第67話・探索!古代帝国跡地
「あぁ〜もうっ、あぁーもうもう! アルス兄のバカバカバカぁッ!! なんで起こしてくれなかったのよぉ!」」
エンジン音を鳴らしながらゆっくり進むケッテンクラート。
少しキツめの丘を登っていると、後部に座るカレンが癇癪を起こしていた。
なんでも、昨日俺たちより先に寝落ちしてしまったことを、えらく気にしているらしい。
「いや、あんなガッツリ寝てるのを起こすって……なんか悪いだろ?」
「別に起こして良かったよぉ! こっちからクエストに誘っといて寝顔晒すとかみっともなさの極みじゃん! もはや恥に等しいよっ!」
顔を両手で覆いうつむくカレン。
半泣きの彼女へ、ミライが抱きつくように密着する。
なにやらタブレットを見せたようだが……、
顔をさらに赤くしているあたり、昨夜撮ったヨダレを垂らすカレンの寝顔アップでも見せたんだろう。
「……死にたい、アルス兄ショットガン貸して。みんなを殺してわたしも死ぬ」
「うん、貸すわけないな? そもそも銃は俺以外が持っちゃダメだし。––––ほら、見えてきたぞ」
丘陵を越えた時、絶景が目に飛び込んできた。
「ここが……、古代帝国跡地か」
隕石湖に面した岸辺、そこには巨大な廃城がそびえていた。
周囲にはこれまた廃墟と化した建物群が広がっており、かつての栄華など微塵も感じさせない。
俺はよくわからないが、廃墟マニアの人なら写真を撮りまくるであろう静謐な光景だ。
「さーて! お楽しみの探索タイムよ!!」
遺跡に立ち入った瞬間、さっそくカレンが目を光らした。
1時間前と違い嘘のように元気である。
「とりあえず探索っつっても、いいのか? 遺跡の保全がどうので団体がうるさいって聞いてたけど……」
「無茶な破壊以外は多少目をつむってくれるわ、なんせ超危険地帯なんだもの。良いアイテムがあればドンドン持って帰ってくれって言われてるし」
目を瞑る……か。
だったら3人縛りの方をなんとかして欲しかったな、その団体さんとやらは。
まぁいい、せっかく来たんだ––––俺も探してみるか。
周囲を警戒しつつ、遺跡を探索させていただく。
ほとんど人の手が入っていないせいか、いずれも風化による崩壊だけが目立った。
「水溜まり多い……というか、ほとんど水没都市だなこりゃ」
住居らしき建物跡へ入ると、すっかり朽ちたリビングが佇んでいた。
物置棚のふちには、劣化してほとんど判然としない写真立てらしきものがある。
たぶん……、誰かと過ごした日常を写したものだろう。
ペコリと頭を下げてから、俺はその住居跡を出た。
「生活感ある場所はさすがに触りたくないなぁ……、せめて物資置き場的なところはないもんか」
廃墟探索で倫理を語るつもりもないが、最低限の礼儀は必要だろう。
それでも何かアイテムを探すのは、たぶん俺に少なからず金欲があるからだ。
昨日はホワイトライフが目的と言ってはみたものの、やはり人間としてお金が欲しい。
可能なら、埋まっている人材に投資できるくらい纏まった金額……。
そして、かねてより夢見ていた“ある事”を実現したいのだ。
「箱、いや……下へ続く入り口かこれ」
ショットガンを構えながら、次は無機質な地下階段らしきところへ下ってみる。
今度は住居っぽくない……っていうか生活感自体がないぞ。
水も少ないから全然入れる。
「……なんだこれ」
行き着いた先は、何個もの穴とそこに収納された謎の物体がある部屋。
風化したプレートには、かろうじて文字が書いてあった。
『……空軍第86、1メガトン級水素爆弾搭載 ICBM発射サイロ』
うん、読めるけど知らん単語だらけだ。
軍や発射とあるし、かつてなんらかの軍事施設だったっぽいな。
しかもどういうわけか、一部設備はまだ生きている。
「ん?」
瓦礫の中……明らかに、異質な物体があった。
白く細長い、何かのケースだろうか。不思議と劣化の形跡がなかった。
思わず空いた手で担いでしまう。
「おーいアルスー! なんか拾ったー?」
ミライの声だ。
崩れた地上から響いてくる。
「箱みたいなのがあったから、一旦上がるよ」
「こっちも何個か見つけたから、見せ合いっこしよー!」
俺はクルリと背を向け、再び階段へ向かった。
今思えば……、超高難度クエストがこんなに平和なわけなかったのだ。
【ICBM】
日本語呼称は「大陸間弾道ミサイル」、現代においては数千キロ彼方にある別の大陸まで飛翔させられる戦略兵器。
大気圏突入時の速度はマッハ20。




