第451話・オーバーロード作戦
「で、イージスフォードくんは無事なんだな?」
––––美術都市レクイエム郊外、アルト・ストラトス陸軍航空基地。
長大な滑走路が備えられたここは、固定翼航空機を運用するために整備された基地。
ひっきりなしに戦闘機や輸送機が着陸する中、航空団司令部の屋上でミニタブを持った軍人がいた。
「そうか、即死級魔法を食らって生きているのはさすがと言ったところだが……」
王国駐在武官、ジーク・ラインメタル大佐は手すりにもたれながら呟く。
彼の姿は、いつもの軍服と違った。
「死を免れたとはいえ……”実質戦闘不能“か、回復にはどれくらい掛かりそうなんだい?」
通話の相手は、この国で大英雄と呼ばれる男。
グラン・ポーツマスは深刻そうな声色で返した。
『最低でも1週間かと……、これでも常人と比べれば驚異的ですが。今しばらく待てませんか?』
「すまないが無理だろう、『オーバーロード作戦』の開始は3日後だ。それを過ぎれば先日の世界同時攻勢––––その衝撃力が失われる」
『では……』
「あぁ、フェイカー島の攻略は予定通り行う。たとえ竜王級の加勢を得られなくともな。連合大艦隊は目標から400海里の海域まで明日中に展開する」
攻撃機の編隊が、上空を横切った。
『申し訳ありません大佐、転移魔法の妨害をこうもアッサリ抜かれるとは……。大天使ミニットマンは想定外の強さでした』
「謝ることはない、それより君は聞いたかな?」
『聞いたとは……何をです?』
「これより開始される本命のオーバーロード作戦……、本当はイージスフォードくんだけを参加させる予定だったが。メンバーに変更が入りそうだ」
ラインメタル大佐は、柵から空を見上げながら届いた報告をそのまま教える。
表情が少し固くなった。
「本作戦に先程、ユリア・フォン・ブラウンシュヴァイク・エーベルハルトくん。アリサ・イリインスキーくん。ミライ・ブラッドフォードくん。そしてカレン・ポーツマスくんが直接志願して来たよ」
『……本当ですか』
「全員が揃って大使館へ直談判に来たらしい、もちろん理由は1つ––––」
時計を見た大佐は、滑走路に目を移す。
「イージスフォードくんの仇討ちだよ、死んでないのに大袈裟だとは思ったが」
『……大佐は許可したのですか?』
「判断を下すのは私ではなく参謀本部だ、けれど予想することはできる」
『あぁー……、大体わかりました』
「そうだよ、その通りだ。参謀本部も彼女らの恐ろしい強さは十分知っている。賢竜、魔壊竜、雷轟竜、蒼焔竜––––イージスフォードくんに代わって彼女らが作戦の一翼を担うだろう」
柵を乗り越えたラインメタル大佐は、数十メートルある高さを難なく飛び降りた。
着地と同時に、なんでもなく歩き出す。
「今までの全世界攻勢は、全て『オーバーロード作戦』のためだ。使える戦力は全部使うさ……」
『大佐も含めてですか』
「あぁ、無論私も今回は前線へ赴く。戦争だ、久しぶりの戦争だ。心が踊って仕方ないよ––––だから王都の守りは君と……なんだったか? 正義のすーぱー」
『大怪盗です』
「そのネーミング、変えることはできんのかね? いくらアイリ王女殿下といえど少し世俗に浸りすぎじゃないか?」
『無理ですね、本人が相当お気に入りのようでして』
「まぁ良い、王都は自分たちの手で守りたまえ。じゃあ––––生きていたらまた会おう」
通話を切ったラインメタル大佐は、いくつもある格納庫の前に立つ。
「お待ちしておりました、ジーク・ラインメタル大佐」
迎えたのは、航空指導教官のバッチを付けた軍人。
彼の後ろにあるのは、1機の固定翼戦闘機だ。
武装は20ミリ航空機関砲2門。
さらには翼下へ小型爆弾、ロケットランチャーを搭載するための取付機がついている。
さらに他の機体と違い、翼には”逆十字“がペイントされていた。
「既に着替えはお済みですね?」
「もちろんだ、このパイロットスーツはなかなか新鮮で良い」
「お似合いですよ、では早速この試作機に乗ってください。これより”上級教育プログラム“を開始します。貴方なら今日中にでも修了できるでしょう」
頬を吊り上げた大佐は、頭に掛けていた航空用ゴーグルを目の前に下ろした。
「あぁ、よろしく頼む」
オーバーロード作戦まで––––あと3日。




