表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

483/497

第483話・無謀な戦い

 

 血界魔装に変身した大天使アグニは、まさしく規格外の強さを誇っていた。


 そのレベルは、たった1発の攻撃でアリサが嘔吐し変身が解け掛かってしまうほど……。

 広がった戦力差は凄まじく、まさに絶望的と言って良かった。


「がっは! ……あぐっ、ぅう……ッ」


 激痛でしばらく地面をのたうち回っていたアリサは、ようやく片膝を立てる。

 そこへ、高速で下がって来たミライが立つ。


「アリサちゃん、大丈夫!?」


「ゼェッ……だいじょばない、内臓が全部飛び出るかと思った……」


 お腹を抑えながらゆっくり起き上がり、薄っすら開いた目で前方の“鬼”を見つめた。


「気をつけてミライさん……、アイツの攻撃は半端じゃなく重たい。辛うじて魔力で集中防御してもこのダメージ……本気でヤバい」


「ッ、……戦えそう?」


「あと10分は物を吐いてたい気分だけど、そんな猶予……絶対くれないよね」


「えぇ、酷だけど頑張って」


 ミライの言葉に、アリサは意識が飛びそうになる感覚を覚えながらも歯を食いしばって立ち上がった。

 魔力を纏い直したことで、髪と瞳が再び紫色に輝く。


「しゃーないっ! ……何分もたせれば良い!?」


「5分……、5分で良いと聞いたわ」


「ははっ……、なんか人生で1番果てしなく感じる5分になりそうだ」


 ニヘラと笑って……、気合い一閃––––目に殺意を宿す。


 言うが早いか、アリサは足元の瓦礫を掴み––––全力でぶん投げた。

 無論、そんなものが今のアグニに効くはずも無い。


 ライフル弾に近い速度でぶつかった瓦礫は、大天使の膨れ上がった胸筋に砕かれる。


 だが、本命はそこではない。


「ぬっ?」


 仁王立ちするアグニに、今度は側面から走り込んで突っ込むアリサ。

 同時に、竜の力を解放した。


 ––––ギィンッ––––!!


 アリサの瞳から、魔壊の衝撃波が撃ち出された。

 透明なそれは、本来なら対象の魔力や神力を引き剥がす強力なものだが、


「なんだ? 今のは」


 衝撃波は、アグニの纏う分厚い神力の表面を削るだけに終わった。

 結論として、現状では互いの力に差があり過ぎるのだ。


 小細工は通じない。


「あっぶ!!」


 振られた裏拳を、紙一重でかわすアリサ。


 ––––ギィンッ––––!!


 バク転で下がり、もう一度衝撃波を発射する。

 それでも、剥がれたのは薄皮レベルであった。


「何度やっても同じだ、貴様ではもう俺にはどうやったって勝てん」


「ふん、どうだろうね」


 ニッと笑うアリサに、2度目のパンチを打とうとして––––


「ぐぬっ!?」


 アグニの体勢が崩れた。

 原因は、今の今までエネルギーを溜め込んでいたミライが、必殺の『雷轟撃突弾』を脇腹へ打ち込んだのだ。


「はあああぁぁあああッ!!!」


 全開の咆哮を上げる。

 ペン型魔法杖の先端を必死に伸ばすが、信じられないことにそれでもアグニの纏うオーラを貫けていなかった。


 まるで、地盤を直接刺している感触だ。


「小賢しい、眩しさだけが技の取り柄か?」


 イカヅチを静電気程度にしか思っていないアグニは、ミライの細い身体を掴むと、そのまま地面へ叩きつけた。


「ぐっ……ハッ!?」


「雑魚めェ……、このまま地の底まで埋めてくれる」


 変貌した竜の手で、うつ伏せに倒れるミライを力任せに押し潰した。

 地面が簡単に砕き割れ、断末魔と破砕音が重なる。


「––––やめろォッ!!!」


 背後から組みついたアリサが、アグニの首を全力で締め上げた。

 打撃は効かない、なら絡め手でと思った矢先––––


「ウッ……、ぐぅ!」


 力を込めた瞬間、先程食らった腹部へのダメージが蘇った。

 激痛に喘いだと同時、アリサの締めが弱まる……。


「ぬぅんッ!!」


 地面に埋まったミライから手を離したアグニは、組みついたアリサごと跳躍。

 彼女を押し潰す形で、背中を真下へ打ちつけた。


「ぐあぁッ!!」


 強烈なプレス攻撃。

 ヒビが走り、瓦礫が宙を舞う。

 彼女の脱力を確認すると、アグニはゆっくり起き上がった。


「無駄な抵抗だ、実に虚しい……そんな程度で俺に本気で勝てると?」


 嘲笑うアグニへ、仰向けに倒れるアリサもまた嘲笑を見せた。


「女相手にそうやってイキると……ケホッ、ロクな目に合わないよ」


「ほう」


 アグニは足を上げると、アリサの腹部に乗った瓦礫をグッと踏みつけた。

 足裏で押さえつけ、痛ぶるように擦り潰していく。


「ごはっ……!!」


 踏まれた石が砂にまで砕けた時、とうとうアリサは口から大量の血を吐き出した。

 飛んだ鮮血が、アグニの顔にべったりと付着する。


「無駄に“時間を掛けさせて”くれたが、そろそろ楽にしてやろう……。お前らはここで土の染みとなって死ぬのだ」


「どう……、かな…………」


 息も絶え絶えなアリサは、口端から血を流してもまだ笑みを崩していなかった。

 おかしい、もう気絶しても不思議じゃない痛みが襲っているはず。


 妙な不気味さを覚えたアグニは、倒れる2人から少し距離を取った。


 安全地帯から、一気に魔法で消し炭にする。

 今なら魔壊の力で、邪魔もできないだろう。


 拳に大量の神力を集めたアグニは、ふと太陽が眩しいことに気がついた。

 そういえば、ずっと下ばかり向いていて注意が逸れていた。


 しかも、アリサの吐いた血が目に入ったのでさっきから視界が霞んで……。


「まさかっ……!」


 こいつらは、何故ずっと無謀にも効かない攻撃を繰り返した?

 頭が悪いはずも無い、さらにアリサはなぜ激痛の中で笑った?


 そして最大の疑問点––––


「賢竜……、エーベルハルトはどこにいる……?」


 解答は、真上から降った激烈な閃光と……念波による、天界参謀スティンガーからもたらされた。


『アグニ様! 島の直上から現在飛翔体が落下中……! す、推定速度––––マッハ24!!!?」


「ッ!!!」


 ようやく気づく。

 こいつらは、最初からこのつもりで––––


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ