16 ヨハネス商会
ギルバードは魔導機械を使って、ギルドカードに記録された情報を読み取っていく。
「魔王軍幹部の魔人一匹は確実にルードが仕留めただろう? それだけで五千万ゴルドにはなるだろうさ」
「記録されていればな」
「強い魔物の方が優先的に記録されるから、あまり心配しなくていいぞ」
「それはよかった」
「それに、記録されて無くても、俺がなんとかするさ」
そういって、ギルバードはにやりと笑った。
強い魔物の討伐記録ほど読み取るのに時間が掛かる。
昨日倒した魔人は、かなり強かったので、読み取り完了までしばらく掛かるだろう。
その時間、俺は気になっていたことを聞いてみることにした。
「ギルバード。俺には記憶が無いって話をしたよな?」
「ああ、確か気がついたら、廃墟で倒れていたらしいな。しかも全裸で」
「そうなんだ。それで、俺の過去を知っている者がいないか気になってな」
「ふむ。南方で倒れていたってことは、南方の人間である可能性が高いが……魔王軍のせいで南方は荒れているからな」
「情報を集めにくいか」
「ああ、死亡者も行方不明者も多いし、情報を集めるのは至難の業だろうな」
「そうか」
俺を産み育てた存在が仮にいたとしても、生き延びている可能性は低いのかもしれなかった。
「それに、南方のことを聞きたいなら、俺なんかよりヨハネスさんに聞いた方が良いぞ?」
ヨナ・ヨハネスはヨハネス商会の商会長だ。
王都に連れてきてくれた恩人でもある。
「確かにヨナさんなら、詳しそうだな」
ヨハネス商会は南方をまわって、避難する民から物資を高額で買い付けている。
そのおかげで捨てざるを得ない物資を売ったお金で、無事逃げることができた避難民も多数いると言う話だ。
利益などほとんどでない、危険性の高い慈善事業みたいなものである。
「あとで、ヨハネス商会に行って聞いてみるよ」
「それがいい」
それから、俺はギルバードからあの日の戦闘状況について教えてもらった。
俺が戦っている間、冒険者や騎士たちも、命を懸けて戦っていたのだ。
冒険者たちの戦いぶりを聞き終わった頃、やっとギルドカードの読み取りが終わった。
「結果は……魔王軍幹部の魔人が一匹。それとゴブリン、オークその他合わせて千匹の討伐か」
「まあそんなものかな?」
「本当はもっと倒したんだろうが……すまないな」
「いいさ。後始末も全部丸投げしたし、少なめでもまったく問題ない」
手数料と後始末代だと考えれば、少なめでもまったく文句はない。
「そういって貰えると助かる。えっと、魔人の報酬が七千万ゴルド。魔物が合わせて千五百万ゴルドだな」
「おお、結構もらえるな」
炎の魔人の報酬が五千万ゴルドだったことを考えると、かなり高い。
「本当なら一億ゴルドぐらい楽に越えていてもおかしくないが……」
「気にするな。金には困っていないからな」
俺は今回の報酬は全てギルドに預けておくことにした。
その後、俺は冒険者ギルドを出て、ヨハネス商会へと向かう。
商会の中に入ると、応接室へと通されて、商会長のヨナがすぐにやってきた。
そして、お茶とお菓子を出してくれる。
「りゃあ」
お菓子を見て、リアは嬉しそうにテーブルの上に向けて飛ぶ。
そして、嬉しそうに食べはじめた。
そんなリアを撫でながら、ヨナは言う。
「ルードさん、王都を守ってくださってありがとうございます」
優秀な商人であるヨナは、戦闘の顛末を既に知っているのだ。
「礼には及ばない。ギルドから充分に報酬をもらっているからな」
「それでも、ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとう。俺の方こそ商会に随分と助けられた」
襲撃の前、俺はヨハネス商会に大急ぎで必要な物資の集積を依頼した。
ヨハネス商会が集めてくれた物資がなければ、もっと苦戦していただろう。
「ところで、トマソンたちは無事か? 怪我人がいるなら、ヒールポーションを用意するぞ」
トマソンは、ヨハネス商会の専属護衛たちのリーダーだ。
優れた冒険者でもある。
魔王軍襲撃の際には、他の冒険者たちと一緒に前線で戦った。
「はい。負傷した者もいますが、治療を受けて全員が無事です」
「それならよかった」
「ルードさんの作ってくださったヒールポーションの効果は素晴らしいですね。全治一か月の怪我が、みるみるうちに治りました」
「数が足りたようでよかったよ。それもヨハネス商会が物資を集めてくれたおかげだ」
効果には自信があった。不安だったのは数だけだ。
「そうだ、トマソンさんたちを呼んできましょう」
「いや、皆疲れて寝ているんだろう、寝かせておいてやってくれ」
そう言ったのだが遅かった。
「おお、ルード、おはよう!」
「怪我はないか?」
「矢を肩に食らったが、ヒールポーションのおかげで痛みどころか傷痕一つない」
「それならよかった」
ヨナが呼びに行かせるまでも無く、トマソンは走ってこちらに向かってきていたらしい。
「それにしても、大活躍だったじゃないか。錬金術師ってのは凄まじいな」
「錬金術師が増えれば、魔王軍を恐れる必要も無くなるんだが……」
それには時間が掛かるだろう。
それまでは俺が頑張るしかない。





