表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

463/497

第463話・変態探偵と性欲女

重い回が続いたので中和回。

あと、ミライは真面目キャラじゃないです。

 

 ––––王都、アルト・ストラトス大使館


 もはや見慣れた異国の空間。

 形式的には外国扱いになる厳正なこの場所だが、アルスたち生徒会にとってはもうよく行く溜まり場のようなもの。


 指定された作戦ルームへ最初に到着したのは、茶髪をいつものポニーテールに纏めたミライだった。

 白が基調の学園制服に、マフラーを巻いた姿で入室する。


「アレ、わたし以外来てないじゃん」


 U字型の机に、とりあえず荷物を置いた。

 こういう時、妙にソワソワしてしまうのは何かの性だろうか。


 暇つぶしに、ふと部屋を見渡してみた。


「国旗に……、モニターに……、天井には逆十字? まるで飾り気ゼロね〜」


 そう言いながら椅子に座ろうとした時、閉めていた扉が開いた。


「ふぁ〜、おはようミライさん……」


 眠そうな顔を出したのは、同じ制服を着たアリサだった。

 隠すことなくあくびをして、椅子に座るやいきなり突っ伏してしまう。


「おはようアリサちゃん、見るからに眠そうだけど……ちゃんと寝た?」


「ん〜、寝たというか気絶してたというか……。とにかく全力出し過ぎたんだぁ〜」


 見れば、いつもしっかり手入れされた髪が少し立っている。

 バイトを頑張り過ぎたのだろうか……、気を利かしたミライが、鞄からクシを取って近づく、


「触って良い?」


「良いよ〜」


 どこか幸福感に満ちた返事。

 仕事が充実していたんだろうと思い、そのまま髪を溶かし始めて––––


「……アリサちゃん」


「なぁに?」


「シャンプー変えた?」


 ミライの質問に、首だけ寝返りをうちながらアリサは答えた。


「なんか同じ質問を昨日もされた気がするけど、変えてないよ。“家のは”」


「ふ、フーン……」


 顔を赤らめながら、アリサの柔らかい髪を手入れしていく。

 漂ってくるのは、いつもの彼女の匂いではなかった。


 それはとてもわかりやすいもので、もう何度も嗅いだことのある匂い。

 わざと髪をワシャワシャして、もう一度匂いを嗅ぐ。


 やはり同じ。


「もう一度聞くわね、シャンプー変えた?」


「変えてないよぉ、ミライさんってばどうしたの? 男子だったらキモがられる台詞トップ10だよそれ」


 遂に呆れられるも構わない。

 なぜなら、今のアリサからは––––


「アリサちゃん、御免ッ!」


「わひゃあぁあ!?」


 サラサラに伸びたアリサの後ろ髪へ、ミライは顔面からダイブ––––ようするに突っ込んだ。

 さらに言えば、その中で思いっきり深呼吸した。


 まごう事なき変態行為である。


「ちょっ……! ミライさっ、んはっ! 何を……」


 突然匂いを嗅がれた側からすれば、背後からナイフを刺されたも同然の驚き。

 勢いよく立ち上がり、変質者(ミライ)から距離を取った。


 当の変態行為実行者は、顔を真っ赤にしながら息を荒らげていた。

 そして、答えを口にするのである。


「やっぱり……! 今日のアリサちゃん、“アルス”と“カレンちゃん”の匂いがする!!」


 検証完了。

 アルスとカレンは、同じ家に住んでいることから使うシャンプーが一緒なのだ。


 反抗期時代こそ別だったが、今のカレンにアルスへの忌避感は存在しない。


 そんな2人と全く同じ匂いがする。

 これはつまり––––


「アリサちゃん、アルスの家に泊まったわね……?」


「ッ!」


 探偵のように振る舞っているが、実際はただの変態行為であることにミライは気づかない。

 しかし、いきなり王手飛車取りを食らったに等しいアリサは、誤魔化しという概念を完全に忘れていた。


「そ、そうだよ!! 行ったよ、一緒に寝たよ!」


「寝た……! まさか、アルスとヤッたの?」


 恥ずかしそうにコクリと頷くアリサ。


「え、えっ!? アリサちゃん、それって本当(マジ)!?」


 ミライは目を丸くし、興奮したように改めて問い返した。


 アリサは少し困ったような表情を浮かべながらも、また頷いた。


「うん……昨晩、アルスくんの家に泊まったんだ。不安がどうしても抑えきれなくて……」


「やっ……」


 無断で先を越したことに怒られると思ったアリサは、目を瞑って怒鳴り声に備える。

 けれども、直後に飛んできたのは全く正反対の言葉。


「やっるぅアリサちゃん! 一番奥手だと思ってたのにまさか過ぎる展開だわ! アルスとの関係がここまで進展してたなんてビックリしちゃった!」


 ミライは大興奮で手を叩きながら言った。

 ホッとする反面、今さら羞恥心が湧き出す。


 アリサは顔を赤らめながら、ミライを押さえつけるような目つきで見つめた。


「ミライさん、言っとくけど、これは秘密だよ。絶対生徒会以外の人には言わないでね」


 ミライは真剣な表情で頷いた。


「もちろん、アリサちゃんの秘密は守るわ。でも、ちょっとだけ話を聞かせてくれる? アルスとのエピソード、どんな雰囲気だったかめっちゃ気になるじゃない!」


 ここはさすがヲタク女子。

 すぐさまメモを取り出し、ウキウキでインタビューを開始しようとして––––


 ––––ガチャッ––––


 背後の扉が開いた。


「あら、アリサっちにブラッドフォード書記……早いですね」


 振り返ったミライとアリサは、思わず絶句した。

 そこには、金髪のてっぺんからスカートまでを、スプラッタ感満載の“血まみれ”にしたユリアが立っていたからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ