第68話・アーティファクトガチャ、やってみました
「ではでは皆さん、記念すべき探索第1号––––発見した“アーティファクト”披露会開催でーす!」
ケッテンクラートの前に集合した俺たちは、ミライの音頭で各々の発見を見せ合う運びとなった。
ちなみに、この遺跡で発見した魔導具全般を総称して“アーティファクト”と呼ぶらしい。
発見次第ではとんでもない高値で団体に売れるからか、妙な緊張感が漂う。
「じゃあわたしから……って言っても、よくわからないんだけどね」
出されたのは、やはり俺が拾ったのと同じタイプの箱。
まっさらなそれを開けると、黒い箱が現れた。
「ありゃ、また箱だ……なんかマトリョーシカみたいで面白い。えーっと……製造会社は不明、品名は“小銃用照準器”?」
ロックの外れた箱を開くと、中には黒い鉄っぽい材質で覆われたレンズが入っていた。
ズッシリしたそれを、空に透かしてみる。
「スコープか? けどプリズムが入ってないな……等倍だ、小銃用ってあるし軍用なんだろうけど……」
「ねぇ、ミリタリー的な話はどうだって良いからさ、売れるのこれ?」
ウキウキとしたミライの問いに、カレンが亜麻色の髪と一緒に首を横へ振りながら答える。
「残念だけどそれは売れないかも、団体が欲しがってるのは生活記録や資料的な遺物だから……。そのスコープもどきは置いてって良いと思う」
「そんなぁ〜っ!」
さっきとは一転、涙目になったミライがうな垂れる。
俺はというと、ずっとそのホログラフィック・サイト(以下ホロサイト)の、スイッチらしき部分を押したりしていた。
不思議なことに、ボタンを押すとレンズに赤いサークルが浮かび上がるのだ。
えっ、待ってこれ……地味に凄くね?
詳しくはまだわからないが、調べる価値がありそうである。
下手すれば、即席の現金以上に化けるぞ。
「じゃあ〜次、カレンちゃん!」
もうホロサイトに興味を無くしたミライが、カレンへ箱の開封を促す。
今度はさっきのような箱に箱が入った感じではなく、キチンと物が収まっていた。
「……鍵?」
「鍵だな……」
落胆のムードが漂う。
そりゃそうだ、どこに使えるかもわからん鍵じゃ持ち腐れもいいところである。
「まぁ期待してなかったからいいけどさ、これも当然だけど売れないかな」
ポイっと放り捨てるカレン。
俺は慌てて謎の鍵をキャッチした。
「おっとと、これいらないのか?」
「金にならないし興味ない、そのアーティファクトが欲しいならあげる」
「フーン、じゃあ遠慮なく」
金色に輝く鍵を、迷彩服のポケットへ入れた。
さて……現状謎なものしか出てないが、いよいよ俺の番。
お祈りしつつ、いざ––––!
「っ……」
「……」
「わぁっ!」
最初にリアクションしたのはミライ。
出てきたのは、箱とほぼ同サイズであろう細長い魔法杖……しかし形が独特だった。
言うならば、漫画執筆に使うようなペンに凄く似ていたのだ。
その形状が、激しくミライの心を打つ。
「これ良い……ッ! テラ可愛いっ! 超好みなんですけどっ!!」
同人作家である彼女は惚れ惚れしていた。
確かに今までの物からすれば、比較的マトモかもしれない。
俺は杖に夢中のミライから、カレンを連れて少し離れる。
「あれって普通の魔法杖か?」
「わかんないなぁ〜……、見た感じ高級品ばりに質は良さそうだけど。気に入ってるみたいだし、いっそあれを”ミライ姉の誕生日プレゼント“にするってのは?」
「そうだな、元はと言えばそっちが目的なわけだし」
今回俺がアルテマ・クエストに参加した最初の動機は、誕生日が近いミライにレア魔導具を見つけてあげたいと思ったからだ。
いつも市販のとても安い道具ばかり使用しているので、せめて杖くらいはと思った次第である。
ちなみに良いのが見つからなかったら、報酬金やアーティファクトを売った金で何か買ってあげる算段だった。
あのペン型魔法杖にときめいているなら、あげない道理はない。
勝手な解釈だが、瓦礫の中で朽ちるより本当に愛してくれる人間の手に渡った方が、道具も喜ぶだろう。
ミライの元へ戻ろうとした時だった––––
「アルス兄……」
カレンが周囲を見渡した。
「なんか来てる、さっきまで気配すらなかったのに」
「みたいだな……、『広域探知』!」
俺は遺跡進入から3度目となる索敵魔法を、無詠唱で使う。
そして……。
「え、マジ……?」
思わず口からそう漏らしてしまった。
いくつもの反応が、地下から凄まじい勢いで昇ってきているのだ。
崩壊した街の一部が揺れと共に変形し、何個もの昇降口が姿を現した。
どこからともなく、拡声された女性の声が鳴り渡る。
《ザ––––陸軍よりアラート発令! ––––法に基づき、天使迎撃システムを展開! 一般市民は以……無期限の外出禁止令を発出します!》
昇降口から床がガシャンっと地上へ達する。
現れたのは、全身機械で覆われた騎士だった。
ドス黒いオーラが柱のように上がる。
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