第88話・次は生身で来い、本気で相手をしてやる
剣聖グリードは怒りに溢れる、しかし妙な自信で満ちた目を俺へ向けた。
周囲を景色と風が駆け抜ける中、一帯にある魔力の流れを瞬時に解析する。
「土属性魔法のダミー人形。あと飛行艇は無人か……ラントといいお前といい、生身を晒すのはいつもカメラの前だけだ」
「ッ……お前さぁ、久々に会ったと思えばやっぱキモイしムカつくわ。開口一番で謝罪してくれれば俺も許してやろうと思ってたのによ」
「安易な謝罪と賠償でぜんぶ解決すると考えてるなら、酷く浅はかとしか言えないぞ。それとも、相手を見下すことでしかコミュニケーションが取れないのか?」
図星だったようで、グリードの眉にシワが刻まれる。
「あぁ〜うっせぇ……、マジお前の声はノイズだわ。なんのために俺がわざわざ来てやったのかもわかんねぇ、無能畜生能無しのくせによ」
「どうせ『俺が看取ってやる』、『お前は俺たちを怒らせた』とかドヤ顔で宣言しに来ただけだろ」
「ッ……!!」
これも図星か、まったくもってバカバカしい……よくこんなことに貴重なリソースを割けるものだ。
ため息を吐きながら、俺はマガジンを交換する。
「いいかグリード、俺は過去と決別するためにもお前をぶっ倒すと決めた––––なのにわざわざ姿を見せるんだ、覚悟できてるんだよな?」
「クッソがっ、言わせておけば好き勝手駄弁りやがる!! 口だけ無能のエンチャンターが!!」
剣を握り突っ込んでくるグリード、正確にはヤツが操るダミー人形をサッとあしらった。
基礎能力からして以前と別物のよう……やはり、
「お前も『フェイカー』を持ったのか、変な自信はそれのせいだな」
超高速の剣技を動体視力のみで避けながら、俺はグリードの背後に回った。
「ッ……!!」
「元剣聖が今じゃ“魔導士モドキ”か、視聴者だったファンも呆れるぞ」
「うっせぇ!! もう黙れよお前、誰のせいであんな惨めでひもじい思いさせられたと思ってやがるッ!!」
「……自分のせいだろ」
––––ダァンッ––––!!
グリードの右肩を撃ち抜く。
相手がダミーなので意味ないかと思ったが、叫びながら剣を落とす。
なるほど……剣技の精度を上げるため、感覚を同期させていたのか。
だったら––––
残弾全てをグリードの四肢へ撃ち込み、さらに跳躍して蹴りを叩きつけた。
勢いのついた攻撃を食らったヤツは、ガラス張りの屋根を転がる。
「があぁ……! クソアルスめ……ッ! やはり人形の遠隔操作じゃこれが限界か」
すぐ言い訳をする癖は相変わらず。
感覚同期を弱めたのか、苦しみながらも立ち上がった。
俺は上空の無人飛行艇を一瞥し、数歩進む。
「グリード、俺を看取る以外にもう1つ……来た理由があるんだろ? せっかくだし教えてくれよ」
「ハァッ……ハァッ。いいとも、スカッドさんには聞かれたら教えろと言われたからな」
いやに素直なのを見るに、もうすぐ殺すつもりの攻撃が来ると見ていい。
死人に口なし、殺す予定ならいくらでも喋っていいという感じだろう。
「お前が現在持ついくつかの『アーティファクト』、それの確認に来た。知ってるんだぜ? 売らずに3つは手に入れたんだろ」
そんなことも漏れてるのか。
アーティファクトとは、先日行った古代帝国跡地から持ち帰った宝具の総称だ。
ミライにあげたペン型魔法杖。
用途不明のカギ。
そして小銃用照準器。
これらのことを指していると思われる。
「物好きだな、正直どれもよくわからん代物だけど?」
「俺もそんなガラクタになんざ本来興味ねぇ、だが『フェイカー』を貰った義理ってのがあるからな。俺は恩を忘れない男だ」
「安い恩だな、人にはアダしか渡さない剣聖さんが言うと、余計重みに溢れてる」
さて……、そろそろだな。
「はっ! ほざいてろアルス、負け惜しみは墓場で聞いてやるよ! ––––やれっ!! “ノイマン”!!」
刹那、上空を旋回していた飛行艇の砲塔が光に瞬いた。
今っ、俺はここにきて初めてエンチャント『魔法能力強化』を使用、左手を空に向けた。
「ッ……な!」
鞭のようにしなった超高出力レーザーが、敵の攻撃ごと飛行艇を貫き粉砕した。
爆炎が収まるのを待たず、俺はついでのようにグリードの身体を蒸発させる。
「次は生身で来い、正真正銘の本気でやってやるからさ」
エンチャント解除。
そして、俺は吹き荒ぶ風にまぎれて声を出した。
「あんな細かい情報を、なーんでグリードなんかが持ってたのかね……」




