第449話・初代竜王級
ミニットマンは俺の言葉にしたり顔を浮かべ、初代竜王級についての情報を話し始めた。
遂に、太古の謎のベールが剥がれるのだ。
「じゃあまずおさらい! 初代竜王級はね……天界人であり、今は休眠状態にある神と同じ存在なの」
いきなり出て来た神というワードは、きっと大袈裟でも何でもないのだろう。
何故ならそいつが……天界のトップであろうからだ。
休眠状態ということは、今はまだ活動していない……できない理由があると見るべきか。
「わたし達天界はね、遥かな昔にこの世界へ来たの。その時のボスがそいつ––––【初代竜王級テオドール・エクシリア】」
「テオドール……」
そいつが一番最初の竜王級。
魔導士のランクは、元々天界人たちが作ったと言っていた。
つまり、そのテオドールというヤツが……ランクの発案者。
「色々聞きたいことがあるが、とりあえず整理させてくれ。さっき違う世界から来たと言ってたな?」
「そうよ、正確に言えば別の宇宙……異世界から来たと言っていいわね。ここからの距離にしたら––––”10の118乗光年“彼方かしら」
それはあまりにデカすぎる数字。
例え光年をメートルに換算しようが、誤差にしかならないレベルで1の後に0をつけなければならない距離だ。
「そりゃ……大変な長旅ご苦労なこって、思ったより遠くから来たエイリアンだったんだな」
「エイリアンであり、異世界人ね。まぁ同じ人型ヒューマノイドに変わりはないんだけどね」
そんな距離から来たのなら、こいつらの寿命も推定できる。
初代竜王級が休眠状態との情報も合わせれば––––
「お前らは、寿命を克服したんだな」
「あら、察しが良いじゃない、その通りよ。わたし……こういう見た目だけど結構年上だから」
「じゃあロリババアか、いい歳してそのゴスロリはどうかと思うぞ」
「ふっざ……!! 人のファッションは関係ないわよ! わたしはいつだって若くいたいの!」
「はいはい、話逸れたがテオドールについてもっと教えてくれ。具体的にどういうヤツなんだ?」
若干憤った様子のミニットマンだが、追加の飴玉を口に放り込むことで落ち着きを取り戻した。
「ふぅ……初代竜王級、さっき聞いたアンタの情報で確信したからもう断言しちゃうわね。テオドールは一言で言えば––––」
大天使ミニットマンは、俺を指差した。
「アンタと一緒よ、思考以外ね」
「当然だな、同じ竜王級なんだし」
「テオドールは驚異的な魔法力と、神秘的な知識を有するわたし達の”神“よ。アイツは他の存在とは比べものにならないほど強力な魔法を使いこなし、自然の法則すら操れたと思う」
「なるほど、天界人なら……当然神力も使えるんだよな?」
「もちろんよ、第一天使は存在自体が信仰心の受け皿みたいなものなの。だから他の天使に比べて、遥かに高い神力を持っていたわ」
ミニットマンは深く考え込んだ後、感嘆の表情を浮かべながら続けた。
「初代竜王級の力と存在感、それはまさに神のようなものよ……。彼女が休眠状態に入ってしまった理由は、今でもわからない」
彼女はその後も説明を続けた。
大天使ミニットマンは、初代竜王級の眠りに関して知る唯一の天使であること。
彼女は長い年月をかけて初代竜王級を見守り、その力が暴走することのないように見張っていたとも。
「テオドールの眠りは、天界と地上の安定を保つために重要なの。アイツが力の制御を失った場合、世界に混乱と破壊がもたらされる恐れがあったわ」
「つまりアレか、結論から言うと––––」
これまで出た情報をまとめ、背もたれにもたれる。
「テオドールは……、今この瞬間も力を溜め続けてるってことだな?」
「そうね、だと思うわ。アンタが教えてくれた竜王級の特異体質……それを利用して莫大なエネルギーを蓄えてるんじゃないかしら」
初代竜王級、テオドール・エクシリアが目覚めた時が––––おそらくこの世界の運命が決まる時。
大方は理解できた。
さて、最後に1つ質問してみよう。
「ふーん、魔力と神力……テオドールは両方使ったりするのか?」
「ぷっはは! あり得ない話はするもんじゃないわよ。【魔力】と【神力】は絶対混ぜられないから」
「もし混ぜたら……どうなる?」
「身体が爆散するんじゃない? やったヤツなんて誰もいないけど」
俺の目的は、ここに来てひとまず達成された。
これだけ情報を得れば十分だろう。
後は適当に話を切り上げて––––
「あっ、じゃあわたしそろそろ失礼するわね」
急に立ち上がるミニットマン。
「帰るのか?」
「えぇ、あなたのパートナーが来たみたいだから」
一瞬なんのことかと思ったが、答えはすぐに現れる。
「会長〜、今度出す新メニューについてなんですが……」
扉の前に立っていたユリアと、部屋を出る寸前の大天使ミニットマンが至近距離で遭遇した。
「逃げろ」と言うには、あまりに遅すぎた。




