第477話・双竜の大立ち回り
直上から現れた2体の竜に、防衛陣地を築いていた天界軍は完全に意表を突かれた形となった。
空で光った紫色の輝きが、凄まじい勢いで急降下。
ニッと笑ったアリサは、魔力全開で拳を叩きつける。
「滅軍戦技––––「追放の拳』ッ!!!」
必殺の一撃は、半径数百メートルの塹壕ごと天界兵を吹っ飛ばした。
地面がめくり上がり、紫色の大爆発が噴火のように広がる。
「ッ!! 何が起きた! この状況––––敵は砲撃できんはず」
防衛部隊を率いていたグラートは、自身の杖で飛んで来た破片を弾く。
煙の奥には、眩しい魔力を纏った1人の少女が立っていた。
「アレは……、まさか」
ツーサイドアップにされた長い髪は、まるでアメジストを彷彿とさせる色合いを放ち、全身を激しいオーラと紋様が包んでいた。
凛とした紫色の瞳が、こちらを向く。
「魔壊竜……ッ! っということはッ」
すぐさま杖を振り、大気が僅かに揺れた方へガードを行う。
だが、
「ぐぉっ!!?」
グラートの身体がくの字に曲がる。
イカヅチと同じ速度で突っ込んできたミライが、杖ごと彼を蹴り飛ばしたのだ。
「雷轟……竜ッ!」
激しく地面を転がったグラートは、勢いそのまま海岸まで吹っ飛んでしまった。
上がった水柱を見て、ミライは一言。
「あちゃー、ちょっとやり過ぎたかしら……」
彼女もまた、全身をバーナーのようなオーラと激しいスパークが覆っていた。
ポニーテールは黄金に輝き、瞳はエメラルドグリーンへ変わっている。
「良いんじゃない? どうせ後で捕まるでしょ」
「そうね。さて、じゃあこっちは兵隊さんが前進できるようにしますか」
振り向けば、焼け焦げた地面から次々に球状の砲台が迫り上がってきた。
地下に格納されていた、130ミリ陽電子砲だ。
航空機から戦艦、果ては弾道ミサイルにまで通用する驚異的な兵器である。
「アリサちゃんって、アレ無力化できたっけ?」
「うーん……、レーザーだっけ? 魔力や神力じゃなくて別の粒子の類だからなぁ。無理かも」
「そっか、んじゃ––––」
杖を先端に構え、ニヒルな笑みをミライは見せた。
「直接ぶっ壊しましょう」
地を蹴ったミライは、音速を軽く超えて距離を詰めた。
赤色の陽電子ビーム砲が一斉に放たれるが、天界の誇る火器管制システムを使ってなお、彼女を捉えることはできない。
「滅軍戦技––––『雷轟撃突弾』ッ!!!」
一閃の光と共に、4基の砲台が貫かれた。
爆発を背に、ミライは空中で姿勢を変える。
「アリサちゃん!」
「おっけいミライさん!」
開いた射線を縫い、走り込んで来たアリサが思い切りジャンプ。
宙で手を繋ぎ––––
「いっけえぇッ!!」
勢いのまま、アリサを放り投げる。
ミライをカタパルト代わりにしたアリサが、ビームを掻い潜り、陽電子砲群の中央へ突っ込んだ。
「吹っ飛べッ!!!」
気合い一閃。
落とされた全力の踵落としは、その細い足から放たれたとは思えない威力だった。
まさに爆発と言って良い。
昇降機能付きの複合装甲が、紙粘土のごとく潰れたのだ。
衝撃が広がり、周囲の砲台は軒並み飛んできた破片で抉れてしまった。
「……こんなの、アルスくんが放つ攻撃に比べたらぬる過ぎるね。130ミリなんて中途半端な口径にするからこうなるんだよ」
見れば、破壊された装甲部分から通用口が見えていた。
ここを起点にすれば、歩兵部隊が地下に侵入できるだろう。
近づいて来た連合軍歩兵に、アリサがこっちだと手を振ろうとして––––
「ッ!! 止まって!!!」
背後から響いたミライの叫び声と同時に、雷の壁が兵士たちの眼前に降り注いだ。
進軍は強制的に止められ、驚いた兵士たちが「なぜ味方をっ」と抗議しようとしたが、
「ッ!?」
兵士たちのすぐ前を、天から落ちたレーザーが横切った。
もしミライの妨害が無ければ、部隊はあっという間に蒸発していただろう。
「––––感の良い竜だ、先にその目を潰すべきだったかな?」
アリサが振り返ると、空に何重もの魔法陣が浮かんでいた。
砲撃で崩れかけている巨城の上に、声の主は悠々と降り立つ。
「まさか本当にお前たちが来るとは思っていなかったぞ、ドクトリオンを葬りし生徒会の双竜……」
執事のような風貌だが、背中からは白色の翼が広がる。
身長は190センチほどあり、整った顔立ちで彼––––“大天使アグニ”は瞳を金色に染めた。
「『パーティー』の準備の邪魔はさせん、ミニットマン様が不在の今––––この島を陥されるわけにはいかないんでな」
瞬間。アリサとミライの血界魔装が強制的に解除された。
魔力が四散し、2人の髪の色が戻る。
以前、冬のコミックフェスタでアルスが戦った時に使われた……“変身封じ”の魔法だった。
天界の大天使……それはまだ、竜王級であるアルス以外に倒せた存在がいない敵だ。




