56 ケイナ
結局、ケイナは療養するために俺の家に泊まっていくことになった。
ケイナは俺のベッドに眠り、俺は今の長椅子でリア、ガウ、グルルと一緒に眠った。
それから三日後の朝。
「世話になった。ルードヴィヒ!」
ケイナは、俺が用意した錬金術で強化した服と靴を身につけている。
今すぐにでも、出発できそうな状態だ。
「回復が早いとは思っていたが……もういいのか?」
「ああ、さすがは錬金薬だ。敵だったときは憎たらしいが、味方になると頼もしい」
そういって、ケイナは笑った。
いくら錬金薬だろうと、三日で治るような傷では無かった。
ケイナの魔力と体力が尋常ではなかったゆえに、回復も早かったのだ。
「がぁぅ」「ぐるる~」
ガウとグルルがケイナの手をベロベロ舐めている。
「うむ。ガウ、グルル。ルードが南方に来るならば、また会えよう」
そういって、ケイナはよだれでベトベトになった手で、ガウとグルルを撫でる。
さりげなくよだれをなすりつけているように見えなくもない。
リアは俺の肩の上に乗ったまま、ケイナを見て鳴いた。
「りゃむ」
それは、元気でなと言っているかのようだった。
「はい、リア。またお会いしましょう」
もうケイナは敬語を使っても、魔王と呼ばない。
リアが魔王であることは、広く知られない方が良いからだ。
「じゃあ、先に行ってくる。魔人を大人しくさせるのが面倒だが、なんとかなるであろう!」
「……ケイナ。レイナに会ってからじゃなくて良いのか?」
「…………会わぬ方が良い。どうかばってもらおうと、私はウドー王国の法に照らし合わせれば犯罪者だからな。万一にでもレイナに迷惑はかけられん」
ケイナは少し寂しそうに言う。
「そうか。それがいいのかもな」
レイナは魔族。そして魔族は偏見の目で見られがちなのだ。
そのうえ、今、尚書は改革の中心にいる。
政敵が尚書を攻撃する材料を必死になって探しているはずなのだ。
「りゃぁあむ」
寂しそうにしていると思ったのか、リアがパタパタとケイナの元に飛んでいく。
そして、小さな手でケイナのことを撫でた。
「リア……ありがとう」
「べちゃべちゃべちゃべちゃ」「べちゃべちゃ」
ガウとグルルも慰めようとしているのか、一層激しくケイナの手を舐めていた。
「そうだ。ケイナ、これを持っていけ」
俺は錬金術で強化した剣と各種ポーション類の入った鞄を手渡した。
「身体強化のポーションは……魔法が得意なケイナには必要ないだろうが、一応入れておいたぞ」
「おお! 身体強化ポーションは極限時に役に立つよ。それにマナポーション。これが凄く助かるよ!」
ケイナは嬉しそうに剣を腰に差して、鞄を背負う。
そして、元気に南へと向けて帰っていった。
「さて、俺も本格的に動き出すか」
南の開拓を自由に行える権利を得なければならない。
もちろん、この三日間の間にカタリナを通じて、希望を伝えているが交渉などは始めていない。
いま、ケイナたちのいる南方の荒れ地は誰の領地でもない。
ウドー王国の他のどの国も領有していないのだ。
ウドー王国の南端は、魔王軍に滅ぼされた辺境伯家の領地である。
その更に南方の地は、荒れ地なうえ魔物が多いので、領有する価値のない土地として放置されつづけていた。
だからこそ、虐げられし魔族が住み着いても放置されていたのである。
だが、開拓し豊かになれば、その土地の領有権を主張するものが必ず出てくるはずだ。
「それを防ぐには……」
できれば、カタリナの領地にしてもらうのが、一番だ。
だが、カタリナは王位継承順位一位の王太女になると噂されている。
そうなると、中々地方領主にはなれないだろう。
「王の直轄地にしてもらって、カタリナに代官になってもらうのが、現実的かな?」
「ぐる~」
グルルが俺の袖を引っ張る
「うん。大丈夫、グルルをおいて南にいったりしないからね」
「ぐるるぅ~」
いつもそう言っているのだが、定期的にグルルは不安になるらしかった。
その日の午後。
俺の家にレイナがやってきた。
「あの、姉上は?」
「今朝方、南の方に帰って行ったぞ」
「……そうですか」
レイナが寂しそうにしているのをみて、すかさずガウとグルルがその手を舐めにいった。
どうやら、ガウとグルルは元気づけるためには手を舐めるのがいいと思っているらしい。
「それで、メニル。何のようだ?」
「陛下がお呼びですよ。明日の正午から論功行賞の式典なので、明日は朝から王宮に来てください!」
「早いな」
「たしかに早いと言えば早いですが、スタンピードから大分経ってますし。……はい、これが衣装です!」
そういって、俺が着る服を取り出した。
「なにから何まですまないな」
「いえいえ、着方はわかりますか?」
「ん? ああ、大丈夫だ。それよりグルルはどこまで入れる?」
「ぐる~」
「さすがに、会場には入れません。従魔は武器扱いですから……」
「そりゃそうだな。グルル、明日はごめんな」
「……ぐる」
しょんぼりするグルルを元気づけるようにレイナは言う。
「ですけど、会場近くにグルルの待機部屋を用意してあるので!」
「……ぐる」
「りゃ~」「が~う」
リアは撫でて、ガウは舐めて、グルルを慰めている。
「え? 大きなグルルだけでなく、リアとガウも入れませんよ?」
「りゃ~?」「ガウ?」
驚いて固まるリアとガウを俺は撫でた。
「まあ、そんなに掛からないだろうし。しばらく待機部屋で仲良く待っていてくれ」
「ぐるる」
グルルがリアとガウを慰めるようにペロペロ舐めた。
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