第454話・最悪のファーストコンタクト
現在より半年以上前のこと。
それは、まだ俺が王立魔法学園の生徒会長になる前で、ユリアとも面識が無かった時代。
未だ冒険者としての垢が抜けていなかった、ある日の昼。
「そういうわけで、今日からカレンのお義兄さんになる––––アルス・イージスフォードくんだ」
住み込み4週間目にして、なんとマスターの妹が俺の前に現れた。
紹介されるまでもなく如何にも冒険者という雰囲気で、マスターと同じ亜麻色の髪が兄妹であると証明している。
「は、初めまして。アルスって言います……お兄さんにはいつもお世話になってます」
見た目にして13歳くらいの彼女は、俺を見るや大きくため息を吐いた。
「義兄って……、本気で言ってんのグラン兄?」
「あ、あぁ……アルスくんは数週間前からウチに住み始めてね。実質家族みたいなものだから、カレンにも紹介をと––––」
轟音が響き、玄関の壁にヒビが走り渡った。
衝撃の源は、カレンという少女が殴りつけた拳だ。
「ふざけんなッ! こんな芋臭い男がわたしの義兄? 笑わせるにしてもセンス無さすぎ、気でも狂った?」
めっちゃ怒ってる……。
なんだよこの子、見た目すげえ可愛いのにトゲ激しすぎか。
ツンデレのデレだけを抜いた、特大のツン少女だろこれ。
「アルスくんはただの青年じゃないよ、なんと言っても“竜王級”魔導士だからね」
マスターの言葉に、少しだけ表情が変わる。
「ッ……」
拳が壁をゆっくり離れると、破片がボロボロと落ちる。
カレンの瞳は、未だ虫を見る目だった。
「フーン、そいつがねぇ……じゃあ噂の竜王級ってのは大したこと無かったってわけか」
靴を脱ぎ、フローリングの床へ上がって俺に近づく。
どことなく良い匂いが、鼻を触った。
「わたしはわたしより弱いヤツに興味なんて無い、アルス……いや、アルス兄って呼ばせてもらうけど。調子乗ってたらすぐぶっ飛ばすから」
「一応兄とは認めてくれるんだな」
「暫定よ。どうせこの家には滅多に帰らないし、グズが1人増えたところで……仕事の邪魔さえしなければそれで良いわ」
「カレン、口が過ぎるよ」
「グラン兄は黙ってて、はー……朝から気分悪いわ。シャワー浴びるから……覗いたら共々ぶっ殺すわよ」
指を差し、それだけ告げると風呂場の方へ言ってしまった。
沈黙する俺に、マスターが頭を下げた。
「すまないねアルスくん、気を悪くさせた。カレンは昔は大人しくて口もこんなに悪くなかったんだけど……」
「いえ大丈夫です、罵詈雑言は慣れてるので。逆に嬉しいですよ」
俺はカレンが砕いた壁を触り、強さの一端を感じ取る。
「妹ができた……、家族のいなかった俺にとってこんなに嬉しいことはそうありません。確かにちょっと口は悪いですが––––」
振り返り、ニッと微笑む。
「いつか“兄さん”って呼んで貰えるよう、頑張りますよ」
こうして、カレンとの荒々しいファーストコンタクトは終わりを告げた。
第一印象は確かに最悪だった、嫌われてすらいただろう。
まぁ結局その後色々とあり、現在は––––
「なんだよ腕引っ張って……、頭痛がキツくなる」
「やっ、やっぱこの話やめよ? 昔過ぎて当時の自分が恥ずかしい……からさ。”アルス兄さん“」
数ヶ月後の今日、憧れだった呼び方を今俺はされている。




