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第96話・大賢者ルナ・フォルティシア

 

「お久しぶりです! フォルティシア師匠!」


 コロシアム近くの大通り、合流したユリアが大賢者ルナ・フォルティシアへ抱きついた。

 身長は若干ユリアより高く、さながら親のように彼女の金髪を撫で降ろした。


「久しぶりじゃのユリア、元気そうで嬉しいわい」


 本当に嬉しそうに弟子の顔を見ながら、フォルティシアは一言。


「しかしユリアよ、なんかずいぶん雰囲気が変わったようじゃな……。前はこう、もっと刺々しかった記憶が––––」


 そこまで言って、大賢者は俺たちの方を見る。


「あぁ……そういうことか、てっきりお前は永久ボッチを貫くんじゃないかとハラハラしておったが……杞憂であったな」


「ちょっ、師匠! そんなこと思ってたんですか!?」


「当たり前じゃろう、数年前は自分の強さにしか興味のない戦闘民族だったであろう。で、生徒会長にはなれたのか?」


「いえ、選挙には負けました。今のわたしは副会長として、わたしが支えるに相応しい方と一緒にいます」


 ユリアが手で俺を指す。

 前へ出て、彼女の師匠へ挨拶した。


「初めまして、生徒会長のアルス・イージスフォードです。副会長のユリアさんにはいつも助けてもらっています」


「これは丁寧に、では改めて」


 トンガリ帽子をかぶりなおし、太ももまでの黒いスカートと腰まで伸びた薄金髪をなびかせ、フォルティシアはこちらへ会釈する。


「ワシの名はルナ・フォルティシア。大賢者なんて言われておるが、ちょっと宝具に詳しいだけの老人––––気さくに接してもらって構わん」


 老人……!? いや外見まんま10代じゃん。


「はいはーい! ルナさん歳いくつなの? わたしたちと変わらない見た目だけど」


 いきなり下の名前で呼んだアリサが、爆速で失礼をかましに行く。

 だが、大賢者様は表情1つ変えずにアッサリ答えた。


「数え出したのは300年前かのぉ……、まぁ悠久を生きるワシに年齢などという概念はないし、気にしてもない」


「さ、300……!? 大先輩と呼ばせてください!!」


 驚愕した様子のミライが頭を下げる。


「好きに呼んでくれて構わぬ、それにこんなところではなんじゃ……ワシの家に来るが良い。宝具の話もしやすかろう」


 俺たちはそのまま、フォルティシアさんの自宅へバスに乗って向かった。


「お邪魔します」


 家は外見こそ普通の一軒家だが、入ったときの第一感想は“雑然”の一言に尽きる。

 玄関からキッチンまで資料や本が散らばっており、部屋の様相を保っていたのはリビングくらいだ。


 学者寄りの魔導士ってところか。


「あいにく紅茶を切らしていての、ハーブティーで良ければお出ししよう」


「ありがとうございます、お構いなく……」


 俺たちは3つあるソファーに2人ずつ座った、俺の隣にはミライが来る。


「懐かしいのぉ〜、昔はユリア……それにかつて義娘(ぎじょう)だったミリアにこうして茶を入れてやってたわい」


 ミリア。

 その名を聞いて、俺の中に1人の顔–––忌々しい元パーティーメンバーが連想された。


「ミリア……、それはミリア・クラウンソードのことですか?」


「……そうじゃイージスフォード、今はそう名乗っておるが彼女はワシの大事な義理の娘だった……かつてはユリアと一緒にここで暮らしておったよ」


「そう……ですか」


 マジかよ……。

 たしかに自分のことを賢者の娘だとか言ってるのは聞いていたが。


 一体なぜこんな聖人みたいな人に育てられて、怠惰な魔導士モドキなんかに……。


「師匠、もう”勘当“した女の話をしても重いだけですよ。それに彼女と会長の関係……ご存知ですよね?」


 ユリアの声に、茶をカップへ注ぎながらフォルティシアはケタケタと笑った。


「知っておるよ、アイツはもうワシの娘じゃない。だからこそあえて言ったんじゃよ––––自分への慰みも含めてな」


 俺たちの前へカップを出しながら、フォルティシアは残りのソファーへボフッと座った。

 帽子を脱ぎ、幼げだが威厳のある顔で俺たちを一瞥する。


「さて、おぬしらの目的は聞いておる……宝具の修理であろう?」


「そうです。––––ユリア」


 俺の声に合わせて、ウチの副会長は真っ二つに折れた宝具『インフィニティー・オーダー』を取り出した。

 それを眼前の大賢者へ渡す。


「これは……見事な壊れ方じゃな、宝具がここまで激しく損傷するとは……」


 緊張が舞い落りる。

 この人でダメなら、もう大陸で頼れる人間はいない……。

 乾いた口を潤すため、時計草(パッションフラワー)のティーが入ったカップを煽る。


「直せそう……ですか?」


 すがる思いで聞いた俺へ、大賢者ルナ・フォルティシアは––––––


「んーまぁこれなら楽勝じゃわい、真っ二つになってるだけじゃからくっつけておしまい。ワシにかかれば1日もいらん」


 俺たち全員が安堵で脱力した。

 特にユリアは、パーカーからスカートまで汗でぐっしょり濡れていた。


 それだけ、緊張していたのだろう。


「良かったねエーベルハルトさん、わたしもこれで安心して寝れるわぁ」


 ソファーにもたれながら息を吐くミライ。


「だが」と、フォルティシアは宝具を机に置いた。


「今のままでは、たとえワシが直したところで20日と保たぬ。それはユリア––––おぬしがこの宝具に認められていないからじゃ」

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