14 子供達にグルルの保育を頼もう
「あ、なんかあったかいのが来た!」
「それが魔力だよ」
俺は順番に子供たち五人全員にそれを繰り返す。
子供たちの列の最後には、リアとガウとグルルが並んでいる。
リアとガウは両前足を子供たちと同じように前に出している。
グルルも、頑張って後ろ足と尻尾で体を支えて、前足を前に出している。
だが、グルルは大きいので、俺の手が前足に届かない。
「グルルはいつも通りの姿勢でいいよ。俺の手が届かないからね」
「ぐるる~」
地面についたグルルの前足に手を触れる。
そして、子供たちにしたのと同様に魔力を流した。
「グルル、これが魔力だよ。って、グルルはもう知っているよな」
「ぐる~」
グルルが嬉しそうなので何よりだ。
「はい。次はリア。これが魔力だよ」
「りゃあ」
「ガウも……。器用だな」
「がぅ」
ガウは、いわゆるちんちんの体勢である。
教えていないのに、器用なものだ。
「魔力を意識できたら、自分の体内で魔力をうごかす練習だ」
自在に動かせるようになるには慣れが必要だ。
才能にも左右される。
「む、むずかしい……」
子供たちも苦戦しているようだった。
だから俺は一人一人にもう一度魔力を流して意識させたり、コツを教えたりしていく。
「いまから右手から流すから、一緒に流れろーって意識してみて」
「せんせいわかった!」
「結構いい感じにできているよ」
「えへへ」
一時間ほど教えて、子供たち全員が魔力の流れをわずかに操れるようになった。
「あとは慣れだ。毎日練習しておきなさい」
「「「はい! せんせい!」」」
「りゃ!」「がぅ!」「ぐる!」
「自在に操れるようになったら、次の段階に進もう」
「「「はい!」」」
「りゃあ」「がぁぅ」「ぐるぅ!」
元気な子供たちはとても可愛らしい。
「よし、お菓子をあげよう」
以前、ヨハネス商会で沢山食料を買った。
その中にはお菓子もあるのだ。
「おかし!?」「やったー」
「りゃっりゃー」
大喜びの子供たちとリア、そしてガウとグルルを連れて家の中に入る。
「適当に座ってくれ。すぐに用意する」
「うわあ。この前と中が違う」
「ああ、グルルの小屋を作って繋げたんだ」
「そっかー」「ぐる~」
タルホがグルルを撫でている。
そのおかげか、グルルはリビングで大人しく尻尾を揺らしていた。
俺はお茶を全員分淹れて、砂糖をたっぷりと入れる。
そして、お菓子をお皿に入れた。
あまり大量に出すと、ご飯が食べれなくなるので、少し控えめにする。
「お茶とお菓子だぞー」
「わーい、いただきます!」
子供たちは嬉しそうにお菓子を食べて、お茶を飲む。
「おいしい!」
「それならよかった」
リアやガウ、グルルの分のおやつも皿に入れて食べさせる。
リアにはお菓子、ガウとグルルには塩を控えめにした焼いた肉だ。
「……タルホは、いつもは集落でなにをしているんだ?」
「うーん。おにごっことか?」
「……お手伝いは? 初めて会ったとき水をくんでいただろう?」
「水くみは先生が井戸作ってくれたからね!」
「仕事はあまりないのか?」
「ないことはないけどー」
最近の子供たちはあまり忙しくないらしい。
「それなら、グルルと一緒にお留守番をしてくれないか?」
「グルルと?」
「ぐる?」
こちらをみて首をかしげるグルルのことを撫でる。
「グルルは寂しがり屋だからな。一人で留守番が難しいんだ」
「そっかー」
タルホはグルルのことを撫でる。
「わかった! いつでもグルルと一緒に留守番するよ!」
「助かる。お小遣いもあげよう」
「やった!」
「あたしもあたしも!」
「じゃあ、みんなで頼む」
「わーい」
その日は子供たちをそのまま帰すことにする。
「お父さんとお母さんに、グルルとお留守番していいか聞いて来るんだよ」
「わかった!」
そういって、元気に帰っていった。
その後、すぐに村長と保護者たちがやってきて、集落を囲む壁を作ったことにお礼を言われた。
グルルを見て最初驚いていたが、大人しいことを理解してくれたようだ。
子供たちに留守番を頼む件も「どんどん、こき使ってください」と好意的に了承してくれたのだった。
日没後、充分に暗くなってから、俺はリアを肩に乗せ、ガウとグルルを連れて周囲を走った。
ガウとグルルには毎日の散歩が必要だからだ。
次の日。
俺は子供たちに魔法を教えたあと、早速子供たちに留守番、いやグルルの保育を頼む。
「グルル。家の中で大人しくして、いい子でお留守番しているんだよ」
「ぐるるぅ~」
グルルが哀れそうに鳴くので、胸が痛くなる。
別れる前に、せめてもの罪滅ぼしにグルルを抱きしめて一杯撫でた。
「ガウもグルルと一緒にお留守番してくれる?」
ガウは大きさ的に王都内に連れて行ける。
だが、グルルがあまりにも可哀想に思ったのだ。
「がう~……がう!」
ガウは少し考えあと、了解してくれたようだ。
ガウもついてきたいだろうに、寂しそうにしているグルルを見て、留守番する気になったようだ。
ガウは面倒見のいい優しい狼なのだ。
「なるべく早く戻ってくるからね。グルル。ガウ、頼むよ」
「ぐるぅ」「がう」
「先生! グルルのことはまかせて!」
「タルホ、みんな、グルルを頼むよ」
「うん」
後ろ髪を引かれる思いで、俺はリアを連れて王都に向けて歩き出す。
家の外までグルルとガウはついてくる。
尻尾を力なく垂らして、頭もしょんぼりと低くなっていた。





