第92話・ざぁこざぁこと罵られました
やってしまった……。
バトルロワイヤルの予選を終えて、最初に抱いた感想はそれだった。
5つの会場で600人ずつ予選を行い、生き残った20組がそれぞれ本戦に出場ということなのだが。
俺は加減をミスって、開始2分で560人くらいを早々に場外へ叩き落としてしまった。
うん……完全にやり過ぎた、アリサが魔法効かないからって巻き添え上等の攻撃はさすがにマズイ。
死者重傷者がいなくてホント良かったと心から思う。
「いや〜、さっすがわたしが見込んだコンビだよ。生徒会書記として鼻が高いわー」
コロシアムの通路で、意気揚々のミライがダル絡みしてくる。
「っつかおいミライ、コラ、なんであれだけ啖呵切ったお前が観客席でのうのうと見学してるんだよ」
「んえっ? あっ、いや〜……」
目を逸らすミライの頬をグニグニつまんでいると、さっきペアで一緒に出場していたアリサが慌てた様子で横へ来る。
「あっ、待って違うのアルスくん。わたしが出たいってミライさんに頼んだんだよ」
「そうなのか?」
「うん、だってアルスくんはさ、今までユリやミライさんとその……1回は共闘してるわけじゃん。わたしだけまだ一緒に戦ったことないって思ったら寂しくて……」
そういう理由かよ、
ミライの頬から手を離す。
「ぁう〜っ、ほっぺ痛いよぉ〜」
「魔法で冷やすか?」
「じょ、冗談じゃないわよ! アンタの素の氷魔法なんてくらったら秒で凍死しちゃうじゃないっ!」
「悪い悪い、からかっただけだよ」
頬を膨らます子犬みたいな顔のミライを撫でていると、後ろから声が飛んできた。
「さすが知名度急上昇中の有名人、竜王級には予選なんてヌルゲーってわけね」
振り向くと、数人の取り巻きを連れた女の子が歩いてきた。
カールの掛かった桃色髪を下げ、上から黒が基調の服とプリーツスカートで決めた13歳くらいっぽいヤツ。
細い身体には大柄な弓を携えていた。
「どちら様でしょうか? 生憎、いま会長はお取り込み中なのですけど」
笑顔だが、凄くビキってるであろうユリアが応答する。
「アンタは生徒会副会長の……ユリア・フォン・ブラウンシュヴァイク・エーベルハルトね。初めまして––––わたしのことはレナと呼んで」
「……っ、おや。レナさんはわたしも知ってるのですか?」
「当然じゃない、かの冒険者ギルドランキング1位……『ドラゴニア』を実力で下した王立魔法学園の2トップ。今じゃ知らないヤツの方が少ない」
「へぇ、そうでしたか」
ジーッとユリアを見たレナは、プッと噴き出した。
「ユリアさんって、ライブで見るより結構ちっちゃいのねw」
ウチの副会長の瞳からハイライトがフッと消えた。
身長コンプレックスの激しいユリアがこの子を半殺しする前に、とりあえず色々聞いておかねば。
「で、レナさんは何の用があって俺たちのところへ?」
「決まってるじゃない、偵察よ偵察。わたしも予選通過したから顔を拝みに来たってわけ。でも杞憂だったわね〜あんな範囲攻撃に頼る脳筋じゃ話にもならない」
ミライが今にも噛みつきそうな顔をする。
だが、俺は彼女の背中を撫でつつ冷静に返した。
「ほぅ、っと言うと?」
「大規模魔法なんてねぇ、取り柄のない雑魚が使う雑多な手段なのよ。その点わたしのギルド––––『アーチャー・キングダム』は弓のガチ勢揃い!」
なるほど……つまりは弓専の集まりで、彼女はそこのギルドリーダーか。
ずいぶんご大層な自信と態度である。
「遠距離や近距離武器でわたしたちは倒せない、アンタを落としてわたしたちが冒険者トップだと知らしめてあげる」
非常に舐めた笑顔で、レナは手を口の前へ出した。
「ざぁこざぁこ、範囲攻撃しか能のないクソ雑魚竜王級っ。本戦では一瞬で逝かせてあげる」
そうセリフを吐いて、レナは取り巻きと共に歩き去っていった。
さっきからドス黒いオーラを出しっぱなしのユリアが、笑顔のまま口を開く。
「あのメスガキ……、顔を見た瞬間から舐め腐った態度だとは思いましたが……ここまでの愚鈍だとは考えていませんでしたね。こともあろうに会長を煽るなど死罪に等しい––––このコロシアムをぜひ墓標にしてさしあげましょうか」
怖っ……。
静かにキレている彼女のケアをミライに任せ、俺とアリサは会場へ向かった。
「アルスくんは怒んないの? ずいぶん好き勝手言われちゃったけど」
「……あれは多分、俺に大規模魔法を撃たせたくないからわざわざ煽りに来たんだろ。正面から範囲攻撃なしで来やがれっていう宣戦布告さ」
「なるほどぉ……じゃあ怒りはしない感じ?」
アリサの問いに、俺は全身の魔力をたぎらせた。
「はっ! まさか、徹底的に思い知らせるだけさ。それはアリサ––––お前もだろ?」
銀髪を揺らし、笑顔でコクリと頷くアリサ。
よっし……っ! いっちょ失礼者退治といきますか。




