第493話・決着
––––島の地下、フェイカー工場跡。
「フゥ……また随分と派手に行きましたね、これだけ盛大に爆破したんなら、納税者も満足でしょう」
完全に瓦礫の山となった工場跡地で、ユリアは連合軍の中隊長へ近づいた。
「成功ですか?」
「あぁ、君がここの守護者を倒してくれたおかげだ、本当に––––なんと礼を言ったら良いか」
「お礼は結構です、わたしはただ……成すべきを成しただけですので」
「そうか、だが感謝はさせてもらう。君がいなければきっと多くの犠牲が出ただろう」
「まぁ……受け取っておきましょう」
上を向いたユリアは、腰に手を当てながら僅かに口角を上げた。
「後は貴女たち次第ですよ、お2人さん」
◆
「フェイカー工場がやられただと……!?」
突如発生した地震は、地下で大量の爆弾が炸裂したことによるものだった。
攻撃態勢に移っていたアグニは、ほんの……ほんの僅かだが、攻撃に迷いを生んでしまう。
スティンガーの無事を確認すべきか、ミニットマンへ報告すべきか。
発生した雑念は、この場において最も重要な選択から一瞬だけでも目を逸らさせてしまう。
「ッ!?」
アリサとミライが、目も眩む光に包まれた。
発生した暴風は、周囲のあらゆるものを吹き飛ばすほどの勢い。
激しいスパークの中から、大天使でさえゾッとする規模の魔力が顔を出した。
「アンタの負けよ、大天使アグニ」
姿を現した2人は、どんな強者ですら圧倒しかねない覇気を纏っていた。
お互いの魔力は完全に共鳴しており、理論上という夢物語でしか確認できない存在と化している。
フィクションが現実に君臨した瞬間だった。
「もう終わらせる、この一撃で––––後なんか無い。全てを賭ける!」
拳を握ったアリサが、足に力を込めた。
それでも尚、大天使は諦めない。
「終わらせるだと!? 貴様らが? フッ……ハハ! 竜王級でもないただの人間に、大天使たるこの俺を倒せるわけがないだろう!」
アグニは痛む脇腹に爪を立てると、開いていた傷口をさらに大きく広げた。
常軌を逸した行動だが、そんな愚行に応えるのが血界魔装という変身だ。
「こいつ……! まだこんな力を!」
あのカレンがたじろぐ程に、アグニの神力が引き上げられた。
それでも、アリサとミライは1ミリも目を逸らさない。
「行くよ……っ、アリサちゃん」
「うんっ、勝とう……! 勝って、王都で待つアルスくんに言ってやろう」
2人の魔力が、最大限に達する。
「君をいつかぶん殴る者として––––大天使なんか敵じゃなかったってさ!!」
筋肉を膨張させたアグニに対し、2人は最後の攻勢に出た。
同時に走り出し、並んで吶喊したのだ。
「無駄だ!! 今の俺ならば––––魔壊の力が砕くよりも早く防壁を展開できる!! その一撃さえ凌いでしまえば、俺の勝ちだ!!」
大天使が50枚にも及ぶ複合防壁を展開したと同時、ミライは魔法杖を大きく振りかぶった。
滅軍戦技の飛来を予測したアグニだったが、答えはあまりに別のものだった。
「エンチャントが––––竜王級だけの特権と、思わないことね!!」
「ッ!?」
空中に跳んだアリサが、ミライのペン型魔法杖に着地。
イカヅチが足元から放たれた。
「特級エンチャント––––『雷轟付与』ッ!!!」
滅軍戦技に等しいエネルギーと共に、ミライの持つ全ての電気が、アリサへ付与される。
超音速で射出された彼女は、雷轟竜の力を手に––––己の魔力を燃やした。
イカヅチの速度とパワーを得たアリサは、持ち得る全てをアグニにぶつける。
「滅軍戦技––––『裁きの拳』!!!」
追放、暴虐と進化して来たアリサの拳は––––ここに来て遂に天をも貫く領域へ達したのだ。
「いっっけえぇえええええッッ––––––––––––!!!!!!」
紫色の爆光が、フェイカー島を覆った。
アグニの展開した防壁は、その全てが1個の穴を開けて崩壊。
アルスをいずれ殴るべき竜の拳は、大天使の胸ごと下げられた『フェイカー』を叩き潰した。
大きく血を吐いたアグニが、背中から地面へ落下する。
静寂が場を支配した……。
倒れかけたアリサは……ギリギリでその場に踏ん張り、煙を上げる拳から魔力を払う。
閃光の収まった地上で、アリサとミライを前に––––大天使アグニは“倒れていた”。
フェイカー島地上の戦い。
勝者、アリサ・イリインスキーおよび、ミライ・ブラッドフォード。
カレンと大佐の助けを借り、双竜が––––竜王級以外の人間が、初めて天界の大天使をくだした瞬間だった。




