第460話・ルクレール将軍の策謀
艦長は緊張した表情でルクレール上級大将に近づき、攻撃の成果を報告した。
島の図は艦内指揮所の大スクリーンに映し出されており、そこには一連の戦闘の様子が鮮明に映し出されていた。
「ルクレール将軍、我が艦隊の攻撃結果ですが……。巡航ミサイルに対して敵は予想以上の成果を挙げた様子です。全てのミサイルが撃墜され、戦略軍のICBMも通じていないようですな」
艦長は顎を触りながら隣に立ち、そう報告した。
ルクレール上級大将は満足そうに頷きながら、深く息を吐く。
「素晴らしいじゃないか、天界のA2ADシステムがここまでとは。なかなかの力量だ、大袈裟な威力偵察をした甲斐がある」
そう、一連の攻撃は防がれること前提のもの。
フェイカー島の防衛システムを検証するため行った、ルクレール将軍の軽いジャブだった。
「しかし……、これだと艦隊はおろか航空機も近づけませんな。あのビーム砲は非常に厄介です」
艦長の言葉が指揮所に響く。
だが、ルクレールの顔は全く狼狽えておらず、彼の目は冷静さを帯びていた。
「あぁ、確かにその通りだ。あのバリアも通常攻撃ではおそらく貫けないだろう」
艦長と乗組員たちは、ルクレール上級大将の言葉に緊張を覚えたが、その不安を将軍はすぐさま拭った。
「だが破れんことは無い、“ある方法”を使えばな」
「ある方法……? もしや噂の竜王級ですか?」
「いや、諸事情で今彼には頼れない。我々大人が踏ん張らねばならん」
「ではどうやって? ありったけの巡航ミサイルで飽和攻撃を仕掛ける……とかですかな?」
飽和攻撃とは、一つの目標に対して多数の攻撃を同時に仕掛ける戦術のことだ。
しかし、ルクレール将軍は微笑みながら首を振った。
「いや、それでは通じないだろう。我々の敵は防御力が非常に高い……、並の飽和攻撃では到底通用しない」
艦長と乗組員たちは、困惑した表情を浮かべた。
彼らはフェイカー島の防衛システムに、打ち勝つ方法を見つける必要があったからだ。
ルクレール将軍は瞳を細め、思案深げに言った。
「私が考えているのは、単独の攻撃ではなく、連携した多角的なアプローチだ。艦隊の最も効率的な運用、統一された行動をとることが重要だ」
艦長は興味津々で尋ねた。
「具体的には、どのような連携ですか?」
ルクレール将軍は壮大な作戦を描きながら言葉を続けた。
「まず、このミサイル艦隊は遠距離からの攻撃に特化させ、フェイカー島の防衛網を牽制しつつ、その隙をついて”特殊部隊“を派遣する。彼らは敵の防御網を突破し、内部から島の防衛システムを制圧する役割を果たす」
艦長と乗組員たちは目を見開いた。
それは大胆な作戦であり、多くの困難が伴うことは明らかだった。
しかも、そんな都合のいい特殊部隊など、本当にいるかもわからない。
ルクレール将軍は静かに続けた。
「さらに、我々は各種ミサイルを連携させ、島のバリアを継続的に攻撃する。もし作戦の初動が完璧に終わり……バリアが崩れれば、全艦隊による本格的な大規模攻撃––––そして“上陸”が可能となるだろう」
艦長と乗組員たちはルクレール将軍の策略に希望を抱きながら、準備を始めた。
フェイカー島の攻略は容易ではないが、彼らは一丸となって挑み、敵の強固な防衛網を打ち破ることを決意した。
そして、ルクレール将軍の言った特殊部隊とは……“とんでもない方法”で敵陣へ突っ込むイカれた精鋭のことだった。




