第64話・初めてのモンスター討伐
「あぁっ、うわああぁぁああッ!!?」
初心者2人組は、その場で震え上がり叫んだ。
木を凪いで現れたその姿は、以前『神の矛』のライブ配信で最初に全滅判定をくらわせた異形––––
オーガ・ロードだった。
「こいつです! こいつが俺たちを襲って来たんです! 剣も矢も通らない……正真正銘の化け物だ!!」
「逃げましょうみなさん! そこにある乗り物ならギリギリ生き延びれるかもしれない!」
彼らはそう言うが、多分無理だろう。
車へ乗る→ギアをバックに入れる→アクセル全開までに、目の前のコイツが待ってくれるとは到底思えない。
ケッテンクラートごとぶっ飛ばされて終わりだ。
「どうするアルス兄? ミライ姉?」
焔を使えないカレンが、隙なく構えつつこちらを伺う。
確認してくれるのはありがたいけど、答えはとうに決まっていた。
「あぁ……!! 死ぬ、もう終わりだっ」
初心者コンビが腰を抜かす。
相手は前に『神の矛』が倒せなかったモンスターだ。
絶対に強い、けどこのメンツと装備で今さら逃げるなど……。
「いやそんなん……もう決まってるじゃん」
チキンもいいところだ、後ろがダメなら前へ行くのみ。
俺はマシンガンを敵へ向け、そのままトリガーを引き絞った。
「ボコ散らかす、以上だ!」
繋がった射撃音が響く。
筋肉質なボディをなぞるようにして弾丸でえぐり、のけぞらせる。
「ほら怯んだぜ、近接はそっちに頼んだ!」
俺の横を風のように駆け抜けたのは、魔法杖を握ったミライだ。
とても素早い身のこなしで、ジグザグに接近する。
振り下ろされた棍棒すら足場にして、ミライは跳躍した。
「たぁッ!!」
超至近距離から雷属性魔法を顔面へ当てる。
彼女はオーガを勢いのまま飛び越え、背中側へ着地。
敵による振り向きざまの一撃は、しかし空を切る。
「『高速化魔法』!!」
雷を纏いながらの超高速移動。
さすがの小回りに思わず感心したのだが……。
「ひゃ! だっ!?」
足元の枝につま先を引っ掛け、思いっきり転倒。
真っ白だった体操着を土で汚しながら、起き上がれず痛みに喘いでいる。
「ヤバいった〜……ッ! ってヤバい! ちょい待ち! ちょいタンマ!! バリアバリア!! 今ノーカンだからぁ!」
インドア人間にいきなり無理させるのは、虐待に等しかったらしい。
鬼ごっこで負けた子供みたいなこと言っているが、当然オーガ・ロードは待ってくれない。
振りかぶった棍棒が、ミライへ向かって全力で叩きつけられた。
「あぁああああ!! いっ……い、あれ、いたくない?」
「そりゃそうだ……! 当たってねーもん」
『身体能力強化』状態で突っ込んだ俺が、直前で棍棒を横から蹴ったのだ。
数歩退くオーガ・ロード。
さらに、ケッテンクラートから持ってきたもう1つの武器を俺は敵へ向ける。
––––ダァンッ––––!!!
放たれたのは、同時に発射された9発の弾丸。
対モンスター用の12ゲージ散弾が、敵の堅牢な顎を吹き飛ばした。
オーガの悲鳴に紛れて、へたり込んだミライがこっちを見上げる。
「な、なにそれ……」
「“ショットガン”っていう銃だ。聞いたことないか?」
「あるけど……いや強すぎじゃん?」
「近距離限定だけどな、時間稼ぎサンキュー。後は任せろ」
ダッシュした俺は、片膝つきながら顔を未だに手で押さえるオーガの腹下へスライディング。
両足を天へ突き上げるようにして、蹴り上げた。
「よっ」
すぐさまオーガの直上へジャンプ。
銃口を下へ向け、2発目の散弾を首へお見舞いした。
「ゴアアアァァアアッ!!?」
地面へ叩き落ちた敵は、血に濡れた左目で俺じゃなく反対を向いた。
「ひ、ヒィッ!!?」
車両の影に隠れていた初心者コンビへ、タゲが向いたようだ。
せめて道連れにしようとしているらしい、いやさせんて。
遠ざかるオーガの後頭部へ、照準を定めた。
「『魔法能力強化』」
俺は魔法と銃のセレクターを切り替え、精神をスッと落ち着かせた。
外せば終わり、ミスれば仲間が死ぬというこの状況こそ最も落ち着くべきシチュエーション。
ただこの1発を––––届かせるッ。
「––––『初級雷属性魔法』!!」
3発目にセットしていたのは、散弾じゃなくライフル弾。
俺のデタラメな火力が上乗せされたそれは、オーガロードの首から上を消滅させた。
巨体がズシン……っと崩れ落ちる。
「ほんっと……銃まで持っちゃうと異次元に強くなるわよね、アルス兄は。鬼に金棒ってやつ?」
「剣や魔法で倒さなきゃダメ……、なんていう道理は別にないだろ?」
銃身を折り曲げ、空薬莢を排出した。
【ショットガン】
近距離のみだが、散弾をばら撒くので非常に威力が高い。
狩猟用としてもかなり優秀。
余談だが、アルスが今回持ってきたのはM30ドリリングという銃。
2連式ショットガンではあるが、3本目のバレルからライフル弾も撃てるという珍しい物(彼らしいチョイスだと思う)。




