家の中に隠れてたよ」
今朝繋げたガウの家の反対側に正面玄関の扉はある。
正面玄関の方から近づいたのなら、ガウたちに気付かなくても不思議はない。
「そうか、タルホたちは家の中に入らなかったのか?」
「ぼくたちが入ったら、鍵が掛かってないことがばれるじゃないか」
「そうか……」
子供たちが自由に出入りできるように鍵をかけていなかった。
そして、子供たちに鍵を渡してもいなかったのだ。
「危なくないか?」
「いつも、無視されてるから大丈夫だと思って」
「あいつらの目当ては金ですから」
村長がタルホの言葉に同意した。
タルホたちは金を持っているように見えない。だからいつも相手にされていなかったようだ。
「でも、今日は扉を叩いて誰も出てこないから、裏、グルルの家の方に来て、扉に気付いて叩き始めたんだ」
「なるほど」
「でも、ガウもグルルも反応しないから、扉を開けようとしたんだ」
鍵の掛かっていない扉が開かないようにグルルが抑えた。
だが、誰かが抑えていることに気付いた男たちは激昂する。
「早く出てこないと、俺たちを捕まえて子供を殺すぞって、叫びはじめて……」
「ガウとグルルは家を出たのか」
「そう」
男たちは竜であるグルルを見て目の色を変えて攻撃を開始した。
その間、ガウは子供たちを解放したのだという。
そして、子供たちは家の中に逃げ込んだ。
グルルは抵抗せずに家の扉をその体でふさいだのだという。
男たちは激怒して、家を燃やし、グルルを攻撃する。
火炎魔法にかかれば、防御の掛かっていない木造建築など一瞬で焼け落ちる。
「グルルの家が燃えたら、グルルは俺たちのいる家に繋がる入り口を、震えながら体で塞いで」
「ぐるる」
そのときのことを思い出したのか、子供たちがグルルのことを撫でて、ぎゅっと抱きしめている。
「あとのことは、よくわからないんだ。グルルの体で外が見えなかったから」
「ガウが吠えてたけど……」
「そうか」
子供たちから得られる情報は以上だった。
「村長、以後あいつらがきたら、俺が相手にしよう」
「大丈夫なのですか?」
「大丈夫だよ。戦闘力的には問題にならないし、もし面倒なようなら金で解決すればいい」
「金で、ですか?」
「ああ、小銭を稼いでいるぐらいだ。あいつらは金で黙らせられるだろう」
身分はともかく、あいつら自身の役職は高くないはずだ。
もし、重要な役職についている者ならば、貧しい集落を脅して小銭を稼いだりはしない。
賄賂など、もっと効率的な金の稼ぎ方はいくらである。
面倒なのはあいつらの親が大貴族だったりする場合だ。
その場合、親の派閥の上位貴族に保護を頼むか、親の対立派閥の大貴族に保護を頼むのがいい。





