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【書籍版】若返りの錬金術師~史上最高の錬金術師が転生したのは、錬金術が衰退した世界でした~  作者: えぞぎんぎつね
一巻 アース・スターから発売中!

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44 魔王軍襲来

 王都に出てしばらく歩き、第一防壁に到着した。


 第一防壁は南側城壁から南に百メトルの位置に、城壁と平行に建てた。

 高さは十メトル。長さは南側城壁の八割ほどもある。


「ここで大型魔獣を止める。小物はそのまま素通りさせる」

「それで、これほど隙間があるのですね」

「そうだ。ゴブリンやオークどもは、そのまま素通りしてもらう。相手にするのは竜クラスの大型魔獣だ」


 ギルバートは竜が目撃されていると言っていた。だが、大型魔獣が竜だけとは限らない。


「はい、魔人はどうなされるのですか?」

「もちろん、ここで屠る。魔人は壁では止められない。見つけ次第、俺が錬金術を駆使して殺す」

「では、私は竜を殺します」

 カタリナは力強く言った。


 だが、再生した足はまだ本調子ではないはずだ。今のカタリナに竜の相手は荷が勝ちすぎる。


「それはありがたいが、第一防壁の他にも仕掛けがあってだな。それで大型魔獣を無力化できなかったら頼む」

「わかりました」


 そして俺たちは第一防壁の上に登った。

 第一防壁の上には胸壁が取り付けてあり、身を隠すことができるようになっている。


「敵が来るまでこのまま待機だ、カタリナもゆっくり休んでおけ」

「わかりました」


「そうだ。カタリナの鎧と武器、盾も強化しておこう」

「よろしいのですか?」


「もちろんだ、味方の装備が良い方が、俺も楽だし生存率も上がる」

「それでは、お言葉に甘えて……」


 カタリナが鎧を脱いでいる間に、剣を強化する。


「オリハルコンの剣か」


 さすが王女の剣だ。オリハルコンは錬金術と相性が良いので、強化しやすい。

 剣を強化したら、オリハルコンの盾も強化する。盾が終われば、鎧である。

 動いたときに音がしないように、改造を施すのも忘れない。


「剣も鎧も軽くしておくぞ。いいか?」

「もちろんですわ!」


 鎧は右ひざの下、再生させた部分が、少し真新しかった。

 カタリナの装備を全て強化すると、俺はガウとリアと一緒に横になる。

 カタリナも俺の隣で横になった。


 俺はずっと気になっていたことを尋ねる。


「……剣聖の称号はいつどうやって手に入れたんだ?」

「九歳の時から、五年連続で剣術大会で優勝し、父に貰いました。剣聖になってからも二回優勝しましたが」

「そうか、凄いな」


「疑っておられますか? 王女だから相手が忖度したとか、そもそも大会のレベルが低かったとか」

「いや、疑ってはいない。カタリナは他の奴等より身体強化の魔法が上手かったからな」


 上手いといってもこの時代の奴等に比べてだ。だが、他の者よりは圧倒的に巧みだった。


「身体強化の効果は非常に大きい。言ってみれば狼の群れに魔狼が紛れ込むようなもの。九歳でも剣豪に勝てるだろう」

「……そうだったのかもしれませぬ」

「俺がみんなに身体強化を教えているからな。これからは、これまでのカタリナクラスの戦士が大量に現われるぞ」

「それは、楽しみです」


 そういって、カタリナは微笑んだ。


「ちなみにだ。どういう経緯で右足を失った?」

「わらわは、兄上……第三王子とともに、魔王軍と戦いに行き、そこで失いました」

「そうか、魔物か?」

「魔人です」


 俺が魔人を倒したと判明したとき、カタリナは狼狽していた。

 魔人の強さを身に染みて知っていたのだろう。


「魔人は強く、わらわは為す術もなく右足を失いました。騎士たちの献身がなければ、命も失っていたでしょう」

「そうか、忠臣だな」

「はい。戦死者の館にいる忠臣たちが、わらわの命を救って良かったと思えるようわらわは武功をたてねばなりませぬ」


 戦死者の館とは、伝承上で戦死した者が行くと言われる場所だ。


「そうか、まだ戦死者の館には行くなよ?」

「もちろんですわ」


 そのまま、数時間が経った。

「……こないな」

「がうー」


 既に太陽はだいぶ西の方に傾いている。

 あと一時間もすれば、地平線の向こうに沈むだろう。


「りゃりゃ!」


 リアは待っていることに飽きたのか、ガウの背に乗って遊んだりしている。

 そんなガウとリアをカタリナは撫でていた。


「このまま来ないならそれに越したことは無いんだが……」


 そう都合よくは進まないだろう。

 俺もカタリナと一緒にガウとリアを撫でて和んでおく。


「俺たちにはガウたちがいて和めるから、いくらでも待てるが……冒険者たちは大変そうだな」


 恐らく王都の城壁でずっと臨戦態勢で待っているのだろう。

 すでに精神的にかなり疲労していてもおかしくない。


「まさか疲れさせる作戦か? ……いや、それはないか」


 魔人どもは人族を舐めている。策を弄したりするとは考えにくい。

 焦っても仕方がない。俺はのんびり待つことにした。


「ガウッ!」

「ありがとう。……完全に寝てた」


 俺はガウにべろべろ舐められて目を覚ました。

 どうやら、昨日、沢山働いたためか疲れていたようだ。


「寝たおかげで、疲れが取れたな」


 さすがは十代の肉体である。

 百八歳の肉体だった頃ならば、疲れが抜けるまで数週間かかったかもしれない。


「ルードさま。日が沈みましたわ。魔物の時間です」


 完全に日は沈んでいた。

 今日は新月。月は夜空に浮かんでいない。


 星明りしかなく、周囲はとても暗かった。

 俺は、胸の上で眠っていたリアを服の中に入れると立ち上がる。


「……さてと」


 俺はガウの頭を撫でる。

 ガウは俺を起す時、強めに吠えた。


 きっと魔物の気配を感じて起こしてくれたに違いない。


「カタリナ、これを飲んでおきなさい。ガウも」


 鞄から身体強化能力ポーションを取り出して、カタリナとガウに飲ませて、自分も飲む。


「おお、よく見えるな。念のために付与した夜目が利くようになる効果が役に立った」


 第一防壁の上から南の方を眺めると、はるか遠くに魔物の群れが見えた。

 見事に統制が取れている。音もなく静かに移動している。

 まるで精鋭の騎士団が夜襲をしかけるときのようだ。


「知能の低いゴブリンどもを、よくもまあ、あそこまで操れるもんだ……」

 魔物の群れを操れるのは、群れを率いる魔人固有の特殊能力かもしれない。


「まるで夜襲を掛ける軍隊のようですわ」


 魔物たちは俺の予想に反し、こちらの隙をつこうとしている。

 音を消し、夜陰に乗じているということはそういうことだ。


「……油断してくれていないのかよ」

 魔王軍の幹部である炎の魔人を、俺が倒したからだろうか。


「カタリナ。ガウ。リア。息を殺して気配を消すぞ」

「かしこまりました」「がう」「りゃ」


 静かに隠れていれば、そう簡単に見つかりはしない。

 ガウは大人しく伏せている。


 リアはうとうとしながら服の中でもぞもぞ動いていた。

 カタリナは息を殺し、しゃがんでいた。


「カタリナ、ヒールポーションと疲労回復ポーション、マナポーションも渡しておこう」

「ありがとうございます」

「大型魔獣を上手く止められたら、しばらく潜伏してくれ」

「はい」

「城壁側で戦闘が始ったら、後ろからガウと一緒に敵に襲いかかるといい」

 こちら側の戦力が少なすぎるが、簡易的な挟撃になる。


「わかりました」「がう」


 息をひそめて待つこと十分。

 俺たちが潜む第一防壁の手前、五十メトルの位置で魔物の群れの先頭が止まった。


 ゴブリンやオークなどで構成された千匹の集団の先頭に巨大な地竜が一体いる。

 そして集団の上空には魔人が浮かんでいた。


 幸運なことに、城壁を壊せそうなほど大きな魔獣はその地竜だけだ。

 俺の位置から、魔人までは百メトルは距離がある。だが強烈な魔力を感じる。

 確実に炎の魔人よりも強い。


 その魔人は地竜の上空まで移動すると口を開く。


「おい。何を止まっている。足を止めるな!」


 魔人が命令を下すと、千匹のゴブリンやオークが一糸乱れぬ動きで歩き出す。

 明らかに異常だ。魔人が行動を支配しているのだ。


 余程強い固有能力で、魔物たちを操っているのだろう。

 目の粗い網のような構造をしている第一防壁の空いた隙間をゴブリンやオークたちは粛々と通っていった。

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