第466話・制空戦闘
フェイカー島を発進したのは、いずれも黒色の小型円盤だった。
これは天界の標準航空機で、大気圏内においても固定翼機と同様の機動ができる兵器だ。
今までと違う点があるとすれば、機体下部に無理矢理ながら爆弾や魚雷を積んでいることだろう。
やたらと低速なのも、それが理由だった。
「アグニ様のご命令だ、敵の空母機動艦隊を叩く。全機––––ついてこいよ」
「「「了解!!」」」
先頭を飛行する12機は、武装を陽電子機関砲に限った戦闘機タイプのもの。
他の爆装、雷装した機体が無事敵艦隊まで辿り着くための護衛だった。
大天使アグニが考案した作戦は実に大胆であり、豪傑そのもの。
近接防空の手厚い上陸部隊をあえて後回しにして、先に後方の空母艦隊を叩くというものだ。
通常であれば機動艦隊の位置など、広大な海で掴めようはずもない。
しかし、アグニは衛星軌道上の【天界】から艦隊の位置を貰っていた。
連合王国同盟からすれば、まさに突然の奇襲。
偵察機に発見される頃には、艦隊防空の内側へ入り込んでいるという算段だ。
「敵艦隊までの距離、あと70キロ!」
編隊を組んだ円盤部隊が、高速で飛行していく。
ここまでは本当に順調そのものであり、もし敵戦闘機が来てもこちらのフェイズド・アレイ・レーダーで一斉に補足。
先制攻撃を仕掛けられる。
このレーダーは、機体全周数百キロ以内にある400目標を同時追尾できる先進兵器。
まさに完璧な作戦であり、フェイカー島司令部にいるアグニも笑みを隠せなかった。
開戦早々に、敵は空母機動艦隊を失うのだ。
ようやく空を飛び始めた土人共に、天空の支配者が誰か教えてやろう。
そう誰もが考えていた時––––
「えっ」
信じられないことが起こった。
先頭を飛んでいた戦闘機円盤部隊が、真上から降り注いだ機関砲に貫かれたのだ。
さらに、誘導爆弾を抱えた円盤も5機が叩き落とされる。
直後、上空からすれ違ったのは、先端にプロペラを付けたレシプロ戦闘機……。
つまるところ––––敵だった。
「ッ……!! 飛行隊長戦死! 全機編隊を乱すな! 護衛隊は応戦を開始せよ!!」
「なんだ! 何が起きた! レーダーには何も反応しなかったぞ!!」
あまりに不可解な出来事に、航空部隊は浮き足立った。
すぐさま迎撃しようとするが、ここでコックピットのアラートが鳴り響いた。
「ロックオンアラート! 敵の対空ミサイルだ!!」
「回避! 回避!!」
今まさにこれからドッグファイトというところで、敵の艦対空ミサイルが発射されたのだ。
追撃を断念し、すぐさま回避機動を取る。
さらに追加で、ECM(電子的妨害装置)を起動。
天界製の強力なそれは、対空ミサイルの精度を狂わせ、あらぬ方向へ飛翔させた。
これで敵の状態は掴めた、後は見つけたヤツらを叩き落として––––
「があぁっ!?」
思考する間も無く、今度は雷撃円盤7機がまた真上からの機関砲で撃墜された。
さらに、その流れで制空円盤も戦闘機に背後へピッタリとくっつかれた。
「なんで……! こいつら一体どこから!?」
20ミリ機関砲が、黒色の機体を撃ち抜く。
反応しないレーダー、虚空から突然現れる敵機により、円盤部隊は完全にパニック状態となった。
護衛を失ったことにより、重武装の円盤はまさしく“的”と化す。
鈍重で被弾面積の大きい機体など、バルーンを撃ち抜くより簡単に落とせた。
攻撃部隊が艦隊を目視で捉えられる距離まで近づいた頃には、円盤の数が30を切ってしまっていた。
だがこちらが持っているのは、誘導爆弾に誘導魚雷。
まだ勝機はあると信じていた円盤部隊は、爆撃と雷撃の2隊に分かれ、艦隊の近接防空エリアへ突っ込んでいった。
勇敢な彼らを迎え撃つべく、推定70隻の艦船が対空砲火の発射を始めた。




