28 魂
「疲れただろう。眠るといいよ」
「りりゃ」「がう」
リアは俺の胸の上に乗っかって丸くなった。ガウは俺に寄り添うように横になる。
リアとガウを撫でながら、俺は呟く。
「リアの正体って何だろうな」
「りゃあ?」
魔人たちはリアのことを魔王だと思っている節があった。
リアが魔王でなければそれでいい。だが魔王であったならば、
「問題は転生か転移か、だよな」
千三十年前。
俺はリアと同じ深紅の鱗を持つ魔王と戦った。
魔王にとどめを刺す直前、魔王が、俺の知らない魔法を発動させたのだ。
そして、気付いたら俺は若返った状態で現代に全裸で立っていた。
リアが魔王ならば、色々と腑に落ちることもある。
俺が若返ったように、リアも若返ったから今赤ちゃんなのかもしれない。
「リア、若返った記憶は無いか?」
「りゃぁ……?」
「昔の記憶とか」
「りゃぅ?」
どうやら、リアには記憶はなさそうだ。
記憶が無いからといって、リアが魔王ではないと判断するのは早計だ。
俺には記憶があるが、それは十代までしか若返ってないからかもしれない。
赤ちゃんまで若返れば、記憶も失われた可能性は高いだろう。
成長とともに記憶が甦る仕組みなのかもしれない。
「いや、まて。……もし、成長とともに記憶が甦るなら、甦ったときそれまでの記憶はどうなる?」
「りゃ?」
赤ちゃんから成長するまでの記憶は、千年前の記憶と並列する形で残るのだろうか。
それとも、赤ちゃんから少年に成長するまでの記憶は失われるのだろうか。
「もしかして、俺は記憶を失ったのか。それとも……」
俺は気付いたとき、全裸で倒れていた。それも、若返った身体でだ。
「そもそも、若返りの魔法などありうるのか?」
錬金術は生物にはかけることができない。若返りがあるならば、魔法だ。
若返りの魔法があると仮定して、どのような方法を用いれば可能かどうか考察しなければなるまい。
最初に思いつくのは、肉体に流れる時を逆転させる方法だ。
そのようなことが可能ならば、全ての回復魔法と治療薬は不要な物になる。
怪我をする前、病を患う前に時間を戻せば良いのだから。
そもそも、死者蘇生すら可能になるだろう。
死ぬ前に時間を戻せばいいだけだ。
「……いや、違うな」
魔法で魔力を別のものに変化させる術なのだ。
魔法で若返りをなすならば、その場で魔力を用いて若い肉体を作らなければならない。
恐らく不可能だ。それは錬金術の領域だ。
もし仮にそれが可能だったとしても、魔王が俺の肉体を用意する理由がない。
「それに魂は老いた体に順応するから……」
若い肉体を用意し、百八歳の俺の魂を放りこんでも、馴染まないだろう。
カタリナの足を再生したとき、欠損して一か月しか経っていなかった。
だから比較的短期間に単に馴染ませることができるのだ。
だが、老化は百八年かけて、老いた肉体に魂が馴染んでいる。
若い身体を作ろうと、馴染むまで数十年はかかるだろう。
無理やり魂を突っ込んでも、指一本動かすことすら難しいに違いない。
「肉体を若返らせることが可能ならば……」」
千年前の俺が先にやっている。
「魔法による若返りでないならば、転生はどうだろうか?」
転生魔法は非常に高度で難しい魔法だ。
成功者した者など、有史上確認されていない。
「……だが、理論上は可能か」
問題となるのは魂の所在と、魂の性質だ。
魂という存在自体、謎が多く、諸説がある。
諸説があるというよりも、なにもわかっていないと言った方がいいかもしれない。
神学者たちは魂についての定説をもっているが、考慮には値しない。
検証可能性のない、神という存在を基にした説だからだ。
「魔王は、魂について何か掴んでいたのか?」
「りゃ?」
リアは眠そうにしながら、ゆっくりと尻尾を振っている。
「たしか……転生魔法の理論では……」
一、魂を肉体と分離したあと、
二、霧散しないように現世にとどめおき、
三、ふさわしい肉体に移し替える。
だったと思う。
ふさわしい肉体にも諸説がある。
何らかの理由で魂が入らなかった肉体に入り込ませる方法と、既に存在する魂を除去すると方法。
他にも、既存の魂に融合させる方法を推す説もある。
どれも、実際に確かめられたものではない。
転生魔法の研究者が、魂がどのような存在かの仮説を立て、その仮説に基づいてさらに仮説を立てるのだ。
「もっとも、魂についての仮説は、まったく根拠がない説ではないが……」
人の魂は物理的な存在ではないので研究は難しい。
見ることも触れることもできない魂を研究するのは至難の業だ。
だから、霊鬼や 屍人といったアンデッドの研究を進め、そこから魂の性質を掴んでいった。
魂研究は、アンデッド研究の副産物と言っていい。
「アンデッド……炎の魔人の存在とつながったな」
アンデッドについても、転生についても、魔王軍が人類よりはるかに先に進んでいてもおかしくはない。
「記憶についても、大きなヒントになりうるよな」
俺の現状が転生魔法によるものだと仮定してみよう。
そうなると、俺は前世の記憶を持ったまま転生したことになる。
元々、記憶は肉体、特に頭に宿るという説が主流だった。
頭を損傷することで記憶を失う者がいたからだろう。
だが、研究を進めるうちに、記憶を保持している魂の存在が明らかになる。
死体に別の死者の魂が取憑いたワイトの一部は、生前の魂側の記憶を保持していた。
加えて憑依する魔物は、元の肉体から離れても記憶と自我の同一性を維持している。
ヴァンパイアなども、霧に変わり脳が消えても、記憶を失わない。
「…………とりあえず最新の研究を探してみるか」
俺の知識は千年以上も前のものだ。
錬金術と魔法は千年の間に衰退してしまったが、魂の研究が衰退したとは限らない。
大きく発展している可能性だってある。
「いや、待て。転生だとすると俺は赤子として生まれてきた可能性もあるのか」
何らかの要因で千年前の記憶が甦り、代わりに現代で生きてきた記憶を失った可能性だ。
「りゃあ?」
「うん。俺自身を知っている者がいないか、調べて見るか」
俺が赤子として転生してきていた場合、俺を産み育ててくれた何者かがいるはずだ。
それを知らんぷりして生きるのは、記憶が無いとしても少し薄情な気がする。
転生魔法と魂についてと、俺のことを知っている者がいないか調べる。
それをしながら、錬金術を普及していこう。
そんなことを考えているうちに、俺は眠りについたのだった。
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