06 副総裁について考えよう
「王都は広いです。ルードさまでも、一人で守るのには限界があります」
「やりようはいくらでもある。面倒ではあるがな。俺の強さを知っているものが統率者なら警戒してくれると思うのだが……」
恐らくは自称魔王軍副総裁である統率者が、俺のことを知っていればいい。
そうすれば、俺が王都にいる限り、魔人をけしかけることはあまりないだろう。
「王都はルードさまがいるとしても王都以外を襲われたら……大変です」
「それは、どうだろうな……可能性としてはありうるが……」
「ないと思われますか?」
「魔王軍副総裁がどのような考えを持つのかわからないから、なんとも言えないんだが、被害が大きすぎる」
「敵としては被害は大きい方がいいのではないですか?」
「それは目的によるな。人族の殲滅が目的なのか。支配が目的なのか」
「殲滅、ではないのでしょうか?」
「どうだろうな」
本当になんとも言えない。
魔王軍副総裁の情報が少なすぎるのだ。
「魔王軍副総裁は、人型でとても強いことしかわからないんだろう?」
「はい。魔人だと考える者が多いですが、会った者はいませんし……」
「ただ、俺は魔人ではないと思うかな」
「それはなぜでしょう?」
「魔人は知能は高いが、凶暴であまり計画を立てない。魔王軍副総裁が何者かわからないなら、その行動から思考を推測するしかない」
そういうと、カタリナは真剣な表情で考え込んだ。
「……魔王軍副総裁は突然魔人を配下にして……辺境伯家の城を奪い」
「引きこもった」
「はい。そして兄上の軍が奪還に向かうと、打ち破りました」
カタリナはその戦で足を失った。
それを思い出しているのか、拳を力一杯握りしめていた。
「魔人なら、近隣の村を襲うだろうし、そのまま王都まで攻めあがるだろう」
なぜならその方が楽しいからだ。
魔人にとって、自分の力を振るえることは楽しく、人を殺すことも楽しいのだ。
「そして、引きこもっていた理由だが、カタリナも噂を知っているだろう?」
「はい、確か、魔王復活に備えているという噂を聞きました」
冒険者たちの間で広く知られている噂話だ。
俺もトマソンたちから「魔王が復活する時のために城と軍を用意したのだと、副総裁は言っている」と教えてもらった。
トマソンたちが副総裁に会ったことがあるはずがないので、あくまでも伝聞だ。
出所は、魔王軍の誰かと接触した人族の冒険者か騎士か、魔王軍の捕虜のどちらかだろう。
「その噂が正しかったんじゃないか? 魔王が統治すべき国を荒らさないようにしていると考えれば引き籠もりの理由も納得できる」
昨日の王都襲撃も、ある程度暴れたら降伏勧告を出すつもりだった可能性もある。
「あの、ルードさま。私はどうしたらよいのでしょう?」
「そうだなぁ」
そのぐらい自分で考えろと、俺は言わない。
なぜなら、カタリナは自分で考えているからだ。
そして自分が何をしたいかも理解している。
だから俺は一緒に考える。
「自称魔王軍副総裁の思惑がどうあれ、私は民を守らねばなりません」
「そうだな、難しい。兵を送り込んで刺激するわけにもいかぬし」
その結果、敵が魔人を揃えて攻め込んできたら、大きな被害が出るだろう。
「はい、刺激して戦略を変えられても困ります」
「そうだな。俺が魔王軍副総裁とやらに戦いを挑むにしても、場所がわからんしな」
副総裁が率いる魔王軍が辺境伯家の城が占領しているのは事実。
だが、果たして本当にそこにいるかはわからない。
俺が魔王軍副総裁の立場ならば城から移動する。
人族側に強力な錬金術師がいる以上、副総裁のとる戦術としてはそれが正しい。
「魔王軍がこのまま大人しくしてくれているのが理想なんだが……」
次に望ましいのは、昨日のように王都に兵を揃えて攻め上がってくること。
対応が簡単だからだ。
逆に厄介なのは、王都に散発的な攻撃を仕掛けられることだ。
魔人を殺せたとしても、民に被害が出るだろう。
周辺の都市に攻め込まれても困る。民を守るのが難しい。
「しかし、何もしなければ、時間が敵を利するかも知れません」
守りに専念している間に、敵に準備を調えられても困る。
「……そうだな。ならば、敵以上に時間を活用するしかない」
「時間を活用ですか?」
「ああ、敵以上に時間を利用すれば、時間はこちらを利することになる」
「……ですがどうやってですか?」
「やることは変わらない。人が魔人に勝つには錬金術しかない」
錬金術を広めるのが急務だ。
錬金術師の育成も大切だが、時間がかかりすぎる。
魔王軍との戦いに間に合うとは思えない。
「錬金術を広めることはできる。錬金術の効果を広く知らしめ、錬金術を利用しやすくする」
「そうすれば、今よりも有利に戦えますね!」
「そうだ。騎士や冒険者たちには有用性を理解して貰えたが……」
国の上層部はまだ錬金術の有用性を知らないだろう。
「国からの協力を得られれば、俺もできることが増えるだろう」
「はい! 私も王宮で錬金術をアピールしてきます!」
カタリナは今日一番の笑顔を見せた。
やることが決まって、迷いが無くなったことが嬉しいのだろう。





