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第63話・出会ったのが冒険者じゃなくて不運だったな

 

 周囲を背の高い木々に囲まれたダンジョン。


 俺はアクセルグリップを握りしめ、ケッテンクラートを走らせていた。

 時速にして約60キロ、かなり飛ばしている……もうそろそろ何か見えてもおかしくないだろう。


「へぇー、さっすが噂に名高いダンジョン。周囲も空もほとんど全部森林だからどこ走ってるかわかんなくなるわね」


 後部に座ったミライから、そんな一言。

 たしかにここまで連続して森! 森! 森!ってなるともう出てこられないんじゃないかと錯覚しそうになる。


「アルス兄、次」


 そうならないよう済んでいたのは、俺と一緒に正面を向いたカレンがタブレットに映した地図のおかげだ。


「そこ左折、はい右行って〜、じゃあ全速力」


 カレンの雑な指示通り、ライトで照らされた薄暗い道を、タイヤと履帯が耕しながら進む。


 聞けばユグドラシルの企業機密サーバーに保管されている、ドラゴニア専用の対迷宮マップらしい。

 未完成ながらも、基本的なルートは全て網羅されていた。


 コンパスと合わせて使用すれば、木々の悪魔に惑わされずに進めるんだとか……。


「アルス兄見えた、正面に人影」


 指差された先には、武器を捨ててほとんど丸腰の冒険者たちがいた。

 警戒されないか心配だったが、彼らはこちらを見るや駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか?」


 停車させ、ジックリ見てやっと構成がわかる。

 アーチャー職が1、もう1人が剣士兼タンク。非常にシンプル––––悪くいえば初期感がヤバい。


 こいつら……装備的にもしかして。


「アンタたち、初級冒険者でしょ。なんでこんな場所にいるの?」


 俺の疑問を口から出すより先に、カレンがややキツめの口調で歩み寄った。

 呆れと怒りがない混ぜになった、お説教モードの口調だ。


「か、カレン・ポーツマスさん!? それにあのイージスフォードさんまで……!」


「そういうのは今いい、とりあえず結論から話してくれる?」


「く、クエストです……! 依頼があったからみんなで来たけど、いかんせんモンスターが強すぎて……」


「そんなの普通知ってるでしょ? ここの挑戦資格はランキング100位内の冒険者がいる時だけ、あなたたちじゃ立ち入り自体が違法なのよ」


 カレンの放った言葉に一瞬物怖じした彼らだが、意を決したように剣士が口開く。


「いや……! 俺たちだけじゃない、ホントはもう1人いたんだ」


「もう1人?」


「あぁ、名前は聞いてないが筋肉質で愛想は悪い、でも“ランキング5位”だとか言ってて……。クリア報酬は美味しい部分をやるっていうから、ついて来たんだけど……」


 代わってアーチャー職の男が続けた。


「オーガ・ロードに出くわした途端、俺らにタゲを押し付けてそのまま逃げてったんだ! あんなのに勝てるわけないし、もうなりふり構わず逃げるしかなくって……」


 半泣き状態を見るに、嘘を言ってるわけじゃなさそうだ。

 っつかこれあれじゃん、おもっくそ捨て駒にされたパターンの子達だ……。


 どこの誰かはわからないが、こんな初級冒険者をほとんど殺すような真似は到底許されるべきじゃない。


「他に仲間はいないのか?」


「いる! います! 魔導士の女の子がパーティーメンバーにいたんですが、謎の男に引っ張っられてそのまま……」


「行方不明ってわけか……」


「はい、たぶん戦闘音が聞こえなかったし、迷宮を抜けていったのかも……」


 出口……だとすると古代帝国跡地へ向かったのか?

 ならある意味好都合だ、目的地が同じなら出くわせる可能性も––––


 俺が思考した瞬間、彼らの後ろで銀色の瞬きが発生した。

 既視感のあるそれは、ドラゴニアのギルド内でペインに撃たれたものと全く同じ。


「しゃがめッ!!!」


 初心者2人を押し倒す。

 頭上すぐを、高速で矢が走り抜けた。

 ケッテンクラートの車体に当たり弾かれたそれは、先端部に猛毒まで塗られている。


「こんな芸当するモンスターなんて、ゴブリン・ロードくらいか……!」


 再び木上から矢が放たれる。

 今度は単発ではなく、数十本からなる一斉射だ。


「『イグニール・ヘックスグリッド』!!」


 前に出たカレンが、最強の防御魔法を発動。

 六角形の焔が重なり、猛毒矢を1本残らず防いだ。


 カウンターにすかさず剣を振ろうとしたカレンだが、その腕はピタリと止まる。


「どうしたのカレンちゃん!」


「ミライ姉、いや……今普通にやっちゃいかけたけど、こんな森林で焔出したらわたしら詰む……よね?」


 あー……、言われてみればそうだ。

 街じゃなんだかんだドラゴニアの魔導士たちが頑張ってくれたが、こんな所で派手に焔を使えばゴブリン諸共、焼死不可避。


 あんま魔力使いたくなかったけど、致し方ない。

魔法能力強化(ペルセウス)』を発動、と同時に俺は次の魔法を展開した。


「『広域探知』」


 俺を中心に半径30キロ。

 点在する生き物や、移動物が一瞬で把握できる索敵系魔法が広がる。


「アルス兄……、そんな魔法いつの間に!?」


「カレンたちとの試合後、必要だと思って練習しといて良かった––––ぜッ!」


 ケッテンクラートのカゴから、俺はゴツい見た目のマシンガンを取り出した。

 名を『MG42』、『広域探知』で居場所を把握したゴブリン・ロード群へすぐさま銃口を向ける。


 コッキングレバーを前後させ。引き金をひいた。


「矢を撃ったのが、生粋の冒険者じゃなくて不運だったな」


 ––––ズダララララララララララララララララララッッッ––––!!!!!


 魔導ノコギリのような連続した射撃音。

 ベルトリンクで接続された弾丸が、凄まじい勢いで発射される。


「グギヤァッ!!?」


 木の上に潜んでいたゴブリン・ロードが、7.92ミリ弾の制圧射撃(見えなくてもいいからとりあえず撃ちまくること)によって、バタバタと落ちてきた。


 1分間に1200発放てるマシンガンの斉射で、眼前の敵は文字通り薙ぎ払った。


「すっげぇ……」


 アーチャー職が一言。

 煙を吹く銃口を下げながら、俺はさらにその奥を見据えた。


「銃の反動エッグ……でもさすがMG42、一蹴だな。そんで持ってこの高難度ダンジョン、ゴブリン・ロードですら前座か」


 穴だらけの木々を押し倒して、巨体が姿を現す。

 手には人間以上の大きさを誇る棍棒、緑色の体色は非常に見覚えがあった。


「ボスのお出ましだ」


 オーガ・ロードは、俺たちに向かって大きく咆哮した。

 やっと面白くなってきたな。


【MG42汎用機関銃】

地球においては第二次世界大戦時のドイツ軍が使用、分間1200発という異次元の火力と汎用性を誇る。


その高性能さは現在まで改良され、未だにMG3という名でドイツ軍に使われているほど。

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