第69話・超高難度クエスト、さっそく初ピンチのようです
地下から姿を現したそれは、一目でわかる異常さを持っていた。
大きさは人間より一回り大きく、全身を機械で覆われている。
あえて名前をつけるなら、”魔導機兵“だろうか……。
彼らはそれぞれに黒い槍を俺たちへ向けていた。
「カレン、敵の詳細はわかるか?」
「不明も不明、むしろアルス兄の方がああいう手合い詳しいんじゃないの?」
「俺は武器や兵器が大好きなんであって、強化人間には一切興味ない。……まっ、たぶん連中人間じゃなさそうだがな」
3人で背中を合わせ、現れた敵に向き合う。
連中は全部で6体、繰り返すが、いずれも鎧ではなく全身機械人間と表すべき格好だ。
「憶測なんだけどさアルス、さっき「天使迎撃システム」とか言ってたから、伝承にある古代戦争の名残ぽっくない?」
「俺たち人間だぞ……、どうやったら架空の存在と見間違うんだよ。古代帝国は相当にポンコツなのかね」
俺はゆっくりと後ろへ手を伸ばす。
「遺跡保護は優先……ほんじゃま、最終兵器出すか」
ここでショットガンやマシンガンを使えば、遺跡に傷がつく。
ならここは––––
「よっ」
ケッテンクラートのカゴから、俺は持ってきた最後の武器を引っ張り出した。
「こういう時はスコップだ!」
ミライの冷ややかな視線が突き刺さるも、こっちは至って真面目である。
「アルスさぁ……、ここでネタ武器に走るのは良くないと思う」
「お前に発言権はないよ体操服、まぁネタ武器だと笑うのは自由だけどさっ」
『身体能力強化』発動。
魔導機兵がぶん投げてきた槍を、眼前で弾いた。
「結果が出れば文句ないだろ?」
「ッ……」
戦闘開始––––
話し合わなくても、俺たちは各々で2体ずつ相手をする流れとなった。
「よっ!」
魔導機兵の動きは、見た目から信じられないほど軽快。
攻撃は当たればマズイと思うくらいに重く、さらには連携が巧みときた。
だが、
––––ギィンッ––––!!!
しゃがむと同時に攻撃を避け、敵へ足払い。
スコップの一振りで魔導騎兵1体の腕を斬り飛ばした。
強いけど、さすがにウチの副会長ほどじゃない。
カレンも焔と剣術で、なんとか踏ん張っていた。
問題は––––
「ミライ! カバーいるか!?」
「ッ……!! いらない! こっちは大丈夫だからっ!」
魔導機兵の攻撃に対し、ミライはさっきから防戦一方だった。
スピードは凄い、しかしいかんせん動きが焦りすぎだ。
これに限らず、昨日のオーガ・ロード戦でも彼女は転倒してピンチになっている。
アレは俺の知る冷静な立ち回りじゃない、悪い背伸びの仕方だ……!
「こっんのおぉッ!」
ミライの攻撃が次第に大振りとなる。
自慢とする雷のようなスピードも、そのせいでかわされていた。
やがて、その時はくる––––––
「あっ……」
フェイントも、10回と繰り返せばその効力を失う。
魔導機兵が横向きに振った槍は、超高速で背後に回っていたミライの脇腹へめり込んだ。
体操服の柔らかい生地は、機動性と引き換えに防御力をもたない。
非常に重い打撃がそのままの威力で襲った。
「アガッ……!! ハっ!?」
吹っ飛んだ彼女は、背中からケッテンクラートの側面に激突した。
車体を大きく揺らし、そのまま苦痛に満ちた顔で尻餅をつく。
「ミライ姉ッ!!」
カレンが叫ぶ。
だが彼女も戦闘中だ、おまけにミライの魔法杖は遠くへ転がってしまった。
脱力するミライへ、突き出された槍が向かう。
「ぃっつ……! まだぁッ!!」
目を見開き、彼女はたまたま傍へ置かれていたアーティファクト……ペン型魔法杖を掴み上げた。
金属のぶつかる音、間一髪で槍を防いだらしい。
でも敵は2体、もう片方が攻撃を仕掛けた。
「チッ!!」
最終手段。
俺はホルスターから『M1911』ハンドガンを抜き、魔導機兵の槍を狙った。
重い発砲音。
45ACP弾が、敵の武器を手から弾き飛ばした。
「ミライ姉!」
下がったカレンが、敵2体を牽制して彼女のカバーへ入る。
俺は空いた分––––計4体を相手しながら、後ろへ気を配った。
「ミライ! なんでそんなに焦ってるんだ、さすがに脳筋すぎるぞ」
「な、なってないし……! 焦ってもない……ッ! 全然余裕だもんっ!!」
「フェイント10回もスカって、余裕もクソもないだろ」
表情は見れない、だが……直後に耳へ届いたのはさっきと正反対、掠れた“涙声”だった。
「ここでわたしが求めたら……! アンタと対等なんか永遠になれないじゃん……!! カレンちゃんやエーベルハルトさんみたいに強くないと………わたし」
……そういうことか。
なんで昨日からあんな焦燥感に駆られたような動きをしてたか、なんでこんな凡ミスが目立ったか。
全ては俺が気づくべき……ことだったのかもしれない。
「ミライ––––」
俺が返事しようとした瞬間だった。
「ヤバい! 横ッ!!」
槍を失った魔導騎兵が、ミライ達へ肉薄したのだ。
すぐさまカレンが剣で防ぐも、刹那––––敵は強烈な光に包まれた。
とんでもない魔力の一点集中、それは最悪の可能性だった。
「こいつ……っ!!! まさか自爆して––––––」
カレンがしくじったと言わんばかりに怒鳴る。
爆発のような閃光が広がった。
すぐさま離れて、俺は光の中心付近を見る。
「っ……」
ミライ、カレン、ケッテンクラートまでが跡形もなく消えていた。
あるのはただ、浅いクレーターのみ。
「なーるほど……」
俺は火傷1つない自分の体を見下ろして、起きた事象の結論を導き出した。




