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第468話・大人の責務

 

「やぁルクレール上級大将、死にかけた気分はどうだい?」


 戦闘機から降りたラインメタル大佐を、艦橋から降りてきたルクレールが迎える。

 周囲には、未だ対空砲火の黒煙が残っていた。


「ありがとう大佐、おかげで空母ごと沈まずに済んだよ。レーダーで君が突っ込んでくるのはわかっていたから、やってくれるとは思っていたがな」


 そう、空母に搭載されたレーダーは接近するラインメタル大佐の機体を捉えていた。

 けれども将軍は、大佐の腕を疑わなかった故に誤射上等の対空砲火を続けさせたのだ。


 マトモな思考ならあり得ない選択だが、どちらもマトモじゃないのだから仕方がない。

 大佐はルクレールの判断を尊重しつつも、1つ苦言を呈する。


「さっきも言ったが、兵士が少々VT信管に頼り過ぎている。たった30機の円盤程度……キチンと落とすよう教育したつもりなんだがな」


「それについては今後の訓練要目に入れるとして、しかし……」


 機体を見上げたルクレール将軍は、満足そうに頷いた。


「本当に数日で艦載機のパイロットになるとは、さすがに驚かされる。先ほども見事な着艦だった」


 通常、戦闘機のパイロットになるには機密レベルの高い航空学校という場所へ通い、長い年月を掛けて習得していく。

 天性のセンスも必要となってくる上に、元の難易度が他の兵器とは比べ物にならない。


 それだけに、たった数日で熟練以上のパイロットへ変身したラインメタル大佐は––––まさしく天才であった。


「必要が必要であっただけだよ将軍、いつまでも子供たちだけに負担を強いるなぞ、大人として良くないだろう?」


「仰る通りだ、我々も軍人としての責務を果たそう」


 ラインメタル大佐は、飛行甲板から前方を航行する輸送艦を見つめた。

 波を割って、空母の前を進んでいる。


「なるほど、アレが不落の要塞を落とす“切り札”というやつか。空母はさしずめ囮という感じかな?」


「あぁ、ミサイルで突破できないなら……別の方向からこじ開けるだけだ。相手の防御能力は、威力偵察で大体把握した」


 天界の守るフェイカー島は、どんな標的も遠距離から撃ち抜く陽電子砲。

 さらに、ICBMすら防いでしまう反則級のバリアを備えている。


 これを突破するのに、正攻法で挑めば間違いなく大損害が出る。

 ならばと、ルクレール将軍が考案した作戦はこれら諸問題を一気に解決する案だった。


「ジーク・ラインメタル大佐、現時刻をもって君を第1航空戦隊、臨時戦隊長へ任命する。今から5時間後––––君には特別航空隊を率いて、フェイカー島を覆う防御シールドの無力化を行ってもらう」


 端正な顔の両端を吊り上げたラインメタル大佐は、歓喜の渦へ飛び込むが如き笑みで答える。


「了解致しました将軍、天に住まう天使共へ––––天空からの鉄槌を下して見せましょう」


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