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第491話・総力戦

 

「アンタ……!」


 表情を強張らす2人の前で、大天使アグニは最後の手段を使った。

 自らの手を硬化させ、アリサやミライ同様に脇腹を抉ったのだ。


「ぐっ……! フゥッ!!」


 大量の血が溢れ出すと同時、アグニの纏う神力がこれまでの比にならないレベルで分厚くなった。

 赤いスパークが発生し、地面が波のように揺れる。


「貴様らが想い人のために血を流すなら––––俺もそうしよう、大天使ミニットマン様は必ず“初代竜王級”を眠りから醒まさせる! こんなところで挫けるわけにはいかんのだ!!」


「初代竜王級ね……、それがアンタ達の目的ってわけか。やっとパーティーの正体とラスボスがわかった」


 もはや力の差は歴然となったこの状況で、アリサは冷静に言葉を続けた。


「アンタもまた、ミニットマンっていうヤツのことが“好き”なんだね。じゃなきゃ、こんなに自らの命を削らないか……」


 隣りに立つミライと顔を合わせ、決意を共にする。

 できればこんな博打はしたくなかったが、相手が自分たちと同じ想いを抱いていると分かった以上––––出し惜しみはできない。


「最後の切り札、いくよ––––ミライさん!!」


「がってん!!」


 アリサとミライは、互いの手を強く握り合った。

 温もりと同時に、激しく燃える魔力を感じる。


 その様子を見て、アグニは一歩前へ出た。


「なにをするつもりだ? この展開、もう貴様らに勝ち目など無いはずだ」


「普通はね、でも大天使さん––––“魔力共鳴”って知ってる?」


 交わる筈のない2人の魔力が、少しずつだが溶け合っていく。

 アグニの脳裏に、天才科学者ドクトリオンがやられた時のレポートが過ぎる。


「合体魔法……! だが、そんなものはもう通じん。さらに言えば––––俺がエネルギーチャージを悠長に待つと思うか?」


「知ってる、でも1つ思い出してみなよ」


 手を繋いだまま、アリサは不敵に笑った。


「この島の戦力、今どっちが多い?」


「ッ!!?」


 直後、空から光の雨が降り注いだ。

 鋼鉄すら抉るそれは、航空機用20ミリ機関砲による対地掃射だった。


「まさかっ!」


 アグニが見上げた先––––太陽を背に低空へ突っ込んで来たのは、連合軍の戦闘機隊だった。

 中央のリーダー機には、特徴的な逆十字が翼にペイントされている。


「全機、5点バーストで掃射せよ。双竜には当てるなよ」


 航空隊を引き連れて現れたのは、補給を終えて戻って来たジーク・ラインメタル大佐だった。

 トリガーが引かれると、5発刻みの射撃で機関砲が発射される。


 精密に照準されたそれは、7割がアグニへ直撃した。

 彼にとって不運だったのは、数だけは多いそれらが何発も自分の開けた傷口へ当たったのだ。


「ぬぅッ……!! ハエ共が! ふざけた真似を!」


 大天使の手が変形し、巨大な鉤爪が形成される。


「竜装––––『鬼劫爪牙(きごうがそう)』!!」


 跳躍したアグニは、高空へ離脱しようとした戦闘機へ肉薄。

 回転しながら、リーダー機を回避不能な速度で斬り裂いた。


 翼を失った戦闘機が、きりもみしながら火を吹き––––上空で爆発した。


 頬を吊り上げようとしたアグニの頭部へ、しかし衝撃が走る。


「構ってちゃんめ、そんなに私と会いたかったか?」


「ぬぅおッ!?」


 爆発するコックピットから、ケースを持って脱出したラインメタル大佐が、重力を味方にアグニへ渾身の踵落としを決めたのだ。


 真下へ落下したアグニは、翼を広げてなんとか着地する。


 同じく地に降り立ったラインメタル大佐は、立ち上がるや持っていた鉄製のケースを近くへ放った。


「お初にお目に掛かる……大天使アグニ、愚かな神の復活を願う傀儡よ。下請けはいつの世も大変そうだな?」


「裏切り者……勇者ジーク・ラインメタルか、知っているぞ。貴様だな? 数年前––––アルナ技術本部長を殺したのは」


「その通りだ、神という概念に触れた者には消えてもらうことにしている。人類の発展と自由意思のためにね……、今度は君たちの番だ」


「貴様はもう全盛期の強さを失っているだろうに、死にたがりは勇者の性か? 無謀だとなぜわからん」


「そうだね、確かに私1人じゃ今のお前は手に余る……。“私1人”じゃね」


 大佐の碧眼が不気味に光る。


 ––––ギィンッ––––!!!


 大佐の後ろに落ちたのは、蒼色の雷だった。

 ただのイナズマではない、“真なる血界魔装”を発動した時に見られる力の転送現象だ。


「あー退屈だった、バックアップ要員なんて二度とゴメンだわ」


 猛烈な火災旋風と共に現れたのは、焔が迸る蒼色の髪を伸ばした––––冒険者ランキング第1位の少女。


「もう好きにやっても良いのよね? ラインメタルのおじさん?」


 大英雄の妹にして、ランカーギルド・ドラゴニアのトップ。

 冒険者カレン・ポーツマスだった。


「おじさんはよしてくれ、一応まだ29なんでね」


「いや境界線じゃん、どっちでも良いでしょ」


「人間、いつだって若く見られたいもんなんだよ」


 元勇気と冒険者は、手を繋ぐアリサとミライの前に堂々と立った。


「さぁ来たまえ大天使、ここから先へは一歩も通さん」


「そういうこと、アリサ姉にもミライ姉にも––––指1本触れさせない」


クライマックス––––

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