第479話・元勇者アーシャ・イリインスキー
更新頻度が不定期で申し訳ないです、エタるつもりは無いのでそこは安心して頂ければと。
––––ミリシア王都。
天界の暗殺部隊を葬った俺は、1つの建物の前へ来ていた。
白色基調の四角い構造に、ミリシア軍と赤十字のマークが付いた建造物。
そう––––ここは軍の保有する大病院である。
「さて、一般の病院なら面会希望で楽にいけるんだが……」
なんせ俺は部外者、まして会おうとしている人間が人間なので、通常だと突破不可能。
とりあえず、俺は病院の周辺にだけ『魔法結界』を張った。
「よっ」
空間が切り離され、人々の動きが停止する。
死の淵から目覚めて以降、以前はかなり苦労していた結界の制御ももはやお手のもの。
根本の魔力量が多くなったからかは不明だが、俺はとうとう“加減”を習得できていた。
部屋の位置は、ノイマンに頼んで特定してもらっている。
大きくジャンプし、4階の窓近くまで来てから『飛翔魔法』を発動。
指先に極焔を集中し、窓ガラスをなぞる。
15秒ほどで、ガラスは円形にくり抜かれた。
メテオールといいこれといい、以前は変身しなければ使えなかった魔法を今は素の状態で発動できる。
部屋に飛び込み、目当てのベッドへ向かった。
「やはり結界内でも動けるようだな、さすがは元勇者と言ったところか」
声を掛ける。
ベッドで上半身を起こしていたのは、長い銀髪を下ろした年上の女性。
今は全身病院着で、心なしか少し痩せて見える。
「……天に歯向かう竜王、わたしをただの人間に戻した張本人が、今さら何の用かしら?」
内容とは別に気さくそうな声を出したのは、アリサの実の姉にして元勇者。
アーシャ・イリインスキーさんだった。
以前の戦いで、王都を滅ぼしかけた張本人である。
「今さらも何も、必要だから来た……。あの時生かしはしたが、俺の大事なアリサを痛めつけてくれたお前を、俺は全く許していないしな」
「フッフ、それはそうね。でもしょうがないじゃない……アリサはわたしにしか救えないんだもの」
頬を吊り上げ、青色の目でこちらを見つめる。
「あの子はまだ幼い……姉のわたしや天に全てを任し、楽しく生きる方が絶対に幸せなのよ」
「フンッ、笑わせる……アリサの自由意志を束縛するのが幸せかよ。そんなんだから実の妹に見限られるんだぜ?」
この女がここに入院してしばらく経つが、アリサは1度も見舞いへ来ていない。
おそらく、もう干渉する気は無いのだろう。
「そう言うあなたも……アリサを見限ったんじゃなくて? 聞いたわよ、大天使様がいるフェイカー島へ彼女達を行かせたって」
挑発するように、アーシャは微笑んだ。
「人間じゃ天使に絶対勝てない、そーんなことも分からずに恋人を死地へ送り込んだのねぇ。次に再会する時は墓場かしら」
「死地ね……確かにそうだ、否定しないよ」
一歩近づき、俺は堕ちた勇者を見下ろす。
「だがアイツらは俺が認めた“竜”だ、俺にしか倒せない奴らだ。人間じゃ天使に勝てない? あり得ないな……完全な間違いだ。アイツらは––––この世で俺にしか倒されない」
絶対の自信でもって言葉を放つ。
彼女達は俺の大事な恋人だ、最愛の人間だからこそ断言できる。
「……ずいぶんと信頼してるのね」
「当たり前だろうが、みんな可愛い見た目してるけど……中身は常に俺をぶっ倒そうと突き進む野心家揃いだ。お前如きじゃ計り知れない」
「フフッ、ただのハッタリや傲慢じゃなさそうね。良いわ……ここは命を救ってくれた恩義で引いてあげる。用件を言いなさい」
近くにあった椅子を掴み、雑に座る。
「ラインメタル大佐から聞いた、勇者となった者は天界人の眷属と同然の状態となる。今のお前なら知っているはずだ––––“初代竜王級テオドール・エクシリア”について」
俺の言葉に、笑みを崩さずアーシャは人差し指を立てた。
「条件があるわ」
「なんだ?」
「あなたの––––竜王級アルス・イージスフォードの【本当の目的】を教えて? 家族が欲しいのともう1つ、絶対に叶えたい夢、いや……願いがあるんでしょう?」
数秒の沈黙の後、俺は頷いた。
あらかじめ期待するなと前置きし、短く答える。
それは、俺が竜王級となってから抱いた最初にして最後の夢––––
「クスッ……、ハハ! あっははは! それがあなたの“目的”!? 傑作だわ、もしわたしが小説家なら絶対オチに使わないわよ!」
一通り大笑いしたアーシャは、1分ほどしてようやく息を深く吸った。
「フゥ……まぁ、夢なんて基本単純なものよね。特別な存在の抱く夢がいつも特別だなんて、わたしの偏見だわ」
「こっちは答えた、次はお前の番だぜ」
「わかってるわよ、じゃあ断片的だけど教えてあげる––––初代竜王級と、わたしが眷属となったミニットマン様の目論む『パーティー』について」




