第85話・生徒会のプライベート
「集合時刻まで35分……、ちょっと早く着いちゃいましたね」
街でも有数の活気を誇る王都中央駅。
その入り口で、俺はキャリーケースとバッグを手に立っていた。
「道が思ったより空いていたからね、まぁ遅刻するよりかはマシだろう」
車の中から、ここまで送ってくれたマスターが暑そうに手を扇いでいる。
「そうですね––––ありがとうございますマスター。炎天下を重い荷物持って歩かずに済んで、正直かなり助かりました」
「普段よく働いてくれているからね、これぐらいお安い御用さ。場所はここで良いんだよね?」
「はい、大丈夫です」
「色々あるだろうが楽しんできたまえ、フォルティシアのヤツにもよろしく言っといてくれ」
車のエンジンを鳴らしたマスターが、ハンドルを握ってフロントガラスに目を向ける。
やはり相変わらずの安全運転で、駅前ターミナルから車道へ消えていく。
ああ見えて昔は危険運転ばかりしたらしく、今の運転スタイルはその反省なのだとか。
いずれにせよ、若干気になる話ではあるが……。
「さて、誰が最初に来るかな?」
ワクワクしながら日陰へ移動。
夏休みが始まって数日……今日は温泉旅行当日だ。
普段こそ学校で会うみんなが、完全プライベートの姿を見せ––––しかも共同生活ときた。
普段と違う顔が見れるかもしれない。
俺にとって既に勝負は始まっていた。
「おっ、アルスくんじゃーん! ヤッホー!!」
快活な声と共に姿を現したのは、銀髪をなびかせピョンピョン跳ねるアリサだった。
字が縫ってあるタイプの半袖にショートパンツ、腰にはシャツを結んでバッチリ動きやすい格好。
背中には大きめのリュックサックという。元気な彼女らしい非常に可愛い格好だった。
「おはようアリサ、今日は“会長呼び”じゃないんだな」
「オフだからね、旅行中は普通に名前で呼ぶよ。ってか着くの早くない?」
「俺もさっき来たばかりだ。改札前まで行っとこうぜ、ここ暑すぎ」
「はいホーイ」
広大で装飾豊かな駅内は、非常に賑わっており心が躍る。
店もいろんな種類が出店しており、俺は汗だくのアリサにミルクティーを奢った。
「ありがとう! アルスくんってホント気配り上手だよね〜、そりゃミライさんも惚れるよ〜。いやー良い男だな〜」
「クレープ屋を見ながら言っても無駄だ、旅行資金は厳格に管理しているんでな」
「ムグッ……」
ゴッキュゴッキュと誤魔化すようにミルクティーを飲むアリサ、集合時刻まであと10分。
機関車のブシューッという蒸気を吹き出す音が、駅に響き渡る。
腕時計を確認していると、後ろから目隠しをされた。
「えっへへ〜、だーれだ?」
「原稿遅れがちの垢BAN寸前作家」
「残念! ミライちゃんでしたー」
正解か。
振り向くと、プリーツスカートを基調とした明るいコーデのミライが立っていた。
ニーハイソックスと、そこから生まれる肌色の絶対領域が眩しい。
「よっ、アリサちゃんもおはよう〜。なんのジュース飲んでんの?」
「おはようミライさん、これはタピオカミルクティーっていうらしいよ。なんか飲んだことなくて新鮮だと思ってたら、アルスくんが奢ってくれた」
「なにっ!? ちょいちょいアルス、わたしにも奢ってよ」
まぁ1人だけ奢るわけにもいかんか、俺はミライにも同じのを買ってあげた。
2人が仲良く並んで飲んでいる横で、俺は柱にもたれ掛かる。
「あとはユリアだな、もうチケットはあるから揃いしだい機関車に乗るぞ」
「「ラジャー」」
ヤバい……今更ながらドキドキしてきた、本当にこれから旅行なんだな。
正直初めてだから不安––––
「ッ……」
俺は一瞬、ほんの一瞬だけ……人混みに紛れる”そいつ“を見た気がした。
黒いローブで全身覆われていたが、たぶんアレは––––見間違いじゃないんだろうな。
「遅れてすみません! 改札の位置が分からなくって」
声と共に駆けてきたのは、大きなキャリーケースを引きずるユリアだった。
貴族然とした彼女はもっと露出の少ない格好で来るかと思ったが、普通にそんなことはなかった。
チェック柄のスカートに、フード付きの薄い半袖ジャケット。
身長が生徒会で一番低いからか、他の2人とは全く違う良さみがある。
「時間通りだから大丈夫、修理する宝具はちゃんと持ってきたな?」
「もちろんです、あっ、会長もキャリーケースなんですね」
「あぁ、これが一番無難だからな」
時間はちょうど集合時刻。
俺たちは各々がチケットを手に、とうとう改札をくぐった。
3人が機関車へ乗り込むのを確認した俺は、誰にも聞こえないよう呟く。
「お前がその気なら……こっちも一切容赦はしないでおくぞ、ミリア」
人混みから俺を見ているであろう元パーティーメンバーに、きっと響きもしない忠告を送った。




