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【書籍版】若返りの錬金術師~史上最高の錬金術師が転生したのは、錬金術が衰退した世界でした~  作者: えぞぎんぎつね
二巻 3月15日発売!

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19 狼藉者

  ◇◇◇◇


 グルルにはなるべく早く帰ると伝えたのに、少し時間が掛かってしまった。

 ヨハネス商会でお土産を買った後、俺はリアを肩に乗せて急いで歩く。


「グルルとガウはお昼寝でもしていてくれたらいいんだが……」

「りゃ~」

「子供たちも」


 そんなことを考えながら、小走りで進んでいくと、俺の家の方から煙が上がっているのが見えた。

 たき火でもやっているのかと思ったが、それにしては上がる煙の量が大きい。


「む? 何があった? 走るぞ」

「りゃ!」

 俺はリアを肩に乗せた状態で走って向かう。


 王都は高い壁に覆われている。

 王都の門から出てから、その高い壁に沿って移動すると、俺が作った集落を囲む壁が見えてくる。


 そして、その集落の更に向こう側に俺の家があるのだ。

 だから、煙は見えても、俺の家の状況は目視できない。


 集落を越えて、俺の家が目視できるようになると同時に、怒鳴り声が聞こえてきた。


「おらあ! 死ね!」

「……ぐるるぅ」

「ガウガウ!」


 怒鳴りつける男の声と、怯えるようなグルルの声だ。

 そして、懸命にガウが威嚇している。


 燃えているのは俺の家、昨日増築したグルルの小屋だった部分だ。


 俺の家の元からある部分には錬金術と魔法で防御をかけていたが、グルルの小屋部分には防御をかけていなかった。

 昨日寝る前に急いで建てたせいである。


 小屋だった部分はほとんど焼け落ちていた。

 グルルは、小屋の焼けあとに大きな身体を小さくしてに丸くなって縮こまっている。

 そして、グルルをかばうようにガウが吠えている。

 

 そんなガウとグルルを囲むように、鎧を身につけた男たちが十人いた。



 男たちは怯えるグルルを見てニヤニヤと笑っていた。

 絶対的な強者であるはずの竜。

 その竜が怯え、なにも反抗しない姿をみて、自分たちが強くなったかのように錯覚しているのだ。


 人を襲うなと俺に言われているガウは、攻撃をしかけない。

 だからガウのことも怯えている大きな犬とでも思っているのだろう。


「クソ狼が! 死ね!」

「ガウ!」

「おらぁあ! 死ね、雑魚竜が!」

 男がガウ目がけて槍を繰り出し、別の方向から同時に大剣を持った男がグルルに襲かかった。


 俺は足元の土に錬金術で【形状変化】させると、一気に飛び出す。

 土を高速で【形状変化】させることで、自分自身を打ちだしたのだ。


 ガウならばあの程度の槍を避けるのは容易い。

 だが、グルルは「ぐるぅ~」と鳴いて、背を向けてブルブル震えている。


 俺は大剣を振り下ろそうとした男とグルルの間に割って入る。

 そして振り下ろされる大剣に【形状変化】をかけて根元から叩き折る。

【形状変化】は、単に形を変えるだけの術だ。

 錬金術の中で最も魔力消費が低く、簡単な術ではあるが、戦闘にはすごく役立つ。



「人の従魔に何してんだ?」

「な、何だ! 何が起こった?」


 突然俺が目の前に現われたように男は思ったようだ。

 そして振り下ろした剣が折れた事実も受け入れられないらしい。


 混乱と驚愕のあまり、固まっている。


「ガウ、よくやった」

「がう!」


 ガウは、槍はガウが牙で柄を噛んで止めた。

 ガウにとっては、槍を避けることはたやすかっただろう。

 だが、避けてしまえばグルルに突き刺さる可能性があったから、ガウは止めたのだ。


「ガウ!」

 ガウは金属製の槍の柄をかみ砕く。


「なっ!」


 男たちが、怯えた表情を浮かべた。

 もしかしたら、ガウのことをただの狼か大きめの犬だと誤解していたのかもしれない。

 ガウの毛はやっと少しずつ生えそろい始めたところだ。

 まだ一般的な魔狼の姿とはかけ離れているのだ。


「お前ら、恐れをしらんな。魔力を感じ取れないのか?」


 魔力を感じ取れれば、ガウもグルルも本当は強いことがわかるはずだ。


「お前ら。人の従魔に何してくれているんだ?」


 俺は後ろでにやにや笑っていた男たちに、改めて言う。


「お前は何者だ?」

「だから、この竜を従魔にしているものだよ。そしてお前らが燃やした家の持ち主でもある」

「竜を従魔だと? そんなわけ……」

「従魔でもない竜が家の中にいるわけないだろ。頭が沸いているのか?」


 つい口調が荒れてしまう。

 俺は、無抵抗のグルルを虐めた男たちに怒りを覚えていた。

 ガウも威嚇はしていたが、攻撃には出ていない。


「ぐるるぅ」


 怖かったのだろう。グルルは俺の足に顔を押しつける。

 魔物も動物も恐怖を感じたら暴れるものだ。


 だが、グルルは暴れなかった。

「家の中で大人しくしていなさい」という俺の言いつけを守って、大人しくしていたのだ。


 そして、グルルが移動した向こうに怯えた様子の子供たちが見えた。

 グルルは怯えてこちらに背を向けていたのでは無かった。

 子供たちのいる家に繋がる扉を自分の体で塞いでいたのだ。


 ブルブルと震えながら、自分より小さな子供たちを一生懸命守っていた。


「グルルいいこだな」


 俺はグルルの頭を優しく撫でた。

 グルルの全身には細かい傷がたくさん付いている。

 恐らく矢傷と魔法による傷だ。

 幸いにも、強靱な鱗のおかげで、重傷には至っていないが、痛くないわけではない。


「お前ら、俺の従魔を傷付けたな?」


 グルルが強靱な鱗を持っていなければ、充分致命傷になる攻撃だ。

 男たちがグルルを殺そうとして攻撃していたのは明白だった。


「がぁぅ」


 グルルの火炎魔法によるやけどの傷を、ガウが優しく舐めている。

 全身を炎で焼かれた経験のあるガウだからこそ、やけどの傷を見てかわいそうに思ったのだろう。


「人の作った家まで焼きやがって……。ただで済むと思うなよ?」


 俺が男たちを睨み付けると、剣を折られた剣士が言う。


「だからどうした? 王都の近くに竜がいたら討伐するのは当然だ」

「家の中で大人しくしている竜を討伐する必要はないだろうが」

「家を建てて勝手に住み着く奴等を排除しに来てやったんだ。ついでに危険な竜を討伐することに何の問題がある?」


 そういったのは、魔導師らしき男だった。

 金属鎧を身につけ、手には魔導師の杖を握っている。

 この時代の魔導師は金属鎧で防御するのが普通なのかもしれない。


「排除だと?」

「ああ、排除だ」


 勝ち誇ったように魔導師が言う。


「王都の周囲の土地は国王陛下の所有物だろう? つまり、お前は自分の国王陛下、もしくは陛下の命で動いているのか?」


 こいつらが王でも、王の命で動いているのでもないのは確実だ。

 王が動くときは、もっと大勢を動員するものだからだ。


「き、貴様舐めやがって」

「もしかして、自分を国王陛下の使いだと騙ろうとしたのか? 随分と恐ろしい真似をするものだ。王の使いを騙るなど、極刑もありうるぞ?」

「ちっ、へりくつを――」

「不法占拠している貧民が、偉そうなことを言うな! 王都の害虫が! こいつごとやるぞ」

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