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第50話・大丈夫、5回全滅したくらいなんとかなりますよ

 

 路地裏内の一際大きい広場で、俺たちは致し方なくグリードの相手をしてやることになった。

 周囲は完全な空き家に囲まれており、外に情報はいっさい漏れない。


「おあつらえ向きの場所だな、安心しろ……殺しはしねえさ。ただ歯向かったことを後悔させてやる」


 女には負けないと信じ込んでいる様子のグリードが、大剣を構える。

 素人目で見ても、本来の筋力に合ってないのが丸わかりだ。


 剣先が全然安定していない。


「いいんですか会長? 本当にアリサっちにやらせて」


「俺がやったら、手加減できずにこの路地裏ごと吹っ飛ぶしな。まぁヤバそうだったら止めるよ」


 俺とユリアの会話を聞いたグリードが、指先をこちらへ向けてくる。


「銀髪クソ女をやったら、次はてめぇだアルス。せいぜい半殺しで済むよう女神様にでも祈るんだな」


 ここまで噛ませ犬全開な台詞も、今時なかなか聞けない……。

 さしずめ剣先でなく指を向けたのは、腕が重さに耐えられないからだろう。


「さっきからクソ女クソ女って……、ホント品性の欠片もないんだね」


 冷たい目をしたアリサが、変わらず低い声を出しながら歩み出す。

 彼女の全身から淡い紫色のオーラが滲み出しているが、たぶんグリードは気づいていない。


「クソ女なのは事実だろ? それにその銀髪––––キール社会主義共和国出身か? 金欠の象徴だな、汚ねえ貧乏人が無能を庇う様は見ててこっけ––––」


 ヤツが言えたのはそこまでだった。

 超高速で踏み込んだアリサの拳が、深々とグリードの腹部へ突き刺さったからだ。


「ゴフッ……!? おぐぉ……」


 剣を落とし、崩れ落ちる。

 悶絶する様を、アリサは無表情で見下ろしていた。


「野蛮な上に差別主義者(レイシスト)とかホントきもい……、意気軒高に挑んできたわりに隙だらけじゃん」


「てっ……めぇええ!!」


 なんとかリカバリーしたグリードが、落ちていた剣を振るった。

 だが剣筋はアリサの銀髪にすら掠らず、ただ空を切るだけに終わる。


 10、20と振られた剣撃は全く当たらない。


「どうなってんだっ!!」


 いくら気合を入れて叫んでも、あんな不安定で大振りな攻撃じゃ意味がない。

 グリードは、俺のエンチャントである『身体能力強化(ネフィリム)』のおかげで今までのし上がっていた。


 これがかつて剣聖と謳われた男の、真の実力か……。


「教えてあげよっか剣聖さん?」


 剥き出しの刃を素手で掴んだアリサは、グイッと顔を近づけた。


「君はアルスくんのおかげで人生イージーゲームを気取ってられただけ、所詮は温室育ちの腐ったミカンに過ぎない」


「うるせぇッ!! 黙れクソ女! どいつもこいつも俺を舐めやがって! 俺の実力はこんなもんじゃねえ!!」


「いい加減おんぶに抱っこされてたの気づきなよ、もし現実を見る気がないなら––––」


 剣ごと引き寄せ、前のめりになったところを首筋へ強烈な肘打ちが叩きつけられる。


「あ……がッ!!?」


「わたしが教えてあげる」


 倒れようとしたヤツの襟首を掴み、引っ張り寄せる。

 無理矢理振り向かせたグリードの顔へ、容赦なく殴打を打ち込んだ。


「ガッ! 俺の、俺の顔が……! 顔がぁ!」


 グリードの鼻から血が噴き出す。


「他人の力で散々イキってさ、ずっと荷物だと思って追い出した人に実は依存してたなんて……カッコ悪すぎでしょ」


「さ、ざっけんなよクソアマァ!! 俺は剣聖だ! 剣聖グリード様だ!」


 鼻血を垂らしたグリードがナイフを取り出し、アリサの腹を狙う。

 マジで素手のアリサ相手にどこまでムキになってんだ。


 当然そんな素人然とした突きなど当たるわけもなく、逆に伸び切った腕と手首を絡められた。


「ほっそい腕……、女相手にナイフまで持ち出しても、こんなんじゃ永遠に当たらないって」


 逆方向にグリードの関節は曲げられ、路地裏に骨の外れる音が盛大に響いた。

 右肩を脱臼させたらしい、折らないあたり多少は加減しているようだが。えっぐ。


「ああああぁぁぁああッ!!? 腕っ! 腕がぁああ!! うむっ!!?」


 喚き散らすグリードの口を塞いだアリサは、石畳に落ちた相手のナイフを目の表面寸前へ突きつけた。


「ナイフを大振りで使うのはNGだよ、皮膚を掠め取るように切りつける、もしくは首や眼球、頚動脈とかの弱点を一気に狙うのが常識。グリードくんってホントに剣聖……?」


 ドンっと突き放され、グリードは尻もちをつく。

 心底軽蔑したような顔で、アリサが奪ったナイフを放り捨てた。

 実力の差は明らかだ。


 恐怖に満ちた顔で、グリードがポケットから唯一残った左手で小柄な水晶玉を取り出した。


 あれは……爆発魔法が付与(エンチャント)されている。

 いわば手榴弾みたいなもんだ、あの野郎そんなものまで。


「死ねッ!!!」


 投げられた水晶が輝いた瞬間、アリサの目の色が変わった。

 瞳どころか、銀色だった髪まで淡い紫になったのだ。


「……『マジックブレイカー』!」


 アリサの持つユニークスキルで、どんなに高位な魔法でも無力化してしまう。

 腕を振り、水晶を空中で粉々に砕き割った彼女は悠然と歩く。


「なっ、なんで……爆発しない!?」


「掛かってたエンチャントを解除した、それだけ。アルスくんには通じなかったけどね」


 愕然とするグリードを見下ろしたアリサは、ほぼノーモーションの回し蹴りを残ったヤツの左腕へブチ込む。

 今度は脱臼ではない、完全な骨折だ。


「不意打ちで女子に爆発物とか……もう剣聖って名乗らない方がいいよ」


 激痛に叫ぶグリードの前で、彼女はヤツの剣を踏み砕いた。

 決着だ、もはやあいつに戦う手段はない。

 俺が前に出ると、フンっと鼻を鳴らしたアリサが変身を解除した。


 紫色だった瞳と髪が元に戻る。


「何かの間違いだ……! こんなの現実じゃねえ」


「いいや……現実だよグリード、俺のエンチャント無しならこんなもんだとは思ってた。今のお前じゃ俺どころかアリサに傷もつけられない」


「ふざけんなふざけんなふざけんなッ!!! だったら戻ってくれよ! 生徒会なんてくだらねえ! 俺のギルドで俺のために働きやがれッ!!! 俺らが何回全滅したと思ってやがる薄情者ッ!!!」


 泣き叫ぶグリードに、路地裏を立ち去り際––––俺はにこやかな笑顔で言い放った。


「大丈夫、5回全滅したくらいなんとかなるよ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 鮮やかなタイトル回収ありがとうございましたm(__)m [一言] グリード改心の余地はあるのかな…
[一言] 自分勝手な理由で追放しておきながら都合が悪くなれば戻れとかそんな自己中の雑魚の言うことに従うなってよっぽどのバカしかいないなにねww 一部始終を配信したら雑魚は終了じゃねw
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