第495話・情報共有
久しぶりにアルス視点書いた……。
「それが……、天界の神。初代竜王級なんだな」
––––王都、王国軍大病院の一室。
局所的に覆った魔法結界の中で、俺は椅子に座りながら息を吐いた。
すぐ正面のベッドに寝た女が、妖艶な表情で続ける。
「えぇ、わたしが知った彼女は非常に気まぐれで……他の存在を生き物とすら思わない、冷酷と言うことすら生ヌルい奴よ」
元勇者、アーシャ・イリインスキーが頷く。
俺はこの女に、ミニットマンから聞いたテオドールという存在について聞きに来ていた。
天界に繋がった元勇者ということで、期待半分だったが……情報は予想以上だった。
「生き物とすら思わない……、同じ天界人に対してもそうなのか?」
「勇者になった時、天使たちの意識ネットワークに接続したわ……。だから断片的にしかわからないんだけど、そうね……」
アーシャは目を瞑る。
「きっと、特別な自分にしか興味が無いんだわ……。いわばあなたと“全くの逆”なのよ」
「俺と逆?」
「そう、あなたは自分よりも生徒会の子たちの方が大切でしょう? でもテオドールは違う……完全に逆。竜王級というこの世で最強の生命体として、他の天使なんて眼中に無いの」
「大天使ですら眼中に無いってことは、もう神だなそいつは」
「実際そうでしょうね、ミニットマンを始めとした全ての天界人は彼女を崇めている。連中がどういう経緯でこの世界に来たかは知らないけど、1つ言えるのは––––」
起き上がったアーシャが、重々しく口開く。
「テオドールの目的は、多分……途中でシフトしたんだと思う」
「シフト? 何からなににだよ」
「例えば、この世で自分だけが唯一特別だったのに……全く同じ存在が現れたらどう思う?」
「……警戒するな」
「正解、テオドールは本来もっと早く目覚めるはずだった。でも予定が狂った……イージスフォード。あなたが生まれたことでね」
なるほど大体わかった……。
図らずも、俺はテオドールから一線級の警戒をされていたのか。
だから途中で目覚めず、まだ休眠状態で力を蓄えている。
「俺を……倒すためか」
「彼女も竜王級の本質は理解しているわ、常人なら耐えられない規模で……今この瞬間も力を溜めている」
「そいつ––––テオドールが、眠ったまま一部でも顕現する可能性はあるか?」
「無いとは言えない、もし大天使の誰かを触媒にすれば……ごく一部くらいなら、力を行使できるかも知れない」
っとなれば、今フェイカー島にいる皆んなにも……万が一があるわけか。
まぁでも––––
「……心配する素振りすらしないのね、それは諦観から来るもの?」
「逆だよ、アイツらは自分を持たなかった『神の矛』と違う。たとえ初代竜王級の一部が顕現したとしても––––必ずなんとかするだろう」
「フフッ、なるほど……要はその方があなたにとって都合が良いのね? あなたはあの島で、彼女たちが死にかけることを“期待”している。己の目的のために」
「皆んなのためでもあるよ」
「意地悪な男……、あなたが生徒会の誰かに本気でエンチャントしないのも、さっき教えた“夢の果て”のためでしょう?」
これ以上は情報が出そうにないか……。
とりあえず、テオドールの性格が知れただけ良しとするか。
「あら、もう行くの?」
立ち上がった俺に、アーシャは揶揄うように聞く。
「お互い知りたいことは共有できた、もうお前に用は無い。それと––––」
眼前の女へ、俺は怒気を込めて言い放つ。
「お前がアリサを手酷く傷付けたことは絶対に許さない、アイツはもうお前の妹じゃない––––俺の家族だ」
「…………っ、泥棒め」
「それで結構だ、じゃあな––––」
魔法結界を解き、俺は窓から外へ出た。
急がなければならない……“一番厄介なヤツ”がもう来ている。




