第457話・カレンの告白
「わたしっ、アルス兄さんのことが好き……、兄妹じゃなくて。“異性”として好きッ」
放たれた本音は、俺をもってしても全身に痺れを与えるものだった。
カレンが俺を……好き?
兄妹じゃなく、異性として……。
嘘を言っているようには見えない。
ベッドの中で、こちらへ身を寄せながら震えていた。
涙目で、必死で、懸命に想いを伝えようとしている。
けれど俺は––––
「ッ……、悪い。カレン」
「っ!!」
選択した答えは……否定。
彼女の想いを、受け止めることはできなかった。
「俺はお前の兄で、マスターからはそういう関係だけを許されている。すまないカレン……俺は、お前の望むような関係にはなれないんだ」
カレンの望みを受け入れれば、この家の全てが崩壊してしまう。
文字通りの家庭崩壊だ。
「グス……ッ。そう言うとは思ってた」
「すまない……」
「謝らないで、良いのよ……どうせわかってたことだから」
罪悪感で胸がいっぱいになる。
俺は、こんな小さい女の子の願い1つ叶えられないのか……。
「じゃあ兄さん」
カレンの顔がより近くなる。
今まで意識なんざしていなかったのに、心臓の鼓動が速くなった。
「兄さんに、別のお願いがある……」
「なんだ? 言っておくが、お前が義妹である限り俺は––––」
言いかけたこっちの言葉を、カレンがより早い声で塞いだ。
「わたしを……、兄さんの“実の妹”にしてっ」
………………は?
一瞬何を言われたかわからなかった。
理解が追いついていない俺へ、矢継ぎ早にカレンは畳みかける。
「義妹だからダメなんでしょ? そんなの知ってる、じゃあ話は簡単––––わたしが兄さんの本当の妹になれば良いっ」
「ちょいカレン……、お前。自分でメチャクチャ言ってるって分かってるか?」
「メチャクチャかどうかはわたしが決める! 兄さんはYESかNOでキッチリ答えて!」
「NOに決まってんだろ! 余計悪くなってんじゃねえか!」
「じゃあわたしを受け入れなさいよ! 家庭に見捨てられたわたしを、今更家庭が縛りつける道理なんざない! しがらみなんか放り捨てて、ちゃんと兄さん自身が選んで!」
「……!!」
正直に言うと、迷う自分がいた。
このワガママで、どうしようもない駄々っ子に……少なくとも俺は僅かな好意を抱いてしまっている。
これを否定するのは、カレンに対しての侮辱も同然。断固ありえない。
下手をすれば、彼女の両親が与えた苦痛をもう一度俺が味わわせてしまう。
けど、そうすればマスターとの関係が––––
「……兄さんのそういうところ、好き。めっちゃ世間体気にするの可愛い」
「お前のせいなんだが? こんな無茶を突きつけられる身にもなってくれよ。そもそも実の妹とかどうやってなるつもりだ?」
「そんなの簡単でしょ」
微笑んだカレンが、またも劇的過ぎることを呟く。
「兄さんと“同性”の名前になる、ポーツマスを捨てて、イージスフォードになるの。そしたら実質実の兄妹じゃん」
「色々と違う気がするけど……、とりあえずマスターが許さんから却下」
幼いゆえか、言うことがメチャクチャだ。
でもカレンは、まだ諦めない。
「グラン兄がダメって言うんなら、その本人に認めさせれば良いんでしょ?」
「それが無理だから言ってんだろ」
「無理じゃない」
俺の服を掴みながら、カレンは目を合わせてくる。
「グラン兄に見せてやれば良い、もうとっくにガキじゃないって……! 守られるだけの子供じゃないって」
「ッ……」
「改めて言わせて––––アルス兄さん」
力強い瞳が、俺を押さえ付けた。
「今度のオーバーロード作戦で、天使共を死なずに無事地上から追い出せたら––––わたしを恋人にして欲しい。わたしを兄さんの、彼女にして欲しいッ」
遂にカレンは言い切った。
確かに今度の作戦を成功させれば、マスターもカレンのことを一人前として認めるだろう。
こうまで言う少女を止める力は、もう俺に無い。
「わかったよ……、今度の戦いが無事終わったら。お前の望む関係になってやる。その代わり、ちゃんとマスターとは折り合いつけるからな」
「うん、それで良い。ありがとう……アルス兄さん」
抱きついてくる妹は、本当にどうしようもなくワガママで……どうしようもなく可愛い。
俺たちは互いの温もりを感じながら、ゆっくりと眠りに落ちた。




