第53話・王国ギルド・ランキング1位【ドラゴニア】
「いやぁ……、カレンがランキング1位のパーティーに所属していたとは……」
王国ギルド・ランキング。
これのトップ5というのは、文字通り桁違いの強さと影響力を持つ。
あの反抗期っ娘が冒険者だとは知っていたが、これは予想できんだろ。
「会長……なんで今まで気づいてなかったのか、わたしとしては不思議なレベルですよ」
「しょうがないじゃん……!『神の矛』時代は雑務や肉壁、ユグドラシルのクソリプ処理で忙しくて、他ギルドなんか気にする余裕なかったんだよ」
「あーなるほど、会長はご自身がブラックギルド出身で、心配して見にきたらこれだった……というわけですか」
ユリアと一緒に見上げる建物は、もはやギルドというより会社だ。
いや……、トップ5のギルドは資本も影響力も一流企業以上と聞く。
ちょうど1年前は、今のマスターをリーダーとする冒険者ギルド『オーディン・ソード』が君臨していた。
だがその後に大英雄と呼ばれたマスターは引退し、ギルドも解散。
空席が生じた……。
「さぁ、ようこそ––––わたしのギルド、『ドラゴニア』へ」
カレンに案内され、門をくぐる。
中はエントランス兼、巨大クエスト受付場兼、大酒場という超豪華なもの。
ひしめき騒ぐ冒険者たちは、全員が中堅パーティーのリーダークラスかそれ以上だろう。
少なくとも、『神の矛』ごときが太刀打ちできる相手じゃない。
これを––––マスターが退いたあと、ランキング1位という堂々の立場へ導いたのがカレン・ポーツマスか。
「おっ、見てみろよユリア」
俺たちは、これまた巨大なクエストボードの前に立つ。
無数に貼られたクエストはどれもが高難度、高報酬というまぁ想像通りのものだ。
「見るの初めてじゃないか? お前ってたしか貴族の出だろ。このボードから好きな依頼を受注して、冒険者は出かけるんだ」
「たしかに生まれて初めて見ますね……、なんだか別世界のようです……。しかし会長––––どうしてわたしが貴族の出だと?」
「名前に”フォン“がついてるじゃん、ヴィルヘルム帝国じゃだいたい貴族の名だ。それくらいわかるよ」
「おぉ……」と何故か感嘆しているユリアの傍で、カレンがパンっと手を叩いた。
「みんな注目〜! 今日は豪華なゲストが来たわよ、かの名門––––王立魔法学園の生徒会ツートップ。アルス・イージスフォード生徒会長と、ユリア副会長です!」
義妹モードから冒険者モードに切り替えたらしいカレンは、パーティーリーダーとして俺たちを紹介した。
ただでさえナウでヤングでアゲアゲな人たちが、さらに熱気を昂らせる。
「す、凄い熱気ですね会長……。中身が隠キャのわたしにはちょっとキツイです……」
「言うな俺もだ……、隙見てサッサと帰るぞ」
俺たちがちょっと引いていると、奥の人混みで何かが光った。
コップの反射ではない、こちら目掛けて猛速で“矢”が飛んできたのだ。
「ッ!! 会長!!」
人混みの首筋を縫うような、匠の射撃……。
横のユリアが慌てて警告を発するも、俺はその場を一切動かなかった。
––––ズンッ––––!!
矢は俺をギリギリで掠めて、奥のクエストボードに突き刺さった。
姿勢も視線も崩さず、俺は発射主を特定する。
「良い腕をしているな、俺が知る弓使いじゃ多分ダントツっぽそうだ」
こちらの声へ応じるようにして、大弓を担いだ男が前に出てくる。
短く切った茶髪を揃え、全身鎧で固めた若い冒険者だ。
「さすがは、かの学園の生徒会長にして竜王級……あんな矢じゃビビリもしないな」
「あなた……、今自分がなにをしたか分かっていますか? 畏れ多くも会長に矢を向けるなど––––副会長であるこのわたしが許しませんっ」
ユリアが戦闘モードに入った。
睨みつける彼女の前へ手を置き、ソッと静止を促す。
同時に、俺は大弓使いへ向き直る。
「自己紹介してもらえるかな?」
「マスター・アーチャー職のペインだ、一応初めましてだが……俺はアンタを知ってるぜ会長さん」
「コミフェス騒動での件かな?」
「いや……もっと前だ、俺はアンタが追放されたばかりの『神の矛』に代わりとして雇われていた。ボロクズだったあの配信は知ってるだろ?」
どこかで見たことあると思っていたが、やはりデジャヴではなかったらしい。
俺を追放したグリードが、浮いた金で新しく腕利きを雇うと言っていた冒険者。
それが目の前のペインだ。
「『神の矛』はどうしたんだ?」
「あんな口先だけの温室育ちを面倒は見れない、抜けたよ。その後に紆余曲折あってここへきた」
初めてヤツらが敗走した配信では、非力なグリードたちを文字通り実力で逃していた。
マスター・アーチャー職など、なろうと思ってなれるジョブではない。
「さっきは失礼した……会えて嬉しいよ、アルス・イージスフォード」
伸ばされた手を俺が掴もうとした刹那––––
「あっほたれがぁあッ!!!」
「ゴッホアッ!!?」
ペインが宙を舞って壁へ激突した。
正確には、カレンが空中回し蹴りを彼の顔面へ見舞ったのだ。
「いきなり攻撃とかバカかこの脳筋っ! わたしというパーティーリーダーの面子を潰さないでくれる!?」
「痛い痛いごめんゴメンって! ただ挑んでみたかったんだよ!」
「何にっ!?」
「あのクソ非力だった『神の矛』を上位へ押し上げたヤツにだよ! どんなエンチャンターか気になるだろ!」
「うっさい死ね! 今この場で死ねリーダー不孝の弓野郎ぉッ!!」
取っ組み合いをするカレンとペイン。
「どうします?」というようなユリアを一瞥して、俺はポケットから出したコインを指で正面に弾き飛ばした。
『身体能力強化』によって打ち出されたコインは、さっきペインが俺へ放った矢よりも速く2人の間を駆け抜ける。
ひしゃげたそれは、バゴンッと壁へめり込んで煙を上げた。
「売られた挑戦は買うのが俺の性分、アリサ然り––––テロリスト然り、選挙然り。受けて立つよ……ペイン」
俺の返事に、ギルド内のボルテージは跳ね上がった。
超一流ギルドなので、壁の修理費なんぞいくらでも出ます




