51 宮廷魔導師長ダジンスキー
俺は塞いでいたドミニクの目、耳、口を解放する。
「ふえ?」
現状を把握出来ずに、うろたえているドミニク付きの槍を、
「グレゴール。お前の再従弟とやらを返すぞ。受け取れ!」
グレゴール目がけて投げつけた。
「ふぐやああああああ」
ドミニクは悲鳴を上げて、垂れ流した汚物をまき散らし、
「ひいい!」
グレゴールは飛んできた槍に怯え、頭を抱えてうずくまり、
「ドミニク!」
魔導の中にいた豪華な服を着た一人の魔導師は慌てた様子で槍を捕まえにいって、転倒する。
そして、槍は魔導騎士の一人に叩かれて、地面を転がった。
「ぐぼお」
その際にドミニクは鼻を強かに打って、血を流した。
「おのれ! ドミニクを地面にたたき落とすとはなにごとだ!」
「で、ですが、そうしなければ殿下に危害が!」
「黙れ!」
次の瞬間、槍を叩き落としてドミニクを守った魔導騎士の首が飛んだ。
魔導師が剣で首をはねたのだ。
「ドミニクを治療せよ!」
魔導師は魔導騎士たちを怒鳴りつけると、顔を真っ赤にして俺を見る。
「我が息子にこの仕打ち、ゆるさんぞ」
「あ、お前が宮廷魔導師長ダジンスキーか」
「我を知っていながら、この態度、許すことはでき――」
「ちゃんと子供をしつけておけ、馬鹿ものが!」
「ふざけ――」
「魔導師なのに首をはねるのに剣を使うのか? 修練がたりんぞ?」
ダジンスキ-の言葉など聞く価値もない。
「お前の従甥が王になろうと、錬金術が無ければ国が滅びる。亡国の王位に何の価値があるんだ?」
「馬鹿なことを……我が国が滅びるなど……」
「辺境伯家が敗れ、第三王子の軍が為す術も無く敗れ、王都まで攻め込まれたというのに、まだ危機感が無いのか?」
「…………」「…………」
ダジンスキーもグレゴールもきょとんとしている。
「安全な場所で安穏としているから、正常な判断ができなくなるのだ」
「好き勝手なことを、青二才が!」
「……ダジンスキー。お前、宮廷魔導師長になるぐらいだ。魔法が上手いんだろう?」
「当然だ!」
「いまから錬金術で攻撃する。得意な魔法で防いでみろ」
「いい度胸だ! 目に物見せてやる! おい!」
ダジンスキーは周囲の魔導騎士にも促して、魔法を準備し始める。
「卑怯な! 恥を知りなさい! ダジンスキー!」
カタリナが、ダジンスキーを非難する。
「一対一と誰がいった? 自分の浅はかさを後悔して死ね!」
「構わんぞ。ダジンスキー」
俺は黙ってダジンスキーたちの魔法が完成するのを待った。
「馬鹿が! 死ねええええ!」
ダジンスキーが絶叫し、魔法が放たれる。
ダジンスキーと十人の魔導騎士たち、そして、隠れていた宮廷魔導師二十人の魔法が一斉に飛んでくる。
俺は魔法の発動を見てから、地面に敷詰められた石畳を右足でトンと叩く。
「死んでおけ」
石が【形状変化】でバラバラになり、【物質移動】で飛んでいく。
「ぐへぁ」「がはあ」「ぐぎぃ」
周囲から魔道騎士達と宮廷魔導師の悲鳴が上がる。
「これがお前の渾身の魔法か? 温いな」
そして、ダジンスキーたちが放った魔法は【形態変化】で魔力に戻す。
「な、なにが起こった?」
周りにいる魔道騎士が全て倒れて、放たれた魔法は全て消え、ダジンスキーは呆然とした表情で立ち尽くす。
グレゴールは「ひぃぃぃ」と言いながら、尻をこちらに向けうずくまって両手で頭を覆っていた。
「ダジンスキー。全てが遅い。魔力を練るのも、発動までの時間も、発動してからの魔法の速度も」
「お、遅いわけが……」
「弱いなら、戦術を工夫しろ。なぜ正面から魔法をぶつけるんだ? 練った魔力も、発動する瞬間も、発動した魔法も、全てを隠せ」
「…………」
「これでは、魔人に勝てるわけが無い。修練が足りんぞ。若造が」
そして、俺は空気中の水分を【物質移動】で集めると、ダジンスキーの顔を覆った。
「ごぼ、ごぼぼぅ」
「地上で溺れる経験は、なかなかできることでは無いぞ。堪能しろ」
ゴボゴボいいながら、ダジンスキーは地面を転がって苦しがる。
それを放置して、うずくまるグレゴールに言う。
「おい、グレゴール。いつまでそうしているつもりだ」
「ひいい」
「お前は、このウドー王国の王になるのだろう? 敵に立ち向かえなくて、どうして民を守れようか」
「ひいぃぃぃ」
「敵を目の前に、怯え、うずくまり何もできないやつは王にふさわしくない」
俺はグレゴールに向かって歩いて近づいた。
近衛騎士は道を開く。
近衛騎士は人質を取られて無理矢理従わされているだけなのだ。
俺は右手でグレゴールの頭を掴むと、無理矢理引っ張り上げて立たせる。
立たせると言うより、右腕で頭を掴んで吊り上げたといった方が正確かもしれない。
「勝てずとも! 立ち上がり、立ち向かって……死ね!」
「ひいいい」
グレゴールは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして、大小便を垂れ流す。
「お前のようなやつは王にふさわしくない」
「やべばず、おうやべばす。ごめんだだい」
グレゴールの心は折れた。
騎士たちの目にも、明らかに王の器では無いと映っただろう。
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