第459話・ミサイル攻撃
海面を低空で飛行する物体が、編隊を組んでフェイカー島に真っ直ぐ突っ込んでいた。
流線的な黒いフォルムに加え、後部には尾翼とロケット推進装置を備えた兵器。
アルト・ストラトス王国軍の保有する、V2A3長距離巡航ミサイルだった。
ハエが耳元を飛ぶような、特徴的なエンジン音を響かせ距離をドンドンと縮めていく。
この兵器は俗に言う亜音速ミサイルで、音速以下の速度で正確に目標へ着弾する。
この世界においては、非常に高位の魔導士にしか落とせない代物だが……。
––––ビッ––––!!
突如飛んできた赤色の光線が、巡航ミサイルへ直撃。
一瞬で4発が撃墜された。
水平線から顔を出した瞬間、フェイカー島の数カ所でさらに光が放たれる。
禍々しいそれらは、まるで獲物へ喰らいつく蛇のようにミサイル群を襲った。
殆ど音速に近い巡航ミサイルが、海面上で次々に撃ち落とされていく。
その精度は絶大で、どれもが確実に弾頭のど真ん中を貫いている。
光の正体は、天界が地上に設置した“130ミリ無砲身陽電子ビーム砲”。
球状の形をした砲台が、水平線上のミサイルをいとも簡単に撃墜していた。
およそ20秒も経たない内に、56発のミサイルは全て撃ち落とされてしまう。
これが天界の築いたA2AD。
文字通り、近づく物体は容赦なしに殲滅してしまった。
しかし、まだこれで終わりではない。
島の遥か上空––––大気圏外から突っ込んでくる物体があった。
––––キィイィイイィィイイインッ––––!!!
先端の尖った5発の大陸間弾道ミサイル(ICBM)の弾頭部分が、一斉に大気圏へ突入。
実にマッハ23という超高速でフェイカー島に接近していた。
天界の築いたA2ADシステムは、巡航ミサイルに対しては驚異的な防御力を見せたが、ICBMとなると話は別だった。
大陸間弾道ミサイルは大気圏外から突入するため、その速度と威力は圧倒的だった。
島の表面にいた天界人たちは、恐怖に震えながら島の防衛システムが機能を果たせるかどうかを見守っていた。
しかし、突如として静まり返った空間に、城から一筋の光が放たれた。
それはフェイカー島の防衛システムが作り出した巨大なエネルギーバリアだった。
バリアは島全体を包み込むように展開し、ICBMが接近すると強力なエネルギー膜で弾頭を迎え撃ったのだ。
同時に、陽電子ビーム砲も仰角を真上に向けて撃ち放った。
2発が迎撃され、3発がすり抜けるも……。
「おぉ!」
天界人たちが歓声を上げる。
ICBMがバリアに接触した刹那、瞬間的に膨大なエネルギーが城から放出され、爆発と共にその弾頭は粉々になった。
一斉に飛来した5発のICBMは、まるで花火のように空中で炸裂し、その光景は圧倒的な美しさを持っていた。
島の住民たちは、バリアの活躍に歓喜し、安堵の表情を浮かべた。
だが、戦いはこれで終わらない。
巡航ミサイルのカメラ、そして軌道上の衛星によって、事の全ては後方へ情報として送られていた。
「攻撃やめ、以上で威力偵察を終了せよ」
島から200キロほど離れた海域に、6隻の軍艦が浮かんでいた。
それは『アルフォン級ミサイル巡洋艦』と呼ばれる、アルト・ストラトス海軍の最新鋭艦だった。
先の巡航ミサイルも、この艦隊が放ったものである。
「A2ADか……、天界。侮り難し」
戦闘指揮所(CIC)でモニターを見ながら笑みを浮かべていたのは、刈り上げた髪に豪胆な顔と身体付きを持った軍人。
先の遺跡殲滅で圧倒的な武勲を収めた、
ラロナ大陸方面軍統括作戦司令官、ルクレール上級大将だった。




