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【書籍版】若返りの錬金術師~史上最高の錬金術師が転生したのは、錬金術が衰退した世界でした~  作者: えぞぎんぎつね
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35 井戸を作ろう

 家に限らず、何かを作るのは楽しいものだ。


「とりあえず、井戸を作るか」


 俺は魔法で地下の状態を調べると【物質移動】で穴を掘る。

 岩で壁面を固めながら、掘っていく。


「りゃっりゃ!」


 錬金術に興味があるのか、興奮気味にリアが鳴いていた。

 井戸を掘り終えたら次は地上部分に石を加工して組み立てていく。


 ついでに金属を加工して、手押しポンプも作って設置した。

 使ったのは【物質移動】と【形状変化】である。


「成形だけなら簡単にできる。だが装置は機構を理解してないと作れないんだ」

「りゃあ?」

「錬金術師は装置の構造にも詳しくないといけないんだよ」


 リアにそんなことを説明していると、遠くから子供が眺めていることに気が付いた。

 こげ茶色の獣耳と尻尾が生えているので獣人の子供だろう。

 木の陰に隠れてこっそりと見ている。


 十歳前ぐらいの男の子だ。避難民の子供だろう。

 手に木の桶を持っている。川に水を汲みに行こうとして俺たちに気づいたのだろう。


 俺は子供にかまわずに井戸の装置を動かす。

 取っ手を手動で動かすと、ポンプで水がくみ上げられる仕組みだ。


 しばらく動かすと、バシャバシャと水が蛇口から流れ始める。

 その水を桶にためた。


 そしてまず俺が飲んでみる。

 毒性がないことはチェックずみだ。


 だが、水は本当に細かな内容物の違いで味が違うのだ。


「ふむ。おいしいな。ガウたちも飲んでいいよ」

「りゃあ!」「がぅ!」


 リアが俺の肩の上からぴょんと降りて、ガウの頭の上に乗る。

 そしてガウは嬉しそうに、その桶から水を飲みはじめた。


 リアはガウの耳を掴んで、自分も身を乗り出して水を飲んでいる。

 リアもガウも喉が渇いていたのかもしれない。


「おいしいか?」

「りゃ」


 リアは返事をしたが、ガウはぱちゃぱちゃ音を立てて、一生懸命水を飲んでいた。

 そんなガウとリアを撫でていると、子供がすぐ近くまで寄ってきていた。


「どうした、少年」

 子供はガウをじっと見ている。


「その大きな魔物は、お兄さんの?」

「ガウか? ああ、俺は冒険者で、ガウは俺の従魔なんだ。危険はない」

「冒険者なんだ、凄い」

「俺はルードヴィヒ。ルードと呼んでくれ。そして、こいつらはガウとリアだ」

「おれはタルホっていうんだ」


 自己紹介を済ませると、タルホの興味は井戸に移る。


「ルードさん、これは何だい?」

「これは井戸と手押しポンプだな」

「手押しポンプ?」

「これをこうやって……」


 使い方を実践して見せると、タルホの目が輝いた。

 尻尾が勢い良く揺れる。きっと犬か狼あたりの獣人だろう。


「す、すごい!」

「手押しポンプはそう珍しい装置ではないだろう?」


 少なくとも千年前には普及していた装置だったはずだ。

 それに金属加工だけでいいので、錬金術なしでも作ることができる。


「そりゃ、おれも見たことあるけど、ルードさんあっという間に作ったから」

 装置自体に驚いたのではなく、あっという間に作ったことに驚いたようだ。


「……俺は本物の錬金術師だからな、そのぐらいできる」

「本物?」

「ああ、巷の自称錬金術師は詐欺師だが、俺は本物だ。このぐらいはできる」

「す、すげー。錬金術師すげー」


 タルホは心底感動しているようだった。

 錬金術師への偏見が少ない子供に錬金術の凄さを広めるのはいい方法かもしれない。


「タルホ。この井戸は自由に使っていいよ」

「え? いいの?」

「ああ、みんなにも使っていいって伝えておいてくれ」

「ありがとう!」

「もし希望があれば、もっと集落の近くに井戸を作ってもいい。言われたらすぐ作るよ」


 便利な井戸とはいえ、集落の近くに勝手に作るのはよくない。

 希望を聞いてからにすべきだろう。


「すげー、さすが本物の錬金術師!」

「遠慮はしなくていいからな」

 俺はそう言うと、次の作業、つまり家の建築へと移ることにした。

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