第475話・オーバーロード作戦
島の地表を、十重二重の大爆裂が襲い掛かった。
一体どれだけ高位の魔導士を集めれば、これほど激しい攻撃の再現ができるだろうか。
結論としては無理だろう。
この世でただ”竜王級“を除いて、ここまで激しい制圧攻撃を行える者は存在しない。
まさに、地獄の業火と言えよう。
「第1打撃艦隊、統制対地射撃を開始しました。全任務部隊––––所定行動を開始」
「展開中のA1連隊へ、ただちに上陸予定ポイントへ前進せよ」
「揚陸支援艦、近接対地攻撃準備よろし」
洋上で待機していた強襲揚陸艦から、おびただしい数の上陸部隊が海へ飛び出していた。
海面を埋め尽くすほどのそれは、水陸両用戦車350両、上陸用舟艇600隻を誇る連合軍の第一梯団だ。
激烈な艦砲射撃を背に、フェイカー島へ突っ込んでいく。
「B2連隊揚陸開始、対地支援射撃始め」
オペレーターの指示で、陸上部隊を吐き出した強襲揚陸艦の平たい甲板上に、動きがあった。
本来トラックなどを乗せるスペースに、“多連装地対地ロケット砲”がズラリと並べられていたのだ。
その全弾頭が、島へ向けられる。
「発射用意––––発射ッ!」
海岸に近い揚陸艦隊から、一斉にロケット砲が発射された。
火炎を引いた弾頭が、シャワーのように島の地表へ降り注いだ。
先程の空爆を点での攻撃とするなら、今行われているのは砲弾とロケットによる“面”制圧射撃である。
常時フェイカー島へ、文字通り鉄の雨が襲い続けた。
露出していた陣地が弾け飛び、天使は肉片も残らず消し飛んでいく。
だが、これほどの大砲撃をもってしても被害は出た。
「C1連隊よりHQ! 揚陸艦が隠蔽された陽電子砲に狙われている!! もっと火力が必要だ!!」
現場はまさしく大戦争の様相を呈していた。
波を割って突き進む上陸部隊、そのすぐ上を支援のため飛行していた戦闘機が、ビームの直撃を受けて爆発した。
それを受けて、お返しとばかりに直掩の重巡洋艦と軽巡洋艦が接近––––主砲に加えて、艦側面の対空砲を水平射撃して制圧する。
機関砲の弾幕が森を引き裂き、木々を薙ぎ倒す。
「HQより作戦司令官へ、第一梯団の70%が海岸に到達。25%が間も無く上陸。5%は撃沈されました」
「E、F、G連隊へ通達。ただちに上陸準備を開始せよ」
「こちらA3連隊! 海岸で掩蔽壕から攻撃を受けている!! 天使共の魔法だ! 火力支援を要請する!!」
連合軍は物量であっという間に西海岸を制圧したが、島の奥からは依然として抵抗が見られた。
これだけの支援射撃を受けてまだ生きているとなると、やはり強固な地下陣地があると考えて良い。
既に島周辺の海域は発砲の黒煙で染まっているが、連合軍は火力の密度を上げることにした。
「潜水艦隊、およびミサイル駆逐艦隊より巡航ミサイル多数発射。弾着まで30秒」
「巡洋艦隊は海岸10キロまで接近し、敵火力を徹底的に叩け。揚陸部隊を援護せよ」
さらにここで、フェイカー島の上空を大量の黒点が覆った。
鳥ではない、空母から発艦した第二次攻撃隊の爆撃機だ。
同時に先ほど発射された巡航ミサイルが島の各所へ弾着する。
黒煙が上がり、陽電子砲が火を吹いて爆発した。
攻撃は続く、
爆炎に覆われたと思った瞬間、さらに業火が重ねられたのだ。
爆撃隊総数200機による、航空爆弾の一斉投下である。
雲を突き破り、島の表面を吹き飛ばした。
途中、何機かがビーム砲によって落とされたが、編隊は決して乱れない。
落とされた大型爆弾が、周辺陣地ごと砲台を破壊する。
「第2梯団発進、第1梯団全軍は前進––––工場の入り口を目指せ」
この時点で、島へ着上陸した歩兵の数は3万を超えていた。
戦車に至っては300両以上が生存。
ビーチに大量の迫撃砲を設置し、支援を行いながら前進を開始する。
目指す先は地下に造られたフェイカー製造工場、そこを完全に制圧することが任務だった。
だが、ここで連合軍は障害に遭遇する。
「こちらC2連隊!! 地下道から大量の天使が出て来ている!! 近接されていて砲撃できない!」
「HQへ報告! 地下壕からの待ち伏せです! 接近され過ぎて砲迫支援ができません!!」
地下から大量に湧いて出た敵兵が、残骸群を利用して奇襲してきたのだ。
互いの距離は数十メートルであり、随伴の戦車が機銃で応戦するほどである。
「第1梯団の侵攻速度、65%低下。このままでは犠牲が増えます」
この距離だと、戦艦の砲撃では味方ごと焼き払ってしまう。
どうにかして突破を画策していた時、HQにある一報が入った。
「『レッド・フォートレス』より入電、……蒼天より竜来たる?」
謎の符号が口に出されると同じくして、1機の輸送機がフェイカー島へ突っ込んでいく。
それは、作戦が第3段階へ進んだ合図だった。




