第463話・変態探偵と性欲女
重い回が続いたので中和回。
あと、ミライは真面目キャラじゃないです。
––––王都、アルト・ストラトス大使館
もはや見慣れた異国の空間。
形式的には外国扱いになる厳正なこの場所だが、アルスたち生徒会にとってはもうよく行く溜まり場のようなもの。
指定された作戦ルームへ最初に到着したのは、茶髪をいつものポニーテールに纏めたミライだった。
白が基調の学園制服に、マフラーを巻いた姿で入室する。
「アレ、わたし以外来てないじゃん」
U字型の机に、とりあえず荷物を置いた。
こういう時、妙にソワソワしてしまうのは何かの性だろうか。
暇つぶしに、ふと部屋を見渡してみた。
「国旗に……、モニターに……、天井には逆十字? まるで飾り気ゼロね〜」
そう言いながら椅子に座ろうとした時、閉めていた扉が開いた。
「ふぁ〜、おはようミライさん……」
眠そうな顔を出したのは、同じ制服を着たアリサだった。
隠すことなくあくびをして、椅子に座るやいきなり突っ伏してしまう。
「おはようアリサちゃん、見るからに眠そうだけど……ちゃんと寝た?」
「ん〜、寝たというか気絶してたというか……。とにかく全力出し過ぎたんだぁ〜」
見れば、いつもしっかり手入れされた髪が少し立っている。
バイトを頑張り過ぎたのだろうか……、気を利かしたミライが、鞄からクシを取って近づく、
「触って良い?」
「良いよ〜」
どこか幸福感に満ちた返事。
仕事が充実していたんだろうと思い、そのまま髪を溶かし始めて––––
「……アリサちゃん」
「なぁに?」
「シャンプー変えた?」
ミライの質問に、首だけ寝返りをうちながらアリサは答えた。
「なんか同じ質問を昨日もされた気がするけど、変えてないよ。“家のは”」
「ふ、フーン……」
顔を赤らめながら、アリサの柔らかい髪を手入れしていく。
漂ってくるのは、いつもの彼女の匂いではなかった。
それはとてもわかりやすいもので、もう何度も嗅いだことのある匂い。
わざと髪をワシャワシャして、もう一度匂いを嗅ぐ。
やはり同じ。
「もう一度聞くわね、シャンプー変えた?」
「変えてないよぉ、ミライさんってばどうしたの? 男子だったらキモがられる台詞トップ10だよそれ」
遂に呆れられるも構わない。
なぜなら、今のアリサからは––––
「アリサちゃん、御免ッ!」
「わひゃあぁあ!?」
サラサラに伸びたアリサの後ろ髪へ、ミライは顔面からダイブ––––ようするに突っ込んだ。
さらに言えば、その中で思いっきり深呼吸した。
まごう事なき変態行為である。
「ちょっ……! ミライさっ、んはっ! 何を……」
突然匂いを嗅がれた側からすれば、背後からナイフを刺されたも同然の驚き。
勢いよく立ち上がり、変質者から距離を取った。
当の変態行為実行者は、顔を真っ赤にしながら息を荒らげていた。
そして、答えを口にするのである。
「やっぱり……! 今日のアリサちゃん、“アルス”と“カレンちゃん”の匂いがする!!」
検証完了。
アルスとカレンは、同じ家に住んでいることから使うシャンプーが一緒なのだ。
反抗期時代こそ別だったが、今のカレンにアルスへの忌避感は存在しない。
そんな2人と全く同じ匂いがする。
これはつまり––––
「アリサちゃん、アルスの家に泊まったわね……?」
「ッ!」
探偵のように振る舞っているが、実際はただの変態行為であることにミライは気づかない。
しかし、いきなり王手飛車取りを食らったに等しいアリサは、誤魔化しという概念を完全に忘れていた。
「そ、そうだよ!! 行ったよ、一緒に寝たよ!」
「寝た……! まさか、アルスとヤッたの?」
恥ずかしそうにコクリと頷くアリサ。
「え、えっ!? アリサちゃん、それって本当!?」
ミライは目を丸くし、興奮したように改めて問い返した。
アリサは少し困ったような表情を浮かべながらも、また頷いた。
「うん……昨晩、アルスくんの家に泊まったんだ。不安がどうしても抑えきれなくて……」
「やっ……」
無断で先を越したことに怒られると思ったアリサは、目を瞑って怒鳴り声に備える。
けれども、直後に飛んできたのは全く正反対の言葉。
「やっるぅアリサちゃん! 一番奥手だと思ってたのにまさか過ぎる展開だわ! アルスとの関係がここまで進展してたなんてビックリしちゃった!」
ミライは大興奮で手を叩きながら言った。
ホッとする反面、今さら羞恥心が湧き出す。
アリサは顔を赤らめながら、ミライを押さえつけるような目つきで見つめた。
「ミライさん、言っとくけど、これは秘密だよ。絶対生徒会以外の人には言わないでね」
ミライは真剣な表情で頷いた。
「もちろん、アリサちゃんの秘密は守るわ。でも、ちょっとだけ話を聞かせてくれる? アルスとのエピソード、どんな雰囲気だったかめっちゃ気になるじゃない!」
ここはさすがヲタク女子。
すぐさまメモを取り出し、ウキウキでインタビューを開始しようとして––––
––––ガチャッ––––
背後の扉が開いた。
「あら、アリサっちにブラッドフォード書記……早いですね」
振り返ったミライとアリサは、思わず絶句した。
そこには、金髪のてっぺんからスカートまでを、スプラッタ感満載の“血まみれ”にしたユリアが立っていたからだ。




