第452話・アルスの目的の果て
––––夜9時。
俺が大天使ミニットマンに殺されかけたことは、ユリアを通じてチャットアプリのロインですぐさま全員へ伝わった。
即死こそ免れたものの、高熱でぶっ倒れてしまった旨を伝えるとすぐにみんなが来てくれた。
特に感情を乱していたのはアリサで、ベッドで寝る俺を見るやタックルする勢いで抱きついて来た。
バイトは良いのかと聞くと「今君より大切なものなんて無いんだよ……!!」と、半泣き状態で言われてしまった。
目的自体は達成できたが、みんなに心配掛けちまったか……。
「これで良かったかは、後にならんとわからないな……」
天井を眺めながら一言。
高熱で頭が怠い、初めて明確に命を削られたのだと実感が湧く。
恐怖はあまり無かったが、他に方法もあったんじゃないかと思わんでもない。
いや、これを言っても結果論か。
「体調治ったら、今度みんなに飯でも作らねーとな」
今は3人共、俺を休ませるためか早めに引き上げ––––揃ってどこかへ向かった。
おそらくだが、アルト・ストラトス大使館だろう。
俺が参加する予定だった『オーバーロード作戦』。
それに、彼女たちは加わるつもりだ。
『ではここまで予定通りですか、相変わらず身を張った賭けがお好きですね』
枕元のミニタブから、呆れ口調のノイマンが喋りかける。
「こうでもしないと、敵から情報取れなかったんだし仕方ないだろ。ユリアも……明確に”壁“を感じたと思うし」
『街の監視カメラで見ていましたが、彼女……大使館の帰りに公園のベンチで、暗くなるまでずっと座り込んでましたよ』
「そう言われると、罪悪感湧くな……」
おでこのタオルを撫でる。
今回の戦闘で、ユリアは初めて俺以外の化け物級と遭遇した。
普段自己肯定感マックスで、自らを天才と自称する彼女からすれば……ミニットマンとの差は許し難いものだろう。
ユリアの自信は最大の強みだが、同時に最大の弱点でもある。
彼女が新たな進化をするには、ヤツと一戦交えるのも必要だったと言えた。
『竜王級、あなたの目指す目的––––もう一度教えてもらえませんか?』
「ゴホッ、なんだよ急に……家族だよ。俺は俺だけの家族を作る。それが目標だ。前にも言わなかったか?」
5秒ほど沈黙したノイマンは、スピーカーから声を出す。
『もう1つ、別の目標があるんじゃないですか? 今言った”目標の果て“が』
「……なんのことかな? 別に悪巧みなんぞしていないが」
『以前やったミライちゃんとの決闘、大怪盗イリアとの決戦、勇者騎士団との戦闘、そして––––今回のミニットマン襲来。どうにもあなたの思惑が見え隠れするのですよ』
「最善の策を取り続けてるだけだよ、結果的に全部勝ってる。どこに問題が?」
『極論を言えば、今までの戦い全部。竜王級たるあなたが––––最初からその全力をもって相手を屈服させれば済んだ話では?』
「っ……」
『あなたは合理的に見えて、いつも肝心なところでその合理性を否定しています。今回だって、ユリアちゃんに壁を感じさせる必要も、みんなを作戦に参加させることも無かったはずです』
「んーと、熱が高くてわかんないな〜」
『惚けないでください、あなたはいつも本当に必要な場面でしか皆んなを助けません。まるで、彼女たちが“成長”することを待っているように』
「……」
『絶対無敵、最強にして最恐を誇る竜王級。どんな相手でも必ず負けないあなたが抱く––––もう1つの目的。いや、願いと言って良い、それは……ッ』
語気を強めたノイマンが、最後の一言を言い放とうとした瞬間。
ノックも無しに勢いよく扉が開かれた。
「アルス兄さん……ッ」
立っていたのは、俺の義妹––––カレン・ポーツマスだった。
一瞬違和感を感じたが、答えはすぐにわかる。
亜麻色の長い髪が濡れており、風呂上がりっぽい雰囲気なのにいつもと違ってちゃんと寝間着を着ているのだ。
純白のパーカーに小さな身体を覆い、黒のショートパンツから華奢な足が出ている。
普段ならシャツとパンツ1枚なのに珍しいと思った矢先––––
「今日、わたしここで寝るから」
衝撃的過ぎる発言が飛び出した。




