54 エイナの姉ケイナ・メニル
俺は自宅へと戻る。
ドミニクの部下たちは、まだ土の手で拘束されたままだった。
メニルに対応を頼んでおいたので、そのうち回収に来るだろう。
ベッドにメニルの姉を寝かせて、改めて治療をしていると、
「……ここは?」
メニルの姉が目を覚ました。
「俺の家だ」
「…………」
ハッとしてメニルの姉は毛布で自分の胸を隠す。
「そういうことをしてたわけではない。治療だ治療」
「りゃあ?」「がう」「ぐる~」
リアが、心配そうにメニルの姉を撫でに行く。
ガウとグルルも心配そうにメニルの姉が横になっているベッドに顎を乗せていた。
「さて、お前が気絶してからの話をしよう。名前は?」
「ケイナ。ケイナ・メニルだ」
「うん、ケイナか。いい名だ」
ギルバートの妻がエイナで、妹のメニルの名がレイナ、そしてギルド職員の魔族の娘はアイナだった。
恐らく女の子の名に「イナ」をつけるのが魔族のあいだで流行っているのだろう。
「それで、あれから起こったことだが……」
俺はケイナに宰相や宮廷魔導師長、そしてグレゴールがどうなったのか説明する。
王と尚書、そしてメニルが、今なにをしているのかもだ。
「あの、ちっちゃかったレイナが……」
「ああ、今では尚書の副官だ。かなり有能っぽかったぞ」
「そうか……」
ケイナは嬉しそうにする。
「それで、本題だ。なぜあの場にいた?」
「それは……」
「安心しろ。お前が何者であっても、メニル、いやレイナが困ることが無いようにしよう」
尚書の副官であるレイナだけでなく、姉のケイナもメニルなので、レイナのことをメニルと呼べなくなってしまった。
「…………」
そういってもケイナは沈黙したままだ。
俺には、どうやってごまかそうか必死になって考えているように見えた。
「ごまかさなくていいぞ。たとえ、ケイナが魔王軍副総裁、その人だったとしてもな」
「っ!」
「りゃ?」
ケイナは目に見えて動揺して、手を震えさせる。
それを心配したリアが、ケイナの肩にのり、ペロペロと頬をなめた。
「やはり、そうか」
「な、なぜ?」
「なぜって……」
はっきりいって、勘である。
だが、それなりにあり得る話だとは思った。
少なくとも、ケイナは魔王軍の大幹部であることは確実だと思っていた。
「まず、ケイナが強い。現代で戦ったどの魔人よりもな」
魔王軍副総裁は人型という以外、種族すら謎だ。
だが、確実にわかっているのは、配下の魔人より強いということだ。
魔人が弱い者に従うことは無いのだ。
「強いだけで、魔王軍副総裁だ、などと……」
「あともう一つ、副総裁についてわかっていることがある」
「それは?」
「千年前の魔王を知っているということ。そして、魔王を敬愛しているということ」
魔法軍副総裁は魔人を支配できるぐらい強いのだ。
魔王を敬愛していないのならば、自ら魔王を名乗るだろう。
「敢えて副総裁を名乗るところに、魔王に対する遠慮がみえる」
敬愛の心がなければ、千年も前に亡くなったはずの魔王に遠慮したりしない。
「そのうえ、人族の街を必要以上に攻めなかっただろう?」
「……」
「魔王に渡すために城と軍を用意したと噂されていたが、それだけならば、攻め落としても良いはずだ」
魔王にとって、人族の城を攻め落とすなど、簡単すぎる。
達成感など覚えるはずもなく、ただただ面倒な雑事である。
「だから、副総裁は、魔王の目的を知っていると思った」
「目的?」
「魔族の救済」
「っ!」
「人族を滅ぼすかどうかは、魔王に任せる。そう考えたんだろう?」
だから、攻めなかったのだ。
「となると、副総裁は千年前の魔王のことを知っているということになる。千年前のことを知っているなら、俺のことも知っているはずだ」
ケイナは俺のことを知っていた。
そして、傷ついたケイナのもとに駆けつけようとしたリアに「来るな」と絶叫した。
俺がケイナを殺す際に、リアが巻き込まれることを恐れたように、俺には見えた。
「魔人にも……千年前を知る者はいる。それに……魔人の中にも魔王陛下を敬愛しているものもいる」
「敬愛。違うな。奴等のは服従だ。絶対的な強者へのな」
憧れに近い感情を持っている魔人もいるだろう。
それほどに、魔王は強かった。
「まあ、どれも推測だ。本当のところはわからん」
「……」
「で、本当のところはなんだ? お前が魔王軍副総裁だろうと、大幹部だろうと、俺はお前を殺さないし、レイナに累を及ぼさない」
「どうして、その言葉を信用できようか」
「……俺はリアが魔王かも知れないと思っている」
「りゃ~?」「っ!」
話の内容はわからなくとも、名を呼ばれたとわかったらしいリアがきょとんとして首をかしげる。
そして、ケイナは息を呑んだ。
「だが、それでもいいと思っている。リアを殺そうとは思わない」
「なぜ……魔王は人族を滅ぼす存在だと……」
「先に魔族を滅ぼそうとしたのは人族だ」
「お前がそれをいうのか?」
ケイナはじっと俺の目を見る。
「ああ、俺はやはり人族なんだ。どうしても人族を守ってしまう」
「……」
「だが、魔王にも正義があるのはわかる。魔族が人族を恨む理由もわかる」
「ならば、お前はどうするのだ? ルードヴィヒ」
「わからん。魔王軍が攻めてきたら戦うよ。だが、こちらから攻める気は無い」
「……嘘をついているようではなさそうだな」
そういって、ケイナはしばらく考えた。
「そうだ。お察しの通り、私が魔王軍副総裁だ」
ケイナはどこか諦めたように、そう呟いた。
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