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第474話・スチール・レイン

 

「おい! こっちに埋もれてるヤツがいる! 引っ張り出すのを手伝ってくれ!」


 連合軍による1回目の奇襲爆撃が行われたフェイカー島では、天界兵による懸命の救出活動が続いていた。


 巨城はその頂上部が折れ落ちており、森林区画や要塞地帯においても被害は甚大だった。

 陽電子砲は地表に露出していた物の実に70%が破壊され、歩兵陣地に瓦礫が降り注いでしまっている。


 守備中隊長のグラートは、煙を上げる瓦礫の山を踏みつけながら指揮を執っていた。


「軽傷者から優先して医療施設へ連れて行け! 戦力復旧が第一だ!!」


 声を必死に張り上げる。

 そんな彼の足元にも、ミサイルの破片が直撃して重傷を負った天使が倒れていた。


 しかし、今は誰も助けようとしない。


 戦場においては、ただちに戦力が回復できるよう傷の浅い者から優先して治療される。

 今、守備隊に死亡すると分かり切っている天使を救う余力は無かった。


「クソッ……、全くどうしてこんなことに。敵に空爆されるなんざ想定外だ……!」


 頭を掻きむしるグラート。

 ほんの数時間前まで完全無敵の防壁に守られていた彼らだが、今やその傘を失ってしまった。


 まさか、航空機を転移魔法でワープさせてくるなど誰が想像できただろうか。


 とにかく、島の被害は甚大……可及的速やかなる復旧が求められた。


「急いで瓦礫をどかせ! 魔法で吹っ飛ばしても良い! 予備の陽電子砲を上に上げるんだ!!」


 このフェイカー島は、元々大天使スカッドが整備した製造拠点だ。

 彼が竜王級によって倒された後、接収する形でミニットマンが手に入れた。


 なので、島の防衛装置は当然ながら後付けに等しい。

 スペースの問題で、地下に格納できる装備が限られてしまったのだ。


 グラートの目の前で、瓦礫が粉砕される。

 荷重が無くなったことを確認すると、地面が割れ、中から新しい陽電子砲が上昇して来た。


 これで多少は火力も回復するが、全ての格納型レーザーを地上に出しても全力の50%が限界。


 何より、超神力防壁の消失があまりに痛手過ぎた。

 グラートはついさっき、司令部に“天界”からの航空機増派を要請した。


 だが、運の悪いことに天界は現在––––この星の裏側を周回中だった。

 増援の早期到着は期待できない。


 グラートは焦りを感じながらも、冷静さを保とうと心に誓った。

 状況は極めて厳しいが、彼らが立ち向かわなければならない現実に変わりはない。


 ここで、全員に向かって声を張り上げる。


「同志たちよ、この状況から抜け出すためには、我々自身が踏ん張らなければならない。増援は期待できないが……我々は天界軍の一員だ。今は自分たち以外に頼れる存在はいないのだ!」


 グラートは声を強め、周囲の兵士たちに訴えた。

 すると、応急処置を終えたばかりの天使が腕を上げる。


「そうだ! 野蛮人共に俺たちは負けない! そうだろみんな!」


 兵士たちはグラートの言葉に勇気づけられ、再び闘志を燃やした。

 彼らは一つの目標に向かって団結し、力を合わせることを改めて誓ったのだ。


 グラートは、確かな手応えを掴む。


「よし! まずはこの島を再建するための処置を確立しよう。瓦礫をどかし、追加の医療施設を設置し、被害の拡大を食い止めることが最優先だ。それから、可能な限りの戦力を回復させる方法を考える!」


 グラートは大雑把に指示を出した。


 それに合わせて兵士たちも一斉に作業に取り掛かり、瓦礫をどかし、簡易施設を建設するための準備を進めた。

 一方で、残存している陽電子砲を最大限に活用する方法を模索する。


 グラートは考え込んだ。

 増援が期待できない中、戦力をどのように回復させるか。

 彼は思索するうちに、新たなひらめきを得た。


「そうだ……陽電子砲の無事な箇所は取り外し、修復可能な部品を利用して他の陽電子砲を復旧させよう。そうすれば火力を回復することができるだろう」


 いわゆる共食い整備に近いが、今贅沢は言っていられない。


 兵士たちはそのアイデアに同意し、グラートの指示のもと、破損した陽電子砲の修復作業を開始した。

 彼らは培ってきた技術と経験を駆使し、必要な修理を素早く行った。


「よしっ、このペースならきっと間に合––––」


 悪寒が走る。

 絶望は、水平線上からゆっくりと現れた。


「なんだ……あれはっ」


 さっきまで穏やかだった海に、ポツポツと黒い影が浮かび始めたのだ。

 しかも、数が尋常ではない。


 あっという間に海の向こうは、鉄の塊で押し潰された。


「全員!! 即刻作業中止せよ!! 掩蔽壕に退避!!!」


 グラートが必死に叫ぶが、事態は既に手遅れだった。

 島より20キロの沖合に浮かんでいたのは、15隻の超弩級戦艦を筆頭とする連合艦隊。


 その先頭を航行するのは、アルト・ストラトスが誇る最新鋭超弩級戦艦。


「全艦! 方位盤と連動! これより統制対地射撃を開始する!」


 旗艦––––超戦艦『グリフィス』が、46センチ主砲3基9門を真横に指向する。

 合わせて他の超弩級、および弩級戦艦36隻、重巡洋艦55隻も砲を向けた。


「全艦!! 撃ちー方ー始めッ!!」


「全艦! 撃ちー方ー始め!!」


 洋上を、史上空前となる火薬の炸裂が覆い尽くした。

 波は弾け、海が割れる。

 黒煙が空へ舞い、衝撃波が大気を叩いた。


 100隻に匹敵する大艦隊から放たれた大口径砲弾が、弧を描いて島へ向かい突っ込んでいく。


 死者も生者も関係なく、島を抉る鉄の雨(スチールレイン)が降り注いだ。


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