第486話・取引の成果
「全部隊前進! 生徒会があの大天使を抑えてくれている! 空いた進入路から地下のファクトリーエリアへ進軍せよ!!」
アリサとミライが、大天使アグニと互角以上に戦闘を繰り広げる中––––連合軍も進撃を再開した。
『全火力支援を一時中断、歩兵部隊は突入を開始。戦車連隊は占領地を確保せよ!』
高性能爆薬を抱えた工兵を守るようにして、閉所戦闘に特化したサブマシンガン、ショットガンを持った兵士達が続々入っていく。
彼らの目的は、フェイカー工場をこれ以上なく徹底的に破壊すること。
停電した施設内を、魔導ライトの付いた銃で照らしながら前進していく。
「こちらエンジェル2-1!! 連合軍が侵入して来ている! ただちに増援を寄越してくれ!!」
通路にしては狭くないスペースの施設内で、歩兵部隊は角から飛び出してくる天界兵を素早く射殺していった。
これほど明暗の激しい場所では、通常のアイアンサイトでの照準は困難である。
だが、彼らの銃上部には“ある物”が付いていた。
「竜王級からの供与品だったか? 閉所戦でこれ以上に照準しやすい物は無いな」
彼ら連合軍が持つ銃には、箱型の物体が乗っていた。
名を––––“魔導照準器”、以前アルスが古代帝国跡地で拾ったアーティファクトだ。
いつかキール共和国の策謀を潰すべく、アルスはそれを躊躇なく駐在武官のラインメタル大佐へ渡していた。
全ては、超大国アルト・ストラトスを味方にするため……。
アリサを濡れ衣の死刑から救うべく取引した道具が、この日に至るまでに量産、配備されていたのだ。
まだようやく初期型の第1ロットが配備されたに過ぎないが、それでもアルスがあの日渡したアーティファクトは、十全に機能していた。
「天使は例外なく射殺せよ! 命乞いは無視し、後方の部隊は死亡確認のため死体撃ちも怠るな!」
その指示通り、歩兵たちは遠慮なく攻撃を続け、倒れた天界兵の身体にも確実に弾を放っていった。
過酷な戦場での冷酷な現実に、彼らは戦う決意をしっかりと固めていた。
アリサとミライの闘いが続く一方で、地下のファクトリーエリアでは連合軍歩兵たちが魔導照準器を手に、勇敢に進軍を続けている。
フェイカー工場の運命は、彼らの勇気と技術にかかっていた。
◆
「さて、予定通りあの大天使は2人が抑えてくれてますね……。腕くらいは持っていけたと良いのですが」
通路を1人走りながらつぶやいたのは、同じく島内に侵入したユリアだった。
彼女は宝具を片手に、曲がり角をなんの躊躇もなくスムーズに曲がって進む。
間取り図も無い巨大施設だが、彼女は寸分の狂いもなく目的地へ到着した。
「ここがフェイカー工場……、その“生産現場”ですか」
ユリアの前に現れたのは、これまた巨大な空間。
電気の類いは一切無いが、岩壁に発行する苔が大量に張り付いているので、視界には困らない。
何より、目の前の“異形”に思わず唾を飲んだ。
「想像以上にグロいですね……、こんなのをテロリストの方は使っていたのですか」
それは工業機械でもなければ、魔導具ですらないモノ。
敢えて言うなら……生物だろう。
繭状の物体が、心臓の鼓動のように脈打ち……震えた瞬間に空いた穴から石ころが排出されるのだ。
その石ころこそ、人工宝具『フェイカー』だった。
「おかしいですね。ここへ至るまでの道のりには、無数のトラップが仕掛けてあったはずですが……」
声が響く。
繭の隣へ立っていたのは、老練の天使だった。
彼の問いに、ユリアは顔色を変えずに答えた。
「全て無力化したまでです、ついでに言うと––––貴方の持つ神力のおかげでここに来れました」
「無力化? 私の神力……?」
しばし訝しんだ天界参謀スティンガーは、消去法で残った答えを口に出す。
「まさか君……、勇者でも無いのに“神力”を扱えるようになったというのか? まさか……あり得ないことだ、そんなイレギュラーは竜王級だけだと思ったが」
「いいえ、残念ながらその通りです。別に勇者じゃなくても……これくらい余裕で扱えます」
「何故だ? 恩寵を受けていない貴様がなぜ……他の者の神力を探知するだけならず、無力化まで行える?」
スティンガーの言葉に、ユリアは竜王級––––アルス・イージスフォードの誇る唯一の右腕として不敵に笑う。
「そんなの……決まってるじゃないですか」
宝具を構え、繭に向かって殺意を放つ。
向けられた笑みは、氷のように冷たく……他を寄せ付けない圧倒的な覇気を持っていた。
「わたし、こう見えて天才なので」




