15 ギルド
「グルル、ガウ、お土産買ってくるからな」
「…………ぐる」「がう」
「家の中で大人しくしているんだよ」
グルルが家の外に出ていると、万が一通りかかった者に見られたら怯えかねない。
「あとで、散歩に連れて行ってやるからな」
「……ぐる「がう!」
散歩という言葉でガウが尻尾を勢いよく振った。
「ガウ、あとでだぞ」
「グルル。こっちで一緒にあそぼう」「がぁう」
「ぐる」
子供たちに誘われて小屋の中に入っていくグルルの後ろ姿はしょんぼりとしたままだった。
俺は王都に向かって歩きながら、家を振り返る。
家の扉の影から、グルルは顔を半分出して、こちらを覗いていた。
俺が「家で大人しくていなさい」と言ったので、隠れながら見ているのだろう。
「やっぱり、グルルがかわいそうになるな」
「りゃぁ」
リアも寂しそうだと思っているようだ。
「リアは小さい赤ちゃんだから連れて行けるが……」
グルルは大きい赤ちゃんなので、連れて行けないのだ。
なるべく急いで用事を済ませて戻ってこよう。
そう俺は心に決めた。
俺は冒険者ギルドまで、全力で走って向かう。
「昨日も思ったが、息が切れない」
「りゃ?」
「七十歳を超えた辺りから、軽く走っただけで息が切れるようになってな……」
「りゃあ~」
常人にはあり得ないほど身体を鍛えていた俺でさえそうだったのだ。
一般人は、七十代より、もっと若くから息切れしていたに違いない。
「走ることすら楽しい」
苦痛でしかなかった走るという行為すら、若返った身体では楽しかった。
「りゃあ!」
「リアも楽しいか」
「りゃあ~!」
リアは嬉しそうに俺の肩の上で羽をバサバサさせていた。
王都の中に入ると走れない。普通に歩いて冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドの建物の中に入ると、
「お、ルード、来てくれたか」
冒険者ギルドのギルドマスター、ギルバードが受付カウンターの向こうから声を掛けてくる。
昼過ぎだからか、ギルド内には冒険者たちはほとんど居なかった。
冒険者たちは基本的に早朝に仕事をうけて、動き始めるのだ。
俺はカウンター前まで歩いて近づいて声を潜めて言う。
「昨日渡した薬はどうだ?」
「まだ生えてきてないぞ?」
「そりゃそうだ。俺が聞きたいのは痒みや痛みだ」
「今のところ、どっちもないぞ」
「ならよかった。不安な点があれば、いつでも言ってくれ」
「ああ、ありがとう」
そういって、ギルバートは微笑んだ。
「で、ギルバート、仕事は一段落ついたか?」
「まだまだ慌ただしいが、少し落ち着いてきたな。戦功に関してはまだ掛かりそうだ。すまないな」
そしてギルバートは少し声を潜めていった、
「何しろ戦功一位だ。勲章が出る。つまり王が関わる話だ」
勲章を与えるのは王の仕事だ。
王まで報告が上がるまでに、色々な手続きがある。
即日授与というわけにはいかないのだ。
「わかっているさ」
「早くて……そうだな二、三か月後ぐらいだろうな」
「まあ、そんなもんだろう」
千年前もそうだった。
「戦功一位に推薦してくれただけで、ありがたいよ」
そういって俺はギルドカードを取りだした。
ギルドカードは千年前と比べて進化した魔道具の一つである。
魔物が死ぬ際の動的魔力から静的魔力への変化を感知し、討伐した魔物を自動的に記録してくれる優れものだ。
そして、その記録はギルドにある魔導機械で読み取ることができる。
「おお、報告だな、ありがたい。すぐに準備する」
ギルバートはギルドカードを読み取る魔導機械を準備してくれる。
「計測の前に言っておくんだが……」
「どうした?」
「ルードは、近接攻撃だけじゃなく、遠距離攻撃も駆使して大量に敵を倒しただろう?」
「そうだな、それがどうした?」
「実はだな……。あまりに早く連続して敵を倒した場合、ギルドカードの記録能力が追いつかなくてだな」
「なるほど、そういうものか」
ギルドカードは非常に優れた魔道具だが、万能ではないということだろう。
「恐らく、大分少なめに表示されると思う」
「構わないぞ。金には困ってないしな。ちなみに記録限界はどのくらいなんだ?」
「およそ三秒あたりに一匹だ。距離にもよるが……」
「思っていたより、処理速度は遅いんだな」
「そうはいうがな、ルード。一秒の間に二匹倒しても、三匹目の討伐まで五秒ぐらい空いたら、記録できる」
処理が追いつかない間に次の討伐記録がやってくると、記録ができなくなるのだろう。
「なるほどな。それならば、普通は大丈夫か」
「ああ、討伐が速すぎて記録できないってのは滅多にない」
「そうだな、まあ気にしないさ。記録できたぶんだけ、報酬を貰おうか」
「すまない。けしてケチりたいとか、そんなことは露ほどにも思ってないってことはわかってくれ」
「わかってるさ」
俺はギルバードにギルドカードを手渡した。





