33 ヨハネス商会への帰宅
ギルド受付担当者はニコニコしていた。
「えっと報奨金ですが、魔人三匹討伐で三千万ゴルド。炎の魔人の賞金が五千万ゴルドです」
「おお、高いな。ありがたい」
合計で八千万ゴルドである。
魔人を一匹倒せば千万ゴルド固定でもらえるシステムらしい。
千万ゴルドというと、トマソンたちと出会った時に倒した魔熊の賞金の二倍だ。
魔人は、あの魔熊より二倍以上強いと思うが、そういうシステムなら仕方がない。
ゴブリンと魔猪の討伐の報奨金を合わせて八千八十万ゴルドだ。
これだけあれば、俺が出した薬草採集の依頼の報酬も充分払えるだろう。
それに色々なものを買える。小さな家も買えるかもしれない。
だが、小さな家ではガウはつらかろう。
ガウと一緒に暮らし、錬金術の工房も用意するには八千万程度では難しい。
「ぁぅ?」
ガウがこっちを見上げていたので、俺はガウの頭をワシワシ撫でた。
三千万ゴルドだけ受け取り、残り五千八十万ゴルドはギルドに預けておく。
やることを全て終わらせると、冒険者たちに挨拶して、冒険者ギルドの建物を出た。
「さて……」
「がう?」
大きなガウがいる以上、ヨハネス商会の居候を続けるのは難しかろう。
今までお世話になったお礼を言わなければなるまい。
せっかく大金を手に入れたのだ。
ヨナとトマソンたちのためにお礼の菓子折りを買って、ヨハネス商会へと向かう。
ヨハネス商会の従業員用通用口から入ると、たまたま従業員の一人と出くわした。
「うわっ」
「すみません。うちのガウが大きくて……」
「なんだルードさんでしたか。従魔ですか?」
その従業員は、俺がヨナたちに出会った時の荷馬車の一行の一人だ。
それゆえ、俺とは顔見知りなのだ。
俺はガウのことを紹介する。
そして、大きなガウのために宿を変えようと考えていることを従業員に話す。
それを従業員は真面目な顔で聞いていた。
俺が話し終わるとすぐに従業員が言う。
「すぐにヨハネス商会長を呼んできますね」
「ヨナは忙しいだろうから呼ばなくても……」
「そういうわけには参りません。とりあえず、ここは狭いのでこちらで!」
従業員は俺とガウ、リアを通用口から少し入ったところにある食堂へと案内してくれた。
「本当は客間に案内したいのですが、ガウさんは大きいですからね!」
「ぁぅ」
「ヨナは忙しいだろうから、伝言してくれるだけでいいのだが……」
俺はもう一度そういったが、従業員は気にしない。
「少し待っていてくださいね! すぐ連れてくるので! ルードさんにお茶をお出しして!」
ヨナは忙しいと思うので遠慮しようとしたのだが、職員は走って行ってしまった。
すると、すぐにお茶とお茶菓子が運ばれてくる。
ガウとリアにも白湯が出された。
「がふがふがふっ」
ガウは喉が渇いていたのか勢いよく飲んだ。
「りゃっりゃ!」
リアはお茶菓子が気に入ったようだ。両手でつかんでハムハムたべる。
「ルードさん! お待たせしました」
ヨナは本当にすぐに来た。
ヨナの声がした瞬間、リアが嬉しそうにヨナのところに飛んでいった。
「リア、今日も可愛いですね」
「りゃあ」
「そして、こちらが新しいルードさんの従魔ですか? 本当に大きいですね!」
「ガウという。魔狼なんだが、俺をかばって怪我をして毛がなくなってしまったんだ」
「それは可哀そうに……、ガウを撫でても?」
「もちろんだ」
すぐにヨナはガウを撫で始める。ガウは無言で尻尾を振っていた。
そして、俺はヨナに詳しい経緯を説明する。
ヨナはガウを撫でながら真剣な顔でふんふんと聞いていた。
「そういうことがあったのですね」
「ああ、そこでガウと一緒に過ごせる部屋に移ろうと思っているんだ」
「……確かに護衛用の宿舎では狭いかもしれませんね」
俺は今まで泊めてくれたお礼を言い、菓子折りを渡した。
「ですが……。王都で宿をとるのは難しいかもしれません」
魔王軍のせいで避難民が大量に押し寄せてきている。
宿屋はもちろんのこと、空き家の類いも満杯なのだそうだ。
「需要が高くなりすぎたせいで、家賃も高騰もしていますし……」
貧しい避難民の中には家のない生活をしている者も多いようだ。
「……そうだったのか」
「がぅー」
今日明日なら、俺は冒険者ギルドの宿舎に泊めてもらえることになっている。
だが、冒険者ギルドの宿舎はみんなの施設。一人で長い期間専有するわけにはいかない。
「私としましては、ガウさんとリアさんが部屋に泊まることは全く問題ないのですが……」
そしてヨナはガウの頭を撫でる。
「ガウさんは狭くてストレスがたまりそうですよね……」
「……王都の外に小屋を建てるのは違法だろうか?」
「違法ではないですが……危険ですよ」
ヨナは心底心配そうにそう言った。





