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第65話・夢や目標か……、俺もお前も焦るこたないと思うよ

 

「今さらだけどさ、引き受けて良かったの……? 行方不明者の捜索」


 夜空を星が覆う中、焚き火を前に休息していたミライが一言。

 静寂な空間に、その優しげな声と火のくすぶる音だけが響く。


「良いんじゃねーの? 学外であれ困ってる人を助けるのは生徒会として当然だ。初心者コンビのお仲間––––行方知れずな女子魔導士さんを探すのに不都合なんてない」


 ケッテンクラートにもたれながら、俺は広げた布上で今日使った銃をバラす。

 カレンは慣れない車移動で疲れたのか、既にスヤスヤと寝息を立てていた。


「お人が良うござんすねぇ〜、それとも余裕ってやつ? 確証でもある感じ?」


「別に……まぁ確約もしてないしな、この世界……冒険者は全て自己責任だ。結末がどうあれ、俺らに責任転嫁はできないよ」


 今日抜けた森林迷宮で、俺たちはビギナー冒険者パーティーを助けた。

 彼らに古代帝国跡地は難易度が高すぎるので、俺たちが行方不明となった方の捜索を引き受けたのだ。


「まっ、確かにそうよねぇ」


 薪を追加するミライ。


 もちろん、こちらのクエストに支障ない範囲という条件で受けた。

 しかし文句を言う人間はきっといない、冒険者とは完全に自立した人間にのみ許される職業。


 企業や学生と違い、国の支援や保護がほとんど受けられないのだ。


「冒険者って、世界で最も自由かつ好き勝手できる職業というイメージなんだろうけど、命に冷たいっていう現実があるんだよなぁ」


「フーン、例えば?」


「一切の社会保障なし。さらには各種生命保険へ加入すらできない。あと死んだら終わり」


「うわ〜……、アルスよく3年間もブラックギルドで働いてたね。マジリスペクト」


「良いこともいっぱいあるらしいけどな、いや……こんな話やめよう。せっかくクエストに来てるわけだし」


 銃のスプリングを外しながら、湿っぽい話を断ち切る。

 俺としては、こういう屋外で親友とのんびり語らえるだけで幸せというものだ。


 その上、銃まで弄れるのだから……その幸福感たるや言い表せない。


「アルスはさ……、何か自分の目標とかないの?」


 目標……、目標か。

 毎日を必死で生きて、他人に尽くすことばかりしてきた俺にそんな思考する余裕はなかった。


「質問に質問で返して悪いんだけどさ、ミライは目標とかあるの?」


「うーん……わたしは推しちゃんをいっぱい妄想して、一生オタ活できれば特には望まないかな。自称文化人なので!」


「お前らしいな、変わってなくて安心した……でも本当のところは?」


「むっ、鋭いヤツ……!」


 顔を向けた俺に、彼女は珍しく背中まで下ろした茶髪を触りながら呟く。


「強いて言うなら、お母さんの生まれた国に……一度行ってみたいかな」


「”日本“だっけ? なんか船ですら行けない遥か遠くの国らしいけど」


「そうなのよねぇ〜、世界地図にも載ってないからお手上げ状態。だからほぼ諦めてる」


『日本』。

 コミックフェスタや、カレー、ラーメン、味噌汁等etc……。

 ミリシア王国に与えた影響がヤバい、とんでもなく謎すぎる国。


 いったいどんな所なんだか。


「はい! じゃあわたしの話題は終わり、アルスの目標教えてよ!」


 前のめりになり、目を輝かせるミライ。

 コイツ……どんだけ興味津々なんだよ、俺なんかのことそんなに知りたいのか?


「最強の魔導士……なんて、ありきたりな目標じゃダメかな?」


「ブー! アルスの気持ちが全然こもってない。ダメダメ過ぎてマイナス7億点、本心をさ、教えてよ……」


 上目遣いでこちらを見つめる。


 なんださっきから、なんでそんな俺のことを教えて欲しいんだよ……。

 英雄でも勇者でもない、こんな自分のことを。


 他人へ尽くし、泥をすするように生きてきた俺だが、そんなミライを見ていると1つの––––“目標”っぽいものが浮かんできた。


 思わず、添削もせずに口から出す。


「––––今の“幸せなホワイトライフ”を……、大事な人と一緒に作るなんでもない日常を守るのが、俺の持ちえる目的……なんだと思う」


「フーン、良いじゃん。なんかアルスらしい」


「ブラックな生活を送ってきた弊害だよ、それにひょっとしたらこの先……新しく見つかるかもしれないし。なんにせよ、俺もお前も焦るこたないと思う」


 銃の分解清掃を終えた俺は、動作確認して弾丸を詰めた。


「さて、見張り始めっから寝といていいぞ。4時間後に交代だ」


「ラージャらじゃ⭐︎」


 下手くそ気味に可愛い敬礼をしたミライは、速攻で毛布をかぶる。

 ケッテンクラートの後部に座った俺は、マシンガンを抱えながら警戒監視を始めた。


 傍へ置いたタブレットには、暇つぶしの記事を表示しておく。


『王都で謎の戦闘音発生、警務隊は関知せず』という文面だった。


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