11 グルルの登録と戦功
「発毛剤兼育毛剤は、後で作るとしてギルバートは何の用事で来てくれたんだ?」
「肝心の用事を忘れるところだった。グルル? でいいのか? その地竜の従魔登録の手続きをだな」
「ああ、そうだったな。ありがとう」
昨日の別れ際ギルバートは従魔登録の魔導具を持ってきてくれると言っていた。
本来はギルド建物内で従魔登録するのだが、グルルは大きすぎるのだ。
「これが申請書類と携帯用従魔登録用魔導具だ」
ギルバートは大きな鞄から魔導具を取り出した。
申請書類には必要事項がほとんど全て記入されている。
俺はサインするだけでいい状態になっていた。
「ありがたい」
俺は書類にサインする。
「書類はこれでよしだ。次はルードの冒険者カードを設置してもらって……」
登録の作業自体は、リアとガウのときにギルドでやったことと同じだった。
冒険者カードを魔導具にセットして、グルルが魔導具に触れるのだ。
「……ぐるる」
「大丈夫だよ、痛くないからね」
「ぐる」
ただグルルが魔導具を怖がったので、説得に少し手間どった。
グルルが勇気を出して魔導具に触れる。
「偉いぞ、ぐるる」
「ぐる~」
褒めるとグルルは嬉しそうに鼻先を俺の足にこすりつける。
「随分と……臆病で大人しいんだな」
「恐らく元々大人しくて臆病な種族なんだろうが、加えてグルルは子供だからな」
「ふむ。子供を無理やり兵器として利用するとは、魔人は非道なことをする」
「まあなあ」
人族の非道さも大概なので、あまり強く同意することはできなかった。
「さて、これでグルルの従魔登録が終わったわけだが……だからといって、街中に連れて行くのはできるかぎり避けてくれ」
「わかるぞ。グルルは大きいものな」
「ああ、グルルが大人しくて優しい子だとしても、民は怯えるだろうしな」
グルルを街中に連れていくことに法的な問題はない。
とはいえ、民が怯えて大騒ぎになるのは可能な限り防ぎたい。
それが冒険者ギルドとしての判断なのだ。
「まあ、緊急時以外はグルルはお留守番だな」
「ぐる!?」
グルルは驚いて、それから悲しそうに俺を見上げる。
「すまないな、グルル」
「ぐるる……」
「なるべく寂しくないようにしてやりたいのだが……」
あとで集落の子供たちをグルルに紹介しよう。
相性次第だが、子供たちにおこづかいをあげて、グルルの保育をお願いしてもいいかもしれない。
魔導具を鞄にしまいながら、ギルバートが言う。
「あとは、そうだな。昨日の戦闘については、ルードを戦功第一位として報告しておいたぞ」
「さすがルードさまです! まあ、ルードさま以外の誰が一位なんだという話ですが」
カタリナが自分のことのように喜んでいる。
「戦功一位か? いいのか? ありがたいが……」
「ありがたいのか? ルードのことだから、余計なことをするなというかと思ったぞ」
「そんな余裕はないさ。錬金術を普及させる必要があるんだからな」
錬金術の普及にとって、戦功一位は役に立つ。
報奨金は欲しくないが、勲章は錬金術の権威付けになる。
錬金術で活躍した冒険者が、かの有名なあの勲章をもらったと言えば噂になるだろう。
そうなれば、錬金術に興味を持つ者も増えるかもしれない。
それに、地位が貰えるならば、それもうれしい。
地位が高ければ高いほど、錬金術の普及に役に立つからだ。
「そうか、ルードに喜んでもらえて良かったよ」
「だが、騎士団は文句言わないのか? 一位として報告しても騎士団が横やりを入れるだろう?」
現代の騎士については詳しく知らないが、前世の時代の騎士は名誉を重んじた。
ぽっと出の素性のわからぬ冒険者が戦功一位になれば、面白くないだろう。
前世の頃はこういう場合、戦功一位を二人にして、もう一人騎士から選んだ。
それで騎士団の面子が立つのならば安いものだ。
「騎士団の長と冒険者ギルドマスターの俺の連名で、報告書に戦功一位にルードの名を載せたんだ。騎士団も認めているさ」
「ならば、これが覆ることはありえませんね! おめでとうございます! ルードさま!」
「そうなのか? 騎士が……意外だな」
「いや、騎士たちもルードの強化した武器防具の威力を知っている。それに死者が出なかったのは、ポーションのおかげが大きい。みな感謝していたよ」
「そうです! そんな恥知らずは騎士にはいません」
「誇り高いな」
前世の騎士より誇り高いのかもしれない。
そんな誇り高い騎士たちや冒険者たちと、少し離れてはいたが、一緒に戦った。
それはうれしいことだ。
「それにだな。ルードと殿下の二人が、最も危険な城壁の外で戦っているのは騎士たちを含めた皆が見ている」
「そうか。まあ、見えていただろうな」
「ルードは、自分が思っている以上に、皆から尊敬されているよ」
「ありがたい話だ」
「ちなみに戦功第二位は殿下ですよ」
「え? わ、私? でも、私はルードさまの手伝いをしただけで……」
「いや、カタリナは活躍したよ、とても助けられた」
「そ、そうですか? お世辞でも嬉しいです」
カタリナは顔を真っ赤にして照れている。
「殿下の場合は、なによりもルードと一緒に城壁の外で戦ったというのが大きいですね」
その身を最も危険な場所に置き、敵を屠ったカタリナより功績をあげたとは誰も言えなかったのかもしれない。
「殿下のことを、騎士たちも冒険者たちも認めて、感謝しています」
「……そうか」
「私からもお礼を。民を救っていただき、ありがとうございます。殿下が最前線で戦う姿は我らに勇気を与えました」
「そうか。もしそうならば、よか……ふぐ、……失礼、お茶、淹れてきます」
突然立ち上がったカタリナを俺もギルバートも止めなかった。
カタリナが泣いていたからだ。
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