第471話・師団級転移魔法
––––アルスフィア洋。
アルト・ストラトス王国海軍第1機動艦隊は、フェイカー島を守る鉄壁のA2AD突破を企図した作戦を発動した。
オーバーロード作戦の、肝となる第一段階である。
「偵察機より報告! 前衛艦隊の陽動開始およびICBMの飛来を確認!」
島からおよそ230キロの位置を航行していた航空母艦『レッド・フォートレス』から、命令を受けて次々に艦載機が発進していく。
彼らは第1航空戦隊と呼ばれる精鋭であり、そんな彼らを臨時といえ率いるのは––––
「エンジン始動を確認、スターターチェックよし」
コックピットに座った王国駐在武官、ジーク・ラインメタル大佐は、マニュアル通りに発艦手続きを素早く行なっていた。
機体前部のプロペラが、数瞬遅れて高速で回転を始める。
航空管制員が旗を振り、発艦せよとの指示が出された。
ペダルを操作し、スロットルレバーを握った。
「ジーク・ラインメタル、発艦する」
エンジン出力を引き上げ、目一杯に加速。
飛行甲板を飛び出した戦闘機は、一瞬だけ重力に引かれるがすぐさま揚力によって上昇。
大艦隊の上空を覆うように、エンジン音を響かせながら飛翔した。
その様子を艦橋から見ていたルクレール将軍は、ニヤリと笑みを浮かべる。
「陽動の様子はどうだ?」
「はっ、将軍。現在ICBM5発がフェイカー島へ着弾寸前です。予定通り、敵は『超神力防壁』を展開しました」
「よろしい、第一次攻撃隊の発艦状況は?」
「90%が上空で待機中、他空母では第ニ次攻撃隊も準備中とのこと」
ルクレール将軍は、本作戦における“切り札”をついに披露することとした。
それは、眼前を航行する一見無害そうな輸送艦だった。
真の名を––––
「魔導士母艦に伝達、“師団級転移魔法”の照射準備を開始せよ」
「了解」
“師団級転移魔法”。
転移魔法とは、通常自分1人を瞬間移動させる高位技術だ。
ルクレール将軍は、そんな転移魔法が使える魔導士を数千人集め、数隻の輸送艦に乗せた。
これにより人間1人などではなく、大規模航空部隊を短距離だが敵地へ瞬時にジャンプさせることを可能としたのだ。
「魔導士母艦より連絡、転移準備よろし!」
「こちら航空管制、第一次攻撃隊––––全機発艦完了! 上空での編隊形成も終了しました!」
いよいよこの時が来た。
天使達は、完全無敵のバリアに胡座をかいている。
この好機を逃すなど、ありえなかった。
「師団級転移魔法––––照射ッ!!」
「了解! 照射開始!」
4隻の魔導士母艦から、サーチライトのように光が上空に伸びていく。
後方から飛んできた大編隊が、次々と光に包まれた。
淡く輝いた機体は、まばたきする間に上空から消えていってしまう。
光は続々と艦載機部隊を飲み込み、やがて最後の1機が消えていった。
ほぼ同時刻、バリアに覆われたフェイカー島において異常が発生した。
防壁の内部に眩しい光が現れたかと思った矢先––––
––––パッ、パパッ––––
超神力防壁の“内側”に、ジーク・ラインメタル大佐率いる第一次攻撃隊が突然転移して来たのだ。
敵からすれば、まさに青天の霹靂だろう。
「成功だな……」
眼下には、完全に無防備なフェイカー島が映った。
戦闘機のハードポイントには。高性能爆薬入りの多連装ロケットランチャーが付いている。
大佐は、兵器の安全装置を解除した。
攻撃開始




