49 魔人対錬金術師。その後
3月15日 二巻発売!
リアは魔人を見て首をかしげる。
「りゃ?」
「なぜ、貴様が魔王陛下と……」
魔人は恨みのこもった目で俺を睨みつける。
「傷ついているところを俺が保護した。というか、やはりリアは魔王か?」
「魔王陛下、今すぐに悪名高きルードヴィヒの手からお救い……」
そう言って魔人はリアに向けて手を伸ばす。
だが、そこまでだった。その体勢のまま、魔人は息絶えた。
リアと魔王の話を聞きたかったのだが、もう遅い。
「りゃあ?」
リアはきょとんとして可愛く首をかしげている。
「りゃっりゃ?」
「リアは気にしなくていいからな」
そう言って、俺はリアを撫でる。
ガウも俺の足に体をこすりつけて来たので、一緒に撫でておく。
「ガウも頑張ったな」
「がう」
「……ルードさま」
カタリナは返り血を浴びて、赤くなっていた。
「カタリナも頑張ったな」
「あ、ありがとうございます。あの」
「どうした?」
「リアが魔王だと……魔人が言っていた気がするのですが」
「魔人はそう考えたんだろうな」
「あの、……ルードさまは千年前からいらっしゃったのですか?」
「……聞こえてたか」
魔人との戦いのさなか、そんなことを言った気がする。
「ああ、その通りだ」
「ど、どういうことなのでしょうか?」
「それは……、まあ後回しだ。話は長くなるし、まだやることがあるからな」
「わかりました」
「あと、リアが魔王だと思われていることと、俺が千年前から来たことは秘密にしてくれ」
「命に替えましても」
「命には替えなくていいぞ。命のほうが大事だからな」
そして、俺は周囲を見回す。
数百体のゴブリンやオークの死体が転がっていた。
全て俺やガウが直接手を下したわけではない。
大半は魔人の攻撃に巻き込まれたのだ。
防ぎ方を工夫して、ゴブリンたちを巻き込むようにしてはいたのだが。
「さて、地竜はどうなったか?」
地竜は地中の檻の中でモゾモゾ動いていた。
「ぐるるるる」
地竜は大人しくなっている。魔人の支配が解けたのだろう。
檻は頑丈。地竜は傷だらけだ。そして全身に槍が突き刺さっている。
「槍を抜く。少し痛いぞ。我慢しろ」
俺は物質移動で、地竜に刺さった槍をすべて抜いた。
「GRRAAAAA!」
痛みで地竜は咆哮した。
だが、すべて抜き終わると、ぐったりした様子で大人しくなる。
その地竜に、檻の外からヒールポーションをかけてやった。
見る見るうちに傷がふさがる。
「ぐる?」
地竜は「どうして?」と言いたげな表情で、檻の中からこちらを見上げていた。
「お互い魔人に迷惑をかけられたな」
「ぐるぅ」
このまま放置したら、地竜は討伐対象となり檻の中にいるまま殺されてしまうのだろう。
そう考えると、地竜がかわいそうな気になってくる。
地竜は魔人に強制的に支配されていただけなのだ。
俺が檻を解放すると、地竜はびっくりした表情を浮かべた後、穴から這い出てくる。
「故郷に帰りなさい。王都に向かう、もしくは人と戦うつもりなら俺が相手をしよう」
「ごるるる」
地竜は暴れず、喉を鳴らしながら、俺に頭をこすりつける。
どうやら懐いてくれているらしい。
「なんだ、俺と一緒に来るか?」
「ぐる」
「あとで従魔として登録してあげよう」
俺は地竜の頭を撫でてあげた。
「さて、カタリナ。王都城壁に向かうぞ」
「はい!」
「地竜は疲れただろう。待っていなさい」
南側城壁を見ると、まだ戦いは続いていた。
指揮官を失ったゴブリンとオークは混乱しているように見える
それを見逃すギルバートたちではない。凄い勢いでゴブリンやオークは狩られていた
俺は手早く魔人の戦利品だけを回収して、ガウと一緒に王都の城壁へと走る。
「ぐるるぐるるぐるる」
鳴きながら、地竜が走ってついて来る。
背中に乗ってほしそうな気配を感じたので、俺はぴょんと地竜の背に飛び乗った。
「カタリナ、ガウ、後から付いてこい」
疲れているだろうガウとカタリナを振り切り、地竜は一気に加速する。
身体強化した俺より走るのは速い。
「お前速いな」
「グルル!」
地竜はとても嬉しそうに鳴く。
王都城壁に群がっているゴブリンやオークは三百匹ほど。
二百匹は逃亡を開始している。
このまま逃がせば、王都周辺の治安がしばらく悪くなる。
物流にも影響が出るだろう。
「逃がすか。地竜、薙ぎ払うぞ」
「グル!」
地竜はゴブリンとオークの群れに一気に突っ込む。
体長十メトルもある巨大地竜だ。
走るだけゴブリンもオークも吹き飛ばされていく。
「ち、地竜だ!」
「ルードの兄貴がやられちゃったの?」
そんな声が城壁の上から響く。
冒険者たちは地竜が城壁を破壊しに来たと思ったのだろう。
夜目が利く薬を飲んでいるとはいえ、今は月のない夜。
巨大な地竜の上に俺が乗っていることには気付いていないのだ。
大量の矢が俺と地竜目掛けて降り注いできた。





