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第492話・決死の足止め、カレン&ラインメタル大佐

 

 “魔力共鳴”。

 それは、常人なら一生掛かっても習得できない合体魔法の副産物として生まれたもの。


「ミライさん、もう少し出力下げれる?」


「了解……、ッ! これむっずいわねホント」


 握った手から、過剰な火花のように魔力が溢れる。

 調整に苦労しているのか、ミライの額から汗が落ちた。


 この世界のあらゆる物質は、それぞれが固有の振動を持つ。

 ガラスであれ、音であれ……“魔力”であれ、ミクロ単位で見た場合には一定の周波数があるのだ。


 魔導士でない者がよくやる芸として、自分の声で机に置いたワイングラスを割るものがある。


 アレも、自身の声をグラスの“共鳴周波数”に合わせて行われるものだ。

 同じ振動が交われば、それらは格段に強化される。


 ここまで来れば原理はそのままだ。

 アリサとミライは、互いの持つ全く異なる魔力の振動を完全に一致させようとしていた。


 これに成功すれば、まさしく破壊的な強化が望める––––、


 だが、これはある著名な大賢者が書いた論文において、“理論的には可能であるも実用性は皆無”と断言されているほど。


 当然だろう。

 全くの他人と、呼吸からまばたき––––果ては心臓の鼓動まで一致させるのだから。


 それでも、


「姉さん達には絶対近づけない!! 絶対無理とかそんなんいくらでも言え!! あの2人なら必ずできるんだから!!」


 血界魔装に変身したカレンが、出血により大幅にパワーアップを果たしたアグニとぶつかり合う。

 冒険者ギルドのトップランカーというだけあり、その太刀筋は見事なもの。


 向かって来たアグニのパンチを剣でいなしながら、まるで踊るがごとく斬撃を叩きつける。


「だあああぁああああ––––––––ッッ!!!」


 腕でガードされても関係ない。

 カレンは太刀に纏った焔を、ジェットエンジンのように膨れ上がらせた。


 巨大な推進力に物を言わせて、あのアグニを弾き飛ばす。


「おじさん! 今ッ!!」


 カレンが叫ぶと、空中で静止した大天使を影が覆った。


「だからおじさんは辞めろと言っているだろうに」


 人間離れした跳躍で追いついたラインメタル大佐が、上空で拳を振りかぶる。


「ぬぅッ!!」


 すかさずアグニも反撃へ転じ、空を大連打の嵐が吹き荒れた。


「脇の傷が痛むようだな? 大天使」


 アグニの頬に、拳が刺さる。


 ラッシュを制したのは、なんとラインメタル大佐だった。

 カレンと違い、彼は魔力や神力を一切使っていない。


 勇者として––––数多の戦場を生き抜いた軍人の技術、それだけで打ち勝ったのだ。


「舌を噛むなよ」


 激烈とも言うべき猛乱打が、アグニの全身を襲った。

 通常状態の大天使なら、おそらくこれで大ダメージを受けるであろう威力。


 しかし、これでも竜の力を纏った大天使には致命打足り得ない。


 空中で両者は掴み合い、落下しながら睨み合う。


「凄まじいな……! こんな化け物と2人は戦っていたのか。若者の力は恐れ入るね」


「貴様こそ有り得ん話だぞジーク・ラインメタル、魔力も無しにここまでやるとは」


「ここまでしか出来ないんだよ、全く––––こんなことなら勇者を続けておけば良かった」


 地面に落ちた2人は、すぐさま距離を取る。

 入れ替わるようにしてカレンが突っ込むも、やはり蒼焔竜の力をもってしてもアグニに深手は負わせれない。


「遊びは終わりだ」


 一言呟くと、アグニは指を1本立てる。

 顔には笑みが乗っていた。


「わたし相手にあそびとかムカつく……!! 滅軍戦技!!」


 焔と一緒に剣を振ったカレンだが、その刃はアグニへ当たる寸前で止まる。


「あぐっ…………!!?」


 見下ろせば、地面が持ち上がり、突起のようにカレンの腹部へめり込んでいた。

 痺れるような激痛と、胃から込み上げて来た熱いものを思わず吐き出す。


「オエッ……、くふっ」


 その場で嘔吐させられたカレンは、脱力して座り込む。


「ケホッ、しまっ––––」


 アグニは一時的に戦闘不能となった彼女を無視して、アリサ達への距離を縮めた。


「チッ!!」


 すぐさま回り込んだラインメタル大佐が、全力のタックルで大天使を止めた。

 腰のホルスターから45口径を抜き、全弾をアグニの顔面へ至近距離から食らわした。


「まだかね双竜! こっちはもう限界だ」


 硝煙の中から出て来たアグニは、やはり無傷。

 拳銃を放り捨てて、大佐は体術による足止めを行った。


「後……! ちょっと!」


「ミライさん、頑張って……!!」


 かつては一度合体魔法を成功させているが、だからと言ってそう何度もできることではない。

 調整が低すぎればアリサの魔壊に飲まれ、大き過ぎても互いの魔力が反発してしまう。


 1本の糸を、100本の針の穴にミスなく通す作業ですら簡単に思えるほどだ。


「グゥっ!」


 ギリギリ競り合っていたラインメタル大佐だが、ここに来てとうとうアグニの突破を許す。

 急いで追撃するが、もはや間に合わない。


「ッ……!! ごめん、アリサちゃん……みんなっ。ダメ……だった」


 失敗を悟ったミライが、涙目で謝罪した––––次の瞬間。


 ––––ズズゥンッ––––!!!!


 全員の足元が、轟音と共に大きく浮き上がる。

 それは、アグニを足止めするには十分で……同時に蜘蛛の糸に等しい希望が繋がった瞬間でもあった。


「なんだっ!?」


 困惑するアグニの脳裏に、最悪の状況がよぎる––––

 正体は、みんなの遥か下にあったのだ。


 ラインメタル大佐の小型無線機に、通信が入る。


『こちらA1連隊!! フェイカー工場の爆破に成功!! 繰り返す、我ら目標を達成せり––––!!』


 ユリアの制圧したフェイカー工場を、ありったけ持って来た爆薬で連合軍が破壊したのだ。

 それはもう、街が吹き飛ぶ程の量を使って。


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